第74話 お話
お風呂から上がり、クラリッサと共にしっかり髪を乾かした後、お互いに別れた。
クラリッサは休みに入る前に借りてきた本があるようで自室で読むらしい。同室の子も同様のようで、特に部屋から出る予定も無いようだ。
大浴場に入る前に汚れた服を洗濯機型の魔道具にぶち込んでいたが、洗濯は終わっていない。
夜に改めて取りに来ることを忘れないようにと思いながら部屋に戻る。
「あ、 オリヴィアさん。お帰りなさい」
「あら? 神楽も帰ってきたんだ。ただいま、お帰り」
「はい。ただいまです」
戻ってみると部屋には神楽が居た。
まだまだ陽が暮れるには時間がある。
中央の椅子に座り、ゆったりとしている。ローテーブルには本とお茶の入ったコップが置いてある。
どことなく嬉しそうなのは、ゼン様との会話が楽しかったのだろうか。
「ゼン様のところに行ってたんでしょ? 意外と早く帰ってきたね」
そう問いかければ、少しだけ目をぱちくりさせる。
「そうですけど、どうしてオリヴィアさんが知ってるんですか?」
「寮から出た後、ゼン様の家紋を付けた馬車が通ってたからさ。多分そうなのかなーって」
「それで……。でも、私じゃない方にご用があったと思わなかったんですか?」
「無い無い、ゼン様がこっち来たらほぼ神楽関連だって」
「そうかなぁ……」
原作と同じように神楽に対してゾッコンなので、火を見るより明らかである。
「それでどうでしたか? クエストは。帰られたのは早かったんですか?」
「いや、帰ったのはついさっきだよ。ちょっと待って」
タオルを室内のハンガーに掛けて干す。
室内はやや乾燥してるのでちょうど良いだろう。
あとはごちゃごちゃしていた荷物をもう少し片付ける。
その間に神楽も立ち上がって作業をしていた。
中央の席へと座ると、神楽がお茶をアタシにも用意してくれた。
「ありがとう」
「いえいえ」
「それでクエストの話だったよね。その前にクエスト仲介所の場所がわからなくてね。途方に暮れてたら、何故か少女に案内されて無事仲介所にいけたよ」
「少女?」
「うん。小さくて可愛らしい子だったよ。たぶん10歳ぐらいじゃないかな。日の光を反射するぐらい綺麗な金色の髪で、何してもすっごくニコニコしてた」
「それは……可愛らしいですね!」
想像したのか、神楽がほっこりした表情で言う。
思い出しながらお茶を飲む。
うん、確かにあの子は天真爛漫で可愛かった。
「クエスト仲介所って神楽は知ってる?」
「はい、名前だけは聞いたことが何度かあります。確かトオコとかもクエストやってるって言ってたから、その時とかに」
「りょーかい。で、そこにいったらアタシを誘ってくれた人がいてね。ちょうど他の新人と一緒に魔獣を狩りに行くっていうから……」
そこから、魔森林に入った事や、ベテランの動き方、光栄宮学園の授業と違う感覚、出てくる魔獣の話。
「ジェリーフェイカーとかも出てくるって話だったけど、今回出てきたのはゴブリンだけだったよ。もう本当に沢山いるのね、アイツら」
「ジェリーフェイカーとは、まだ授業でも戦ったことが無いですね」
「だね。おっきいクラゲっていうけれど、実際見たらすっごく不気味そう」
「くらげっていうのがよくわらからないですけど……触手を振り回してくるって教科書に載ってましたね」
それに新人のアランとジェラルについても話した。
特にアランという子が睨んだたりしてくるという話題を出したのだが。
「そのアランって人は失礼ですね! なんでオリヴィアさんに突っかかるんでしょうか! 全くもって不条理です!」
神楽が少し怒った顔をする。
思わず珍しくてつい凝視すると、こちらの視線に気がついたのか、こほんと可愛らしく咳払いして少し落ち着く。
「まぁ、ベテランの人――――琥珀アギトさんっていうだけど、その人に憧れてる少年達で、そんな人が自ら誘ってきた新人が来たらそうもなるって」
苦笑しながら告げると、コップを手に神楽がむっとしたまま言う。
「甘い、甘いです。きっと今後つけ上がってくるに違いありません。次出会ったらガツンとやっちゃいましょう、ガツンと!」
「武力行使に出てきたらやるよ」
こっちからは特にやらないよと、ひらひら手を振ると、モヤモヤしますという表情でお茶を飲み出した。
「怒ってくれてありがと。大丈夫、アタシは気にしてないし、あまり悪いとも思って無いからさ」
「もう……。私もクエストやろうかなぁ……」
「うーん、流石に実力は……まだまだだと思う。ゼン様に相談してみたら?」
「そうします」
魔獣の戦闘がメインと考えれば、アタシだって酷いものか。
あまり神楽にクエストをしないようにと言える立場じゃない。
原作でも、ゼン様やフィオレンティーノ・ジャイルズ達と連れて軽く冒険しに魔森林に行くシーンがあるし、もしかしたらゼン様からOKサインが出るかもしれない。
ひとまず話題が落ち着いたタイミングを見計らって逆に神楽に聞く。
「そっちはどうだったの? ゼン様のお屋敷に行ったんでしょ?」
「はい。凄く……すっごく大きいお屋敷でした。もう敷地からして凄くて……知ってます? この学園と同じぐらい敷地があるそうですよ? 舞踏館や小規模な研究所もあるらしくって。今度見せてくれるそうなんですが……家って何だろうって思いました」
思い出すように宙を見ると、はぁと息を吐いた。恋する少女……ではなくて、単純に規模が想定を超えていたのを思い出したかのようだ。口から魂が出るような表情をしている。
ゼン様――――香月院家は、確かヨルム王国の創立時からいると考えれば、逆に思ったより小さいぐらいだ。ヨルム王国の領土は他の国より狭く、魔森林を開拓しなければならない事情で考えれば十分な大きさだけれど。
作中でも、ゼン様の家の大きさにびっくりするシーンがあるけれど、つまり今はある意味原作再現シーンなのかもしれない。貴重だ。
神楽をじっと見だしたアタシに気づかないまま、ぼんやりと神楽は話を続けた。
「それで、植物園に案内してもらってそこで色々とお話をしました――――」
ぬおお難産が続く。
次の更新は引き続き次の土曜です。




