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第66話 移動中

「……」

「……」


 黙々と馬車で街の外へと運ばれる。

 外から入ってくる空気が森っぽい感じだ。布の隙間から見える光景は既に森の中である。木々が幾つも見えているし、馬車の後方は解放しているから、来た道がよく見えた。道はうねっていて蛇行もしているから、既に街は見えない。道の幅は広く、馬車が二台はすれ違うことは出来そうだ。魔森林へと向かう一般的な道なのだろう。 

 カイネさんとアギトさんは話し合っているし、馬車の中は相当五月蠅いので静かでは無いのだけれど、ずっと新人から見られていて気まずい。

  

 室内にはアギトさん(琥珀さんからそう呼べと言われた)、アギトさんと同期らしいカイネさん、アランとジェラルという新人の二名に加えてアタシがいる。

 あの後、カイネさんはともかく、他新人二人からはぶっきらぼうに挨拶を貰った。

 アタシの周辺、思ったより女性が多い状態になっているのでは? と思っていたけれど、男性の知り合いが増えたのでバランスが取れたような感じがある。

 光栄宮学園だと、基本的に話し掛けてくるのは何だか目をキラキラした女子ばかりで、男子は何処か遠慮しているというか、敬遠しているというか、模擬戦中以外だとあまり話し掛けてくれないのだ。

 別にそれはそれでかまいやしないのだけれど、なんだか在学中は寂しい青春……うーん、まぁ二度目の寂しい青春? を送りそうである。

 主人公達の日常パートを眺めるという使命があるので、まぁこれはこれで良いと思う。


 それはそうとメンバーだ。

 アギトさんと同期であるカイネさんは斧使いだそうで、アタシの背ほどもある両刃の斧を使うらしい。がっしりとした体付きなのはアギトさんと変わりが無い。漂う雰囲気はベテランのソレだ。アギトさん曰く、お互いに何度も死線をくぐり抜けたらしい。

 

 最初に尋ねてきた、慣れがある方の新人はアランというらしかった。オーソドックスな剣持ちで、アタシより2週間ほど早くハンターになったらしい。

 年齢はアタシと比べるとやや下? かもしれない。見た限りでは、まだウチの学園の生徒の方が強いかもといったところだ。

 向こうっ気が強い少年といった所。

 

 もう片方の、なんだか不慣れで緊張が目に見える方がジェラルだ。

 こっちは今日が魔獣討伐の初参加らしい。アギトさんがそう言ってた。こちらも同じく剣持ちだ。それもアランの剣と非常に似ている細工が見える。こちらはやや気弱そうな風貌だが、アランのように気を強く保とうと見せかけているのが実に健気だった。

 

 二人がクエストを行う前からの友人というのは、ひそひそと二人で会話しているのを眺めているだけでわかった。

 あの距離感は昨日今日出会ったというわけではないのだろう。

 

 ところで、馬車内に五名いるのに御者は誰かというと、ギルドの職員さんだった。なんと二名もいる。どうも到着後の安全確保の為らしい。

 出発前に話を聞いたときには、目的地までは三十分ぐらいらしいが……。


「……」

「……」


 アランから真っ直ぐに、そしてジェラルからはチラチラと見られる。

 さっきからずっとこの調子だ。

 ガタンと大きく馬車が跳ねる。もうちょっと荒れた路面だったらこんな事を気にする必要は無いと思うのだけれど。

 カイネさんかアギトさんに介入して欲しい。

 しかし二人は真剣に何かを話し合っている。きっと重要な事なんだろう――――何か楽しそうにガハハと笑い合っているし。クエストか何かの真剣な話し合いじゃなかったんかい。

 頼りにならなそうな大人からは視線を外し、ぴしりと少年達に向ける。

 アランはにらみ返し、ジェラルは視線を逸らした。

 地面を蹴る蹄の音や車輪の音に負けないように声を出した。


「私がどうかしましたか?」

「お前、どうやってアギトさんに取りいったんだよ」

「え?」


 即座に打ち返したのはアランだ。

 その声にはトゲがある。

 あまりに早い斬り返しにちょっとビックリした。

 コイツ、ずっとそれを聞きたくて睨んでいたんだろうか。


「どうせお前が無茶いってアギトさんに入れてくれって頼んだんだろ? あともうちょいで出発って時に割り込むなんてやめろよ」

「はぁ。別にそういう事はしてませんが」

「あの人がこんなタイミングで割り込んでくるわけぇねだろ。お前が強引になんか頼みこんだんだ、違うか? そもそも、お前本当にハンターかよ? そんなナリで戦えるのか? ガタガタ震えて剣を構える事が出来ないなんて事はやめろよ? こっちは既に実践だって経験してるんだ、あまり変な真似はすんなよ」

「……」


 ショタというには成長しすぎ感はあるが、これはこれでその手の人には中々受けが良さそうな元気の良い少年だ。

 でも、その台詞はどちらかというと……。

 ちらりとジェラルに目を向ける。


「そっちの子の方が、私的には剣を落としそうで怖いのですが……君、大丈夫? 力みすぎてないかな?」

「テメェ、ジェラルを馬鹿にすんじゃねぇ! ぶん殴るぞ!」

「ぶ、ぶん殴るぞ……!」


 前者、アランは勇ましく、ジェラルは目に不安を宿しながら、つっかいつつ告げてくる。

 友達想いではあるらしい。

 根は良さそうな子だ。

 実は女性に慣れてないからこんな対応なんじゃないかと思ったりもしたけど、話してみるにアギトさん絡みの件である。

 意外と言ったら失礼だけれど、思っている以上にアギトさんは他の開拓者達に尊敬されてるのかもしれない。


「確かに私は、魔獣との経験は無いですが、剣扱いには慣れています。今日はアギトさんやカイトさんから色々と教わろうと思っています」

「ふん。あまりアギトさん達を困らせるんじゃないぞ」


 あからさまにアギトさんを持ち上げると少しだけ険を落としてくれた。

 やっぱり強く尊敬しているらしい。

 長月は割と雑な感じで話していたので、アタシの中でアギトさんの立ち位置がいったり来たりしている。

 

「誘われた手前、感謝がありますからそこは気をつけます」

「誘われた?」


 ピクリと、アランが眉をひそめる。

 何だ、何か地雷でも踏んだのか。


「はい。ちょっとした捕り物がありまして、それを見ていたらしいアギトさんから、ハンターにならないかと……」

「……」

「あの……?」


 そう告げると、アランは思いっきし顔を顰めて黙ってしまった。

 アタシから視線を外すと、布の隙間から外を睨み始めた。ジェラルも心配そうにアランを眺める。

 わけがわからん。多感な少年とどう接するかなんて、前世の頃からわからない。年下の少年といえばフィオもそうではあるけれど、アレは何というかそんな気はしない。彼はひとかどの登場人物の一人だ。そういう認識がある。


 とりあえず見てくる事は無くなったので、こちらも気兼ねなく外を眺める事にした。

 目的地へと到着したのは、それから程なくしてからだった。

 

次の更新は明日です。

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