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第09話 初授業

 買い物の後は、お互い次の日から授業ということで早々に就寝した。

 次の日、神楽の持っていた時計の魔道具で神楽と共に目覚め、着替えや食堂棟で朝ご飯を済ますと、十分な余裕を持って学校へと向かう。

 外に出ればとにかく空気が美味しいと感じる。

 朝日の下、緑の木々の間を抜けて――たまに間を馬車が走り抜け――歩く。

 同じように向かう生徒達の中で、新入生と既存学生は後ろから見ると何となく区別が付く。

 既存学生と思わしき人達の振る舞いは不揃いだが、新入生と思われる学生達は、新品の制服に、誰もが何となくキョロキョロとしていたり、ビシっと背を伸ばして歩いていたり、概ね共通の特徴があった。

 

「アタシ達もあんな風に見えるって事かな」

「どうでしょう。でも緊張してしまうのもわかります。もし、私がオリヴィアさんと出会ってなければ、きっとあんな感じだったと思います」


 手を胸に押し当てて考えに耽る姿は一枚の絵になる。

 背の高い木々から零れる光がちょうど当たると、それだけで完成されたスチルに見える。


「……まぁ、それに関してはアタシもそう思うよ」

「本当ですか? オリヴィアさんが緊張して歩く姿なんて、ちょっと想像出来ません」

「これでも、アタシは人見知りなんだよ」

「ふふ。それにしても、どんな授業になるんでしょうね。今から楽しみです!」

「基本的には魔森林に開拓する知識を身につける場だから、実践よりなんだろうけどね。アタシは座学も楽しみたいんだけど……」


 などと会話していたものの、


「つ、疲れました……」


 目の前には、へばっている神楽が居た。


 HRがまずあった。

 担任の紹介と、軽く自己紹介を行っていく流れに、強烈な懐かしさがこみ上げてきて少しだけ困ったものだ。

 最初の授業は、この国の歴史についての話だった。

 まず軽く、存在している全ての国――シペ帝国、ウィシュト共和国、ユピ神国に関して話をした後、ヨルム王国の歴史が始まった。

 現在は神暦800年が始まったばかり。

 この国にアタシが来たときには既に終わっていたが、国ぐるみでパーティもあったらしい。

 神暦が始まったとき、四つの国が生まれたのだという。つまり、どの国も等しく800歳というわけだ。

 神暦800年である程度は知っていたが、ゲーム中で語られる事はなかった歴史関係の話は興味深い。

 心の内で前のめりになったものの、今日は歴史の話はされる事がなかった。大部分はどのように授業を進めていくかの方針であったし、この学園の中でも比重は軽いらしい。

 

 次の授業は戦闘系だった。

 といっても、いきなり生徒同士の練習試合をやるわけではないようで、簡単に教師の挨拶があった後、すぐさま着替えて外に出るように言われ――――マラソンが開始された。

 

 いわゆる、戦闘に一番必要なのは体力で、これが無いとどうしようもないとの事。

 

 そして、神楽が走り終わったのが先ほど。

 アタシは神楽よりもだいぶ早めに既定回数をクリアしていた。なお、神楽は後ろから数えた方が早い終わりであり、アタシは上から数えた方が早い。

 しかしまぁ、

 

「噂に違わぬ、って感じね」


 とでも感想が出る。

 見渡せば、男子の方は言うに及ばず、女子も結構な人が走り終えている。それに全体的に走るペースが明らかに速い。遅い部類である神楽でも前の世界と比較しようものなら早い分類になるかもしれなかった。

 しかも初回から結構な距離を走らせるものだ。

 ゲーム中でも授業は過酷という話があった。

 何故か先輩達との合同授業が多い設定だったので、ゼン様がいることを期待したのだけれど、流石に初回でそれは無いようだと無念を消し飛ばすように首を振る。


「お、オリヴィアさんは……まだ余裕、ありそう……ですね……」 

「私は少しだけ鍛えたりしてたから」

「そう、なん、ですね……」


 知っている世界に転生したのだと理解したのは実は最初からではなく、ある程度成長してからだったのだけれど、その頃から自らの義務意外にも、この学園でやっていくために追加で鍛えていたりしたのだ。

 でも無ければ、入学式の時に突発的に動けなかったかもしれない。

 ありがたいことに、割合基準がゆるめなのか、奨学金モドキみたいなものも貰えているのも鍛えたお陰だったりする。奨学金と呼んだが、まぁ、この世界ではほとんどスポンサーみたいな物だ。スポンサーは学園トップの面々である。返金義務が無いあたり、人材確保に奔走しているのがわかる。

 アタシが飄々としていると、若干不思議そうな顔でこちらを見る神楽。

 

「外では、その口調なんですね」

「私にも、守りたい外面があるの」


 主にゼン様に見られる関連で粗暴な振る舞いをあのお方に見せるわけには行かない! たとえ、接点が無かったとしても、推しの居る空気には相応しい振る舞いが求められるの!

 ぐっと拳を握りしめるアタシを見て、不思議そうな顔を更に不思議そうにする。

  

「はぁ……」

「だから、基本的にはこのお話の仕方をするので、よろしくね?」

「わかりました」


 何となく納得いっていなさそうな主人公に近づくと、小声で口調を変える。

  

「そりゃ、人が居ないならこういう口調にもなるけど」

「ふふ、もうそっちの方がオリヴィアさんって感じで良いです」

「まったくこの子は……」


 疲れた様子でも笑顔になった神楽を見てため息をつく。

 画面の中では辛い事があっても、ぐっと耐えて何時だって笑顔。その笑顔を現実で見るとくらっとしてしまいそうになる。

 濁らせてはいけないのだけれど……辛めのイベントの件もあるし、今後のスタンスを真剣に考えよう。

 とりあえず、へたりつきそうな神楽に手を伸ばしながら言う。

 

「ほら、体は大丈夫? 次行くわよ」

「はいー」

「次は室内だから、しっかり休めるわ」


 と思っていたのだが。

 

「「魔獣解体訓練……」」


 多くの学生、特に女子学生と同じくして、思わず、二人してうっへりとしてしまうのだった。

 初日からハードな展開だけれども、教師の話を聞けば、魔森林攻略にあたって避けては通れない分野であり、最重要でもあるとのこと。

 そりゃ、素材を加工して生計立ててんだもんね、この国。

 各机に配られた子供ぐらいの魔獣。入学式で乱入してきたヤツに似ている。

 強烈な魔獣の体臭と漂ってくる冷気に、同じ机に配属されたクラスメイト男女共々(まだ名前を覚えてない)ただ震えて眺める事しかできない。


「はい、では今日はゴブリンの解体です! 例年は座学が先なんですけどね! 先日あった、入学式で襲い掛かってきた魔獣が出たのでとてもちょうど良かったんですよね! 狩りに行く手間が省けていやー良かった! 冷凍庫に入れていたので、まだまだ新鮮ですよ! はい、じゃぁまずはコイツを解体してから座学に行きましょう!」


 というか入学式の魔獣だった。

 何が良かった、だ! こんコンチクショウ!

 さぁナイフを持って! の声に、誰からいくよ? とばかりに同じ机の面々で高速に視線のやりとりを行った。

 結局は、第一陣としてアタシが行ったが……。


 流石に、常に戦いのあるこの世界でも解体に慣れているのは一部らしく、クラスメイトの半数は気分が悪くなって保健室に行くことになった。


 ……保健室のベッド数が多いのは、まさかこのためなんだろうか、という考えが一瞬過った。

ハードな仕事が続いたので週一にしてみます。次は土曜日です。

調子が良ければ水曜日にも投稿してみますがどうなることやら。


ストックはありつつも、未完結な状態で投稿を始めるのは初めてなんですが、プレッシャーが半端ないですね。

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