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第80話 魔森林で遭遇

 昨日も見た、作業道具や大きな丸太、それにしっかりと魔獣を意識しているであろう、小屋というか家がどんとある。

 到着した後はお互いのグループですぐに行動開始である。

 といっても、協調して何かをするわけではないらしい。

 ここからは別行動で、それに帰りも別になるとのこと。

 

 出る前に話し合ったからだろう、アギトさんと相手グループの指示者と思わしき人が軽く声を掛け合っただけで、こちらはすぐに出発した。

 相手グループの指示者が手で示した方向からして、魔森林の中では遭遇する事は無いかもしれない。

 

 アタシ達が全員降りて準備を終えて歩き出したとき、もう一つのグループはまだ馬車から荷物を下ろしていた。

 そして頑丈な家の中に持って行く。

 こちらと違って荷物が多いが、アタシ達のグループと何か違うんだろうか。

  

 歩きやすい馬車道を少し逆走して、アギトさんが何らかの魔道具を懐から取り出して確認した後、どことなく道っぽい場所から魔森林へと入る。

 前と同じく、枯れ葉の山と、じっとりとする土を踏みしめる。

 木々は一つ一つは太くとも、お互いの伸びた葉が邪魔しあって間隔はそこそこある。

 だが歩きやすいわけではない。背の高さほどもある茂みが、日射が少ない中、懸命に成長しようとしていて所々で邪魔である。

 

 薄い茂みを見つけてはアギトさんが槍を振り回して切り開いたり、誰かが通ったであろう場所を枝で引っ掻き傷が出来そうになりながらも通ったり。

 

 歩いて少し経ったが、ゴブリンやコボルトといった、ここら辺にいるだろう魔獣はまだ見かけていない。

 昨日も接敵は早くなかったけれど、昨日より探すのに時間が掛かっている。

 ただ、茂みの下だけがぽっかりと空いている場所を見かけるので居るのだろう。

 カイトさんがゴブリンの通った道ですね、と告げる。


「……この場所の定期討伐はまたしばらく無くなるだろうな」

「ですね」


 歩きながらアギトさんが言い、最後尾を警戒するカイトさんが同意する。

 ベテラン二人は何かわかっている風だけれど、新人勢であるアタシとアランくん、ジェラルくんは何もわかっていない。

 

「そうなんですか?」


 アランくんが声を上げると、忘れていたようにアギトさんが教えてくれる。

 

「ん? あぁ。ここの狩り場は3週間近くの間、指定場所とされてたが、そろそろここら辺を寝床にしてる魔獣は刈り尽くすだろうと仲介所の中でも話が出てたんだよ。そうなったらいったん終了だ。今日一緒に来たグループがいただろ? アイツらは日が暮れるまでやるらしくってな」


 ようは場所交代の時期ってわけだ、と言う。

 カイトさんが話の続きを引き取る。

 

「魔獣が十分刈り尽くされると、依頼は無くなり、ようやく魔森林の伐採が始まります。近々伐採の依頼が張り出されるでしょうね。伐採といっても、いきなりこんな奥までは来ません。街に隣接している所からですね。しばらくすると魔獣の目撃報告が増えるので、そうなると伐採は辞めて、再び定期依頼に張り出されるようになります」

「そういうこった。今日のグループはあの中でも更にメンバー分けをして、魔森林へと突入、状態の確認をするってわけだ」


 泊まり込みもするみたいだしな、と言う言葉で、アタシ達のグループよりも多かった荷物があの家で過ごす用の物だと判明した。

 しかし、魔獣に対して安全なのだろうけれど、魔森林の中で寝るのはちょっと怖い。トラップとか欲しい。

 

「そうだったんすね!」

「へぇ」


 そんな事を思っているとアランくんとジェラルくんが頷く。

 となると、次の場所はどこなんだろう。

 あれ? すると難易度の低い場所はまた直ぐには出てこない?

 定期場所が無くなってしまうと、アタシのお小遣い稼ぎは?

 疑問に思って声を上げる。


「次の場所はどうなるのでしょうか? 次の場所の選定は時間がかかる感じですか?」

「ん? どうしてだ?」

「いえ、難易度の低い定期討伐が無くなると少し困るなと思いまして……」


 なるほどな、と頷く。

 ジェラルくんも同意するように頷いてくれたが、アランくんはそんな事も知らねぇの? という顔を向けてくる。

 

「次の場所の目星は職員に聞けば教えてくれるだろう。それに場所の選定が遅くなっても、定期討伐が出てる狩り場ってのは複数出てるんだ」

「そうなですか?」

「あぁ、ここ以外の場所も出てる。ここがしばらく使えなくなったとしても、別に問題はねぇよ。改めて聞いてみな。良い場所があればちゃんと案内してくれるぜ。しっかり稼ぎな――――っと出やがったか、やっぱり数が少ねぇかな」


 はっはっは、と笑いながら槍を構える。

 アタシ達も周囲を警戒しながらも散開した。

 場所はそこそこ空けている。茂みも背が低く、見通しが良い。

 見やると、ゴブリンが5匹――――だけではない。


「う、わ」

「……!」


 ジェラルくんが抜き放った剣が震えている。

 アランくんも肩に力が入ったのがわかる。

 小柄なゴブリンの後ろには、青く、透き通るような、人の背ほどの巨大なクラゲが3匹もいたからだ。4本の移動用の触手と、何かがコードのように巻かれている。

 ゴブリン達がやかましい声を上げ、こちらを指さす。

 それに呼応するかのように、クラゲ達は重たげに二本の触手を持ち上げた。攻撃用の触手だ。くるくると巻かれていたのだ。するすると伸びていく。動作はゆっくりだ。

 距離はある。

 だが、魔獣という異物は遠くからでも異様だ。

 高く持ち上げられた触手は身長を優に超える。


「ジェリーフェイカー……!」


 ぎゅっと剣を握る。

 生きているジェリーフェイカーを見るのがコレが初だ。

 木々の中に佇む姿は異質としか言い様がない。

 ゴブリンがやかましいのに対して、ジェリーフェイカーは何も喋らない。ただ無言で迫ってくるだけだ。

 持ち上げた二本の触手は思ったよりも長い。授業で解剖した際には異様さに気を取られて気づけなかった。

 それに死体は腕が千切れていたりしていて、巻かれて仕舞われているという事も知らなかった。

 触手を持った敵と言えば、神楽の決闘時に起きた襲撃騒ぎ。あの時、クラーケンドッグの触手を切り払った事はある。上級生の援護を貰いながら何とか対処した。


「新人共、数は多いが雑魚だ。クラーケンドッグも俺達に取ってはゴブリンと同じだ。動揺はしてもいい、俺が守ってやる。だから安心して戦え」


 前面にアギトさんがずいと出ると、アタシも含めて新人の緊張が緩和された。

 それに、後ろから詠唱が聞こえたと思った後、水の矢が音を立てて飛ぶと騒ぎ立てるゴブリンの一匹へと突き刺さり、即座に屍に変える。


「難易度自体は普段と変わりがありません。ここでジェリフェイカーに慣れるのが良いでしょう」


 カイトさんだった。

 ベテラン二人がいる以上、この場で敗北は起こらない。

 その安心感を得つつ、改めて身を引き締める。

 カイトさんの魔法を皮切りに、ゴブリン達が走り出しだし、ジェリフェイカーも移動を少しだけ早めて襲い掛かってくるのであった。


 

次の更新は次の土曜です。

週一だと設定がよく記憶から飛ぶ(すみません)ので、通勤中に一話から見直そうか考えています。

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