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第90話 上手く出来ないもどかしさ

 side - 神楽ルカ


 そこから星井さんが保健室に戻る時間が来るまで、幾度も魔法のトレースを繰り返させて貰った。

 のだけれど。

 荒い息を吐く。

 何時の間にか、額に汗が流れるほど疲れていた。

 魔法の制御に加えて、単純に慣れていない事を繰り返すという事が負荷になっている。

 心理的にも焦りみたいなものがあったのもあるのかもしれない。だって、自分的には制御しようと頑張っていた魔法だが……


「最初の一回以外、発動しないなんて……」


 しゅん、と落ち込む。

 自分の中を蠢く魔力がこうも操れないなんて。

 最初の一回目に感じた手応えのような物が、繰り返すごとにするりするりと零れて落ちていくかのようだった。

 最後の最後、魔力を形あるものへと変える事が出来ず、何も起こらないまま放出された魔力が空中へと消えていく。

 肩を落とす私に、星井さんは元気出しなよと声を掛けてくれる。


「最初はそんなものだよ。魔法が使えない状態で学園に入ってきて、今すでに始まりを掴みかけた位置にいるんだから、自信をもっていい。始まりの時に言った通り、今出来なくても十分凄い事だからね」


 最初はみんな上手く出来ないのだから、私が焦ってもしょうが無い。

 魔獣との戦いの時にオリヴィアさんの役に立てるようになるかもと思ったけれど、それで焦って怪我しても、オリヴィアさんはきっと悲しむだろう。

 

「はい!」

「まぁ、僕の魔力誘導も、そう大して上手く無かったというのがあるだろうけれど……」

「そ、そんなことは無いと思いますよっ!」

「はは、そう言ってくれてありがとう。僕にとっても良い経験になったよ」


 笑ってくれたけれど、私自身がまだまだ魔法に関しては未熟な身なので、どれくらい励ましの言葉になるのかはわからなかった。でも、そう言わずには居られなかった。

 自らの手を握る。

 目には見えないけれど、確かに今日、今まで使えなかった新しい事に踏み込めたのは確かなんだと思う。

  

「僕はそろそろ保健室へと戻らせて貰うよ。入院している子もいるけれど、太陽守護の子達は今日も訓練しているみたいだし、運ばれてくる子もいるしね」

「太陽守護の方達の訓練って、そんなに危ない訓練をされてるんですか……?」


 普段、平日に太陽守護の人達が訓練している様子は見ない。

 彼ら彼女らも自分と同じ学生なので、授業が本分だからだ。

 授業中なのに訓練する所を見る事があるけれど、年次が違う人達ばかりだ。

 一年次では……時々参加しているのを見かけるけれど、きっと授業をサボっているのだと思う。


「休日は結構ガシガシやってるんだ、彼ら。模擬戦の場が何時も取れるわけじゃないから、中庭とかでよく見かけるよ。だから怪我をするときもある。保険室の常連だからね、彼らは」


 肩を少し持ち上げて笑った様子からは、特に悪い印象は無かった。

 むしろ、やんちゃだなぁと思っていそうな雰囲気すら漂ってきている。


「模擬戦の場はずっと太陽守護の子達が予約を取っちゃうから、基本的に彼らは当日空いた時にしか取らないよう言い含めてるぐらいだ」

「そうなんですね。確かにゼンさんやフィオさん達に稽古をしてもらってた時、たびたび見かけました」


 決闘のために、模擬戦の場へはたびたび通って予約していたから、太陽守護の人達がよく予約している事に関しては納得がいった。

  

「ただ、今は少しだけ静かかな。雷魔法の音も聞こえないし。……雷の使い手である太陽守護のトップがいないみたいでね。君の友人だろう?」

「ええと、フィオさんですか? 居ないという事は、街にいってるんでしょうか」


 いやいやと手を振る。


「そもそもヨルム王国に居ないみたいだよ。フィオくんが元々いたユピ神国に戻ってるって話だ」

「そうなんですね。ユピ神国というと、オリヴィアさんと同じ……」


 確かに生まれた国に戻るのなら、今ほど都合の良い時は無いかもしれない。

 ユピ神国なら馬で二日は掛かったと思う。

 ユピ神国とヨルム王国の間には、豊かな動植物が存在する森が大きく横たわっているらしい。

 オリヴィアさんに前聞いた話では、大きな道があって、道に沿うように宿が点々とあると言っていた。人々が生きていくために必要な貴重な森のため、ヨルム王国のみが接している魔森林を除いて基本的に森林の開拓は認められていないとは授業で習ったことだ。

 

「ユピ神国に行ったことは?」

「ありません。私、ヨルム王国からは一歩も出たことが無くて……」

「そうか。まぁ、あそこは建物が統一されていて、ヨルム王国と比べてかなり美しい街並みと言えるんだけど……街中は結構息苦しいね」


 懐かしい思い出を語る様に遠くを見ていた。

 

「行った事があるんですか?」

「あるよ。あそこはこの世界の中心国だからね。色んな情報が集まって便利なんだ。水魔法の勉強ではお世話になったよ――――今日はもう疲れてるだろうから、無茶しちゃだめだよ」

「はい! あの、練習に付き合って頂き、ありがとうございます!」

「僕も学園に務める先生の一人ではあるからね、問題無いよ」


 一人での練習を今後やるなら、発動させないように魔力のめぐりを意識するだけに留めるのが良いよと、最後にそういって星井さんは去って行った。


「ちょっと疲れちゃったな」


 ふうと一息を吐く。

 思ったより大きいため息が出た。

 すると、緊張で音が閉め出されたかのように周囲のざわめきが戻ってくる。

 それに校舎を乗り越えて学生達の声もまだ聞こえる。

 あれから一時間ぐらいは経ったと思うけれど、ずっと何かをやっている。

 多分星井さんが言っていたとおり、来る途中とかで見かけた太陽守護の人達がトレーニングをしているのだと思う。

 私ももう少しだけ頑張ろうかなと思ってみたものの、一歩踏み出した時に体のだるさを感じたので、無茶はしないという言葉どおり素直にやめておく。

 なら寮に戻る……にしては時間が早すぎるかなぁと思う。

 かといって街に行くには体がくたくたで、街についてもベンチに座ったら寝てしまいそう。


「んー……今日は図書室にいって本でも読もうかなぁ」


 学園の中でなら、最悪ずっと寝ていても大丈夫そう、とは少しだけ思った。

 寝過ぎてしまっても寮までは直ぐそこだから、帰りの馬車を気にして慌てる事も無い。


 そうと決まれば、神楽の、今日の残りの予定は決まったようなものだった。

 額の汗が引くのを待ってから、神楽は歩き出した。


次は土曜……じゃなくて30日木曜です。

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