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第67話 準備

 降ろされたのは開けている場所だ。

 見れば広場があり、地面はならされていて、見るからに頑丈そうな建物がある。

 森――――魔森林との境界には煉瓦の壁もあるし、建物前には何かを燃やしたとおぼしき跡がある。

 それに丸太が大量に転がっているし、かなり大型の台車もあった。木こり用の斧はちっぽけな物が一つだけちょこんと見える。

 ジェラルと同じようにきょろきょろと見渡す。ジェラルの方は心細そうな感じだが。アランはそんなジェラルを見ながら先輩面を見せている。

 アランの様子だが、降りる際に『今日も頑張れよ!』とアギトさんに声を掛けられてからはテンションが戻ったようで、色々と説明しているようだ。

 御者を務めていた仲介所の職員さんが馬車を繋ぐ。

 その様子を眺めながら近くに居るアギトさんへと声を掛ける。


「ここは前線拠点ですか?」

「そんな所に流石に新人を連れて行くことはねぇよ」


 笑いながら言われてしまった。


「前線拠点は行くのにまだまだ時間がかかるし、この基地だってこんな綺麗な状態で残らんよ」

「やっぱり荒らされるんですね」

「まぁな。あっちは大型の魔獣がかなり多いんだ。建物があっても数日経ったら瓦礫の山だ。間引けるのはまだまだ先だ。ここは国が管理している場所だ」

「国? ヨルム王国がですか?」

「おう。ここみたいな場所があと何カ所かある。今回通った道もそうだが、魔森林をある程度分断出来そうな位置に作ってある」

「何故そのような事を?」

「魔森林開拓の為だ。今回通った道だが、あれで魔森林を分断している。更に奥から魔獣が寄ってこないように柵を入れたり、嫌いそうな匂いを撒いたりして、分断している空間に魔獣があまり入ってこないようにしている」 


 ここだと壁で見えねぇだろうがあの方面に柵があるんだぜ、と指刺した。

 匂い、と言われて鼻を鳴らしたけれど、森の中に居る特有の香り以外は漂ってこない。


「魔獣の量を減らしたら、街と接している側からどんどん伐採していく。そうやって領土を確保していかないといけないのさ」

「そして、入り込んでしまった魔獣を探して、予想以上に増えないように管理をするのです」


 会話に入ってきたのはカイトさんだ。

 持ってきた巨大な斧から布を取り去りつつ、少し離れた場所から話し掛けてくる。


「ま、そういうこった。今回は魔森林の中に入っていてとにかく魔獣討伐! ってわけだ。わかりやすくていいよな。調査するためにマーカー付けろとか、魔道具を設置してこいだとか、素材を綺麗に剥ぎ取れだとか、余計な事を考えなくていいのは楽でいい」

「綺麗に倒すのは難しいですから」


 布で撒かれた巨大な斧を取り出すと、軽く振り回す。

 安定感が抜群だ。取り落としそうな気配は無い。

 その様子を遠巻きで見ているアランとジェラルはどちらも目を輝かせていた。ああいうでかい武器は見てて楽しいから気持ちはわかる。


「ま、ちゃっちゃと行くか。何が出そうかはある程度把握してるしな」

「そうなんですか?」

「事前に仲介所が目撃例とかから割り出してんだ。魔森林を伐採している最中に見たとか、この場所で同じように魔獣を狩る連中が、引き上げ前に見たとか、な。そういうのが増えてきたらこうしてかり出されるわけ――――ほら、お前らも準備運動しておけよ」


 アギトさんが柔軟を始めたので、アタシも習って行う。なんちゃって準備体操である。もはや何番だったか覚えてないのでだいたいな感じである。

 ジェラルとアランも何時の間にかアギトさんの側にいき、動きを真似し始めていた。


「運動しながらでいいから聞いておけ、オリヴィア、ジェラル。魔森林に入ったらお前達はいったん後ろで見ておけ。場になれてない最中に焦って行動されても困る」


「は、はい!」

「はい」


 前半がジェラルで後がアタシである。


「魔森林と言うが、中は思ったよりは見通しが利く……と思うなんて思うなよ。確かに長物を振り回せるぐらいの空間はここにはある」


 魔森林は茂みに覆われている箇所もあれば、林のように木々の間隔が空いているところもある。巨大な大木があったかと思えば細い木々ばかりな所、茂みだらけの所、唐突に平原が現れたりと……こういうのを植生が乱れていると言うのだろうか。


「小さいゴブリンなんかは茂みに隠れて見えづらくて不意打ちを喰らいやすい。今回目撃例が増えているのはゴブリン、コボルトだ。あとはジェリーフェイカーも一応目撃例がある。まだ生存しているなら出会うだろうが、あの魔獣は背があるから少なくとも不意打ちはねぇだろう。茂みに隠して触手を伸ばす知恵もねぇしな。むしろ動物の方が厄介だ。イノシシとか居たら教えろ、狩って食うぞ」


 そこら辺は授業で習った通りだ。いやイノシシのくだりは知らないけど。

 ジェリーフェイカー。

 クラゲが陸上に進出したかのような奇妙な魔獣。

 人の背ほどもあるらしく、図で見た限りだとかなり不気味だ。

 森の中を歩いてたら、いきなりクラゲとエンカウントするシーンを想像してみるといい。ホラーかと突っ込みを入れたい。

 暗闇だったら叫び声を上げてしまう自信がある。

 移動速度が遅く、明確に有効視界があるらしく、後方からの攻撃が有効だったり、触手を振り回して攻撃してくるが、予備動作があるため十二分によける事が出来たり、対処法は多い。予備動作が無い場合もあるらしいが、無い場合は速度が乗らないので逆に見切れるとのこと。それに知恵もあまりない。

 見た目の割には脅威では無いのだ。


「ジェリーフェイカーは図体がでかいだけで楽な魔獣の一つだが、それでも触手の先端には気をつけろ。浅いとは言え、針場になってるから当たると引っかかれたみたいな状態になるぞ。触手は太いが巻き付いてくる速度は遅い。冷静に防げ」


 アランもジェラルも緊張して聞いているが、アタシも緊張している。魔獣はどう戦えばいいのか本当にわからないからだ。

 

「心配するのはわかるけれど、怖がりすぎてもしょうがない。前はアギトが、後ろは俺が見るから、しっかりと魔森林というのがどういうところか、肌で感じ取って欲しい。――――アランも、新人がいるから今回はよろしく頼むよ」

「は、ハイ! カイトさん!」

 

 ビシ! と柔軟から敬礼をする様子に笑いそうになる。

 実際にカイトさんは少し笑っているし。


「まぁ、何だ。出てくるのは基本ゴブリンとコボルトだけのはずだ。今日はカイトの言ったとおり、魔森林を知るってところを意識してくれ」


 よっと、と言いながら何時の間にか用意していた槍を振り回す。

 カイトさんもアギトさんも、森の中で長物に近い物を振り回せるということは結構な使い手なのだろう。  

 アギトさんの持つ武器は、槍の種類で言えば短い部類に入る。先端の刃が突き刺すというより斬る形で……いや、槍というより長刀か。

 全体的に赤い魔獣の皮が巻かれており、飾りとは思えない宝石も埋め込まれている。新品ということはなく、皮もほつれている事もあるような使い込まれた感がある。

 先端の刃は日の光を受けてまばゆく光った。


「よっし。お前ら、自分達の装備は大丈夫か? ――――なら行くぞ、魔森林へ」


 そうして、アタシ達は仲介所の人達に見送られながら、魔森林へと踏み込んだ。

ということで次の更新は明日です。

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