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第85話 魔森林の異変

「せいっ!」

「たぁ!」


アタシが剣を差し込み、ジェラルが離れた位置で力を込めた声を上げる。

 

「……!」


 そして、断末魔を上げること無くジェリーフェイカーが倒れた。

 今し方、ジェラルと共に一匹のジェリーフェイカーを倒した。

 あの最初の出現から数十分で二回も魔獣のグループにぶち当たったのだ。昨日は居なかったのに何処から来るのやら。 

 今回の戦いは、ジェラルが盾で触手を止め、アタシがトドメとなった。

 まぁ、触手はどう対処すればいいのかわからないので二人でわちゃわちゃしていたのを、見かねたカイトさんから役割分担してみたらと言われてそうなっただけだ。

 二本の触手は振り下ろされており、十分にジェラルくんが引きつけた後はアタシが一気に駆けよって刺すだけであっけなく終わった。

 今日の中で最短の戦闘時間だ。


「お疲れ様です、ジェラル。触手には慣れてきたようですね」

「う、うん……。メルベリはまだ慣れてない、みたい、だね」


 アタシとジェラルくんはジェリーフェイカーの苦戦を数度共にしたからか、ある程度普通に喋ってくれるようになった。

 ちょっとおどおどしている感があるのは変わらないけれど。

 

「私は魔獣とは相性が悪いようでして、慣れるまで時間がかかってしまうんですよね……。しかし、二対一だとジェリーフェイカーはここまで弱いのですか……」

「そう、だね。でも、最初の一撃は怖いし、俺じゃトドメを刺す力も無いそんなに無いから……」

「確かに」


 攻撃力の問題は確かにあるのだろうが、今回のクエストは大筋初心者練習なのだし、次があったら攻撃力の問題があったとしても攻守は交代しよう。


「次があったらジェラルくんがコアね」

「頑張るよ……」

 

 こうして何度か魔獣と戦うと、体力的な意味で危ないかと思ったが、カイトさんとアギトさんが初手で数をぼちぼち減らしてくれるのでそんな事はなかった。

 ちゃんと引率されているという感じだ。学校の授業で魔獣討伐した際を思い出す。

 周囲を見ると、アランは一人でジェリーフェイカーと戦っている。なお、ジェリーフェイカーの触手は片方が切り飛ばされている――――戦闘前にアギトさんがある程度痛み付けたのだ。練習の為に合わせた形だ。

 動きそのものは雑だけど、ジェリーフェイカーとの戦いという意味ならある程度は問題無いと言えるような動きだった。

 ジェラルくんと同じように小さい盾を何時の間にか装備していたが、ジェラルくんよりかはしっかりと攻撃を受け止めてコアへと攻撃を繰り返している。触手が引き戻されるぐらいに手間取ってしまってはいるようだが。

 昨日のゴブリンの戦闘時も、このグループより前の戦闘の時もそうだけれど、戦闘後の力み具合は気になる時があるが……こうして見ていると頑張っているなぁという感想が出る。


「アラン、大丈夫かな……」

「アランは君より経験が長いんでしょ?」

「うん……」

 

 気も漫ろな返答がくる。ジェリーフェイカーのコア……の半分を切り取って回収しているが、ジェラルくんの手は完全に止まっている。心配する気持ちはわかるので、しぶしぶアタシが取り出した。ぐっと体を開いて手を突っ込んでぐにゅっとしたコアを握って引っこ抜くだけの簡単なお仕事……とはいかず、コア周辺をナイフである程度切らないと取りづらい。

 

 アランくんの戦い方は、アギトさんからジェリーフェイカーとの戦い方について『無駄のない無駄な動きをしていた』と言われたアタシとは全然違う。

 呼吸はやや荒いし、緊張が目に見えているものの、しっかりと対処は出来ていると思う。

 カイトさんがアランくんを注視しており、アギトさんは周辺を軽く見渡していた。彼らの傍にはゴブリンが二匹とジェリーフェイカーが一匹いたはずだが、草木に隠れてよく見えない。

 あ、アギトさんと目があった。

 軽く会釈する。


「あっ」


 というジェラルくんの声で見てみれば、アランくんが息を上げながらもジェリーフェイカーにトドメを刺していたのが見えた。




 何度も戦闘をこなして、そろそろ討伐証明の為の袋がいっぱいになる辺りでカイトさんとアギトさんから撤退指示が出た。

 昨日よりも間違いなく接敵の回数が多い。

 ジェラルくんとアランくんは疲労が見え始めていた。カイトさんとアギトさんが魔獣との接敵時に魔獣を減らす数が増えているのでちゃんと様子は把握していたのだろう。それもあっての撤退かもしれない。アタシは特に問題は無い。

 迷い無くカイトさんとアギトさんが道無き道を行く。獣道はあっても人が通る道は無いはずなのだが。

 アタシは魔森林の中では欠片も方位がわからないのだが、魔道具か経験か、何らかの方法で今いる位置がわかっているのだろう。

 カイトさんもアギトさんも、二人とも空を見ることが多いのだが……アタシも真似して空を見たがさっぱりだ。


「意外と魔獣がいましたね」

「何時もはこれぐらいじゃないんですか?」


 そんな帰り道の中でぽつりと零したカイトさんの言葉にアタシが反応した形だ。


「新規開拓の場所ならこれよりも多い事があるぐらいです。しかし、ここはほとんど開拓済みで、定期駆除の管理区域です」

「管理区域?」

「簡単に言えば、今回のように定期駆除として依頼が出せるほど、調査が終わった伐採対象の区域の事ですね」

「まぁ確かに今日みたいな事がねぇってことはまぁ無いんだが……」


 歯切れが悪そうにアギトさんが続ける。

 

「まぁ、ちょっと戻って仲介所の調査員と話を詰めるってところだ。ついでに討伐証明の袋も交換だ」

「どれくらいで元の場所に戻れるんでしょうか」

「途中からのルートは戻る方向にしてたから、もうちけぇよ」


 いつの間に。

 後ろでジェラルくんがアランくんに何時戻ったかわかった? と聞いている。

 どうやら、二人もこの魔森林の中で居場所を掴めない派らしい。

 そこから歩き、またしても現れたゴブリンの群れを軽くいなしながら向かえば数十分で辿り着いた。


 が、何だか騒がしい。


「アイツらも戻ってたか。やっぱこりゃなんかあったか?」

 

 ひょっこりと顔を出して見れば、もう一つのグループも戻ってきていたようだ。

 そこそこ長く居座るような雰囲気だったので、アタシ達と同じぐらいに戻ってくるのは確かに不自然だ。あったいは慣れた人達ばかりなので余計にそう思う。


「よぉ! お前らも戻ってたのか!」

「アギト達も戻ってきたのか! やっぱり、お前らも出会ったのか!?」

「あぁ? 何の話だよ。こっちはやたら魔獣が出るから一旦戻って来ただけだぜ」

「魔獣が?」


 アギトさんと仲介所の調査員、別グループの代表と思わしき人が話し出す。

 その間にもう一人の調査員の方が近づいてきたのでアランくんが袋を差し出す。

 調査員も、よく見れば腰に帯刀している。刀じゃなくて剣だけど。


「討伐証明の袋ですね。受け取ります」

「すみませんが、お願いします」


 アランくんが対応し、ジェラルくんとアタシも揃って袋を差し出す。

 カイトさんもアギトさんの方をちらりと見てから同じように差し出した。


「お疲れ様です。何があったのですか?」


 カイトさんの言葉に調査員の眉が曇る。

 

「どうも、盗賊が出たようなんです。それで交戦したのですが……」


 盗賊!?

 こんな魔森林で人を襲うとは、よほど自分が死なないという自信があるのか。

 カイトさんも顔を顰める。

 

「まさか、死者が?」


 その言葉に、ジェラルくんとアランくんの体が強ばる。

 が、調査員は顔を横に振る。

 

「幸い、死者は出ませんでした」

「それは良かった……でも、他に何かあったんですね?」

「はい。どうも、彼らが持っていた魔道具が奪われたらしく……」


 盗賊の出現と、魔道具が奪われるという事態。

 思い出したのは――――神楽との話で出た、街に現れた『魔道具を盗む』怪盗であった。


次は再び土曜です。

そろそろ主人公vs人を書きたいところです。

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