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第77話 ゼン様家での様子

 寮にて神楽からゼン様家の話を聞いていると羨ましくて悶絶したくなる。

 研究目的の植物園があるとか原作の設定集で見たことがあるぐらいだ。研究施設の一つ、程度の内容である。

 話を聞きながらも平静を保ち、お茶を飲み続ける。

 ちょっと手が震えてるけど、許容範囲だ。

 カタカタと揺れているけど気のせいだ。


「あと、オリヴィアさんの事も色々と聞かれましたね。オリヴィアさんに興味津々って感じでした!」

「それはなんというか……恐れ多すぎる……」

「剣の腕については凄い褒めてましたよ。ゼンさんでも勝てるかどうかわからないって言ってました」


 それを聞くと、そっとお茶をテーブルへ置く。

 ダメだ。許容範囲を超えた。

 

「オリヴィアさん? ずるずるとソファから滑り落ちてっ……!? ど、どうして床に座ってるんですか!? 床はばっちいですよ! どうしたんですか!? オリヴィアさん!? 何で頭を地面にっ!? お風呂入ったばっかりですからダメですよっ」

「これ以上認識しないで……アタシという存在がゼン様の認識に混じってはいけない……床に消えてしまいたい……」

「オリヴィアさん!?」


 床から引っ張り上げられながらめそめそと無く。

 珍しく神楽がドン引きしているがしょうが無い。

 立ち上がった神楽によってソファへと再び引き戻されると、今度はクッションを抱きしめる。

 困惑した顔で自席に戻る神楽。


「一体どうしたんですか……」

「ゼン様はアタシの推し。だから認識されてはいけないの、神楽」

「意味がわかりません……。普通は憧れてる人に認識されたいって思うと思うんですけど……」

「ダメ。アタシという雑味が入っているのが耐えられないって感じ。そこらのモブ的な物として扱って欲しいの、アタシは」

「モブ……?」


 この世界に推しという概念が無いため、神楽にこの感覚を伝えるのは非常に難しい。

 アタシはひっそりと雑草として生きて咲き誇る花々を飾る背景になる事が好きというスタイルだ。余計に難しい。

 つーか現時点でも逸脱しているのだ。

 もっと陰に居たいのだが。

 

 なお、この世界にはアイドルという職業は無い。この世界にある、知っている中で似たような立ち位置は劇場の美人歌手やダンサーとかだろう。

 街に行って美術商が出しているギャラリーに行けば彼女達の似顔絵は何時だって人気がある。

 アイドルという概念が無いと余計に推しという事に関する説明は難しいだろう。まぁ推しになるのはアイドルじゃなくても良くて、知っている中だとアニメの作画監督推しの友人も居たが。

 閑話休題。

 

「そういう生き方が好きなんだって知っておいて」

「わかりました」


 素直に頷くけれど顔は何も理解していなさそう。それでいい。

 

「で、後はどんな感じ?」

「私の両親について聞かれました。今どうしているのか、元気にしているか、とか。失踪してしまっているので、私にもわかりませんとだけ伝えましたが……。あとは、母達と仲の良い研究者を知っているいるなら伝手を伝って聞いてみるとは言ってくれたんですが、研究所の人とは誰とも会ったことが無いので……」

「へぇ?」


 特にゼン様が聞くようなタイミングだったろうかとゲームを思い出すも、現時点でありえないルートを進んでいる以上、大きなイベント以外は役に立たないか。

 神楽の両親は、友人である光栄宮学園の学園長を頼ってルカを入学させる手続きを任せた後、置き手紙と財産だけを残して失踪している。

 ゼン様が調査をするのは本来はまだ後だ。

 火や水などの基礎魔法とは異なる、神楽の遺伝魔法が発露の兆しを見せてから。そしてまだ見ている限りでは兆しは無い。

 

 懐かしむように神楽は続けた。


「母と父は魔法に関する研究をしていました。休日は一緒に過ごしてくれて、でもだいたいは忙しそうでした。自宅でも、ノート片手によく考え事はしていたのを覚えています」

「神楽の住んでいた場所は田舎だったと思うけど、そこに研究所があったの?」

「いえ、中央の街まで行って仕事をしていると聞いてます。私が大きくなってからは、泊まりがけも珍しくはありませんでした」


 設定通りだ。


「……今でも、元気にしていると良いのですが」


 少しだけ遠い目をしながらお茶を飲む神楽に、明るく話し掛ける。

 

「元気にしてるよ。今度会ったら、手紙を残して消えた事で怒ってあげればいい」

「ふふ、そうですね」


 実際問題、神楽の両親は最後近くまで物語に登場する事は無い。

 最終戦前、涙ながらに再会するエピソードがあるくらいだ。それも健全な状態で、特に身体的に問題も起きていなかった。

 これはどのルートでも共通である。

 そして攻略キャラが両親と、そして神楽に対して誓いを立てる、といった具合である。

 なので、現時点で神楽の両親は存命である。


「神楽の両親はどんな魔法を研究してたの?」

「私も詳しくは知らないんです。守秘義務って言ってたと思います。でも、この国を豊かにするための魔法を研究してるんだよって小さい頃に言っていました」

「魔法の本とかは自宅になかった?」

「ありました。どれも年代物で、本棚にぎっしり入ってましたね。新しい物は……研究室にあるっていってました。ここにあるのはもう読み切ったものだって。私も見せて貰ったことはあるんですけど、今見ても理解出来るかどうか……」

「ふぅん……」

「あ、今度会ったら、怒るだけじゃ無くて、魔法も見て貰いたいですねっ!」

「勉強頑張ったら手伝えるかもよ」

「そこまでは……」

「アタシも魔法が使えたらなー」


 ぐてーとソファで伸びをする。

 この世界に来てからふとしたときに思う。魔法が使えるようにならないかなーと。

 独学ではどうにもわからなかったが、授業では先生によって導かれるような感覚があるっちゃあるので、頑張れは使えるんじゃないか? とはわくわくしている。

 もし使えるんだったら何がいいかなー。水系かなーとか考えるのだ、アタシだって。使いたい魔法はころころ変わるが。


「オリヴィアさんは明日はどうするんですか?」

「明日もクエスト行ってくるよ。自分が遊ぶ分のお金をしっかり稼がなきゃ。神楽は?」

「私は……話していてちょっと思う事があったので、魔法について色々と自主的に勉強出来ないか調べてみます。月影さんと戦っていた時の感覚はまだ残っているので、先生でも捕まえて何か試せないかなって」

「あれ? ゼン様とは明日の約束は無いの?」

「それが……本当は明日も誘われてたのですが、ゼンさんが明日もどうかと言ってくれたとき、一緒に居た執事の方が『明日は既に予定が入っていますが』、って……」

「お忙しいねぇ……」

「ゼンさん『しまった』っていう顔してました」

「何ソレ超見たかったー!」


 そんな表情差分見たことないよ!

 バタバタとクッションを抱きしめてもがく。クソ、この世界で写真がもっと一般的なら良かった! そしたらカメラを神楽に持たせて二人の時にしか見せないショットをいっぱい撮って貰うのだ。そして現像してアタシが見る……。実現出来たらどんなに良かったことか……。

 前世の時から写真の技術なんて欠片も知らない。どんな液体を用いてどうするのかとか、何から手を付ければいいのかなんてわからない……くそう……もっと勉強していれば……。

 

「まぁ、それはそれとして。明日は頑張って。無理して怪我しちゃだめよ? 先生の話はちゃんと聞かなきゃ。決闘の時だって暴走してたんでしょ。怖いなー心配だなー」

「それはこちらの台詞ですよっ」


 そういって二人して笑い合った。


次の更新は次の土曜です。

あと、神楽の主人公に対する呼び方という致命的な箇所を間違えてたので地味に最新数話直しました。

ついでに本作の最初の数話で神楽の名前を間違えるという致命的な箇所があったので数話直しました。

ビックリしました。

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