第78話 再び
次の日、起きると同じように荷物をまとめ、綺麗になった服を身に纏って出て行く。
神楽にしては夜遅くまで話をしていた影響か、着替え終わった後も寝返りを打つ音が聞こえたぐらいで、ベッドのカーテンが開かれることは無かった。
街への定期便に乗った際には学園の研究者と思われる二人達と乗り合わせた。
特に聞くつもりもなかったのだけれど、静かながら会話していた内容が、魔道具に関する研究の話題だったので気づいた。
「……やっぱり愚痴もあるもんなんだなぁ」
一緒に揺られて関わる事無く街まで着いたけれど、途中から徐々に学園の、というか所属している部署の愚痴になっていたのは面白かった。
指示が厳しいとか、話を聞いてくれないとか、忙しすぎてカフェにいけないとか、世知辛い感じだ。
それに、学園としては2週間の休み期間中だけれど、研究所の方は休み無く業務のようだった。長期休暇が俺達にも欲しいよと愚痴っていた。なお教師陣はお休みの模様。
そうなると、学園に行っても神楽は教師と出会えないのでは、という思いが脳裏を過ぎる。
それはともかく、今回は道も分かっているのでサクサク向かう。
街は昼と比べれば静かだ。といっても、開いているお店はそこそこあるが。
途中、あの時道案内してくれた元気な少女に会えるかもとか思ったりもしたが、流石にそんな事は無かった。
前回出会ったお店の前にいったら居るのかもしれないが、あそこは別に通り道ではない。前回は迷っていたから辿り着いただけで、別に最短ルートではないのだ。
仲介所へと入る前に、開拓者達のグループが出て行っていた。
自前なのか予約なのか、止めてあった馬車に乗り込むと、朝早いのにすぐに出発していく。眠そうな人がチラリと見えた。
それを横目に見ながらもクエスト仲介所の大きな両扉前に立ち、扉を片側だけ押す。見かけよりは小さい音を立てる。
と、その音に反応して真正面のカウンターにいる人と目があった。昨日と変わらない、眼鏡を掛けたブロンド美人。遠くで視線が合っていてもドキリとさせられる。
会釈されたので同じように返し、近づく。
「――おはようございます、オリヴィアさん」
「お、おはようございます。織賀さん」
「? どうかされましたか?」
「いえ」
目が合ったのでドキドキしてました、なんて事は言わない。
「今日はどうされますか?」
「何か、クエストを見ながらでも、簡単な物を選ぼうかと思います。オススメはありますか?」
そうですね、と言いながらも一枚取り出す。
それは、見覚えのある形式だ。
昨日受けた定期クエストである。
「一応ですが、昨日と同じく、琥珀さん達が集まって魔獣を減らしに行く予定です。まだ出発までは時間があるので合流は問題ありませんし、引き続き経験を積むためにもオススメです」
「なるほど……」
別れ際に、後日また会ったら、と投げかけておいて次の日も出会うのか……と思わなくも無い。
が、まぁ別にいいか。
「でしたら私も参加させてください」
「はい。かしこまりました。では受注記録を取らせて頂きます。皆様は奥に集まっているようです。琥珀さんは二階にいますが……」
そういって、手元の用紙を何枚か捲る。
「昨日ご一緒になった方もいるようですね。グループはそちらに手配しておきます」
「わかりました」
一瞬疑問を抱きつつも頷いた。
居るのは新人のアランとジェラルの二人だろうか。
受付嬢さんに礼を告げると奥へと向かう。
朝のため、静けさがあるかと思ったが、昨日よりも騒がしい。
概ね何処のテーブルにも人がいる。あと何となく汗臭い。
日が沈むと危ないためか、朝早くから出掛けるのが一般的なのかもしれない。
用紙の束を持って掲示板に新しいクエストを貼り付けている職員さんや、椅子に座って寝ている人、魔獣の本をテーブルに置いて話し合っているグループなどを通り抜ける。
と、椅子に座っていた一人と目があった。
「げ」
「あら、おはようございます。今日もよろしくお願いしますね」
「……ここは琥珀さん達のグループだぞ」
「なら、合っていますわ。先ほど合流させて頂きました」
「……足を引っ張るんじゃねぇぞ」
しかめっ面をしつつ声を上げたのはアラン少年だ。
「ジェラルくんもおはようございます――あ、アランくんの名前を忘れているわけではありませんので」
「お、おはよう」
「んなこと気にしてねぇよ!」
ジェラルくんは昨日と同じくおどおどとしている。
二人して似たような装備だから、モブ1モブ2と一瞬見えたなどとは口が裂けてもいえない。
「今日は他にどなたが参加されますか?」
「……」
アランは答えようとしない。見て分かるような拗ね具合は継続中だ。もう困ったちゃんだなーこの子は。人によってはそういう所は意地可愛いと思うのだろう。分からなくも無い。
「きょ、今日は昨日と同じく琥珀さんとカイトさんが僕たちのグループにはいるよ。今は二階で作戦会議してるんだと思うけれど……」
「グループ? 他にも参加者が?」
問い返せば静かながらもジェラルは答えてくれる。
アランはそっぽを向いたままだ。
「他にも5人組のグループがこのクエストに参加してるよ。ほら、向こうの人達がそう」
「あら」
そういうのがありなのか、このクエストは。
だから織賀さんは『グループに手配する』と言っていたのか。ちゃんと聞き返しておくべきだったと反省する。
定期と呼ばれるだけあって人数制限とか無いのだろうか。
普通は報酬とか下がりそうなものだけれど……と考えてから、昨日はグループの討伐証明部位の数で支払われていたのを思い出す。
定期的に伐採前の魔森林に居る魔獣を減らしたいのだから、こういうシステムなのだろう。
金欠の開拓者とかがひとまずの資金調達のためにやっていそうだ。
ジェラルの視線に釣られて奥へと向ければ、こちらよりも断然年齢層が高いメンバが見えた。といっても、アタシよりもやや上というだけで、琥珀さん立ちよりかは下だろう。仲間達と談笑しているのが見える。
4人しか居ないところを見るに、もしかして二階の作戦会議に出ているのは向こうのリーダーかもしれないと思った。
何にせよ、こちらは昨日と同じという事で少しだけ肩の力を抜く。
アランは世話の焼ける照れ屋の年下という認識なので別にギスギスとかは感じていない。実際は照れているわけでは無く、憧れの琥珀さんから誘われたアタシがとことん気にくわないのだろうけれど。
何は言われずとも荷物を置き、席へと座る。
アランは一瞥し、鼻を鳴らしただけだ。ジェラルはそんなアランの様子を心配そうに見ている。
ざわめきもある中、傍から見ると少しだけピリピリとした様子で琥珀さん達がくるのを待っているグループの出来上がりだった。
……職員さんが微妙に不安そうに視線を向けている気がするけど、多分気のせいだ。
話をしないのなら特にいいかと思い、道すがら見かけた開拓者の様子を真似て、アタシも腕を組んで目を瞑るのだった。
次の更新は次の土曜です。
パソコンのディスク交換がうまく行かなくてちょっと焦りました。




