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第63話 クエスト仲介所

「それでね! ここは女性の憧れの服を取り扱う服屋さん! ここで仕入れられた服はそのうちブームになるってぐらい、目利きが凄いの! 店長さんはね、実は若い頃に3つの国を回ったりもしたんだって! 私も大きくなれたらここでお洋服買うってお兄ちゃんと約束したんだ!」

「そうなのね」

「うん!」


 少女はとてとてと早歩きで歩き続ける。

 その後ろを歩くアタシはずっとほっこりとしっぱなしだった。

 しかし、生まれてからの地元民なのだろう、町中のあちこちに詳しい。

 歩きながら、アタシが外見しか知らないようなお店も中がどうなっているか、あの店員さんがどうたらとか、口が止まること無く続く。

 実際に顔もよく知られているのだろう、こちらを見てくる店員さんが少女に手を振ることもあった。


「お姉さんはどうしてクエストをしようとしてるの?」

「私? 私はお小遣いが欲しいからかな」

「お小遣い!? 私もいっぱい欲しい! けど、お兄ちゃんもシズエさんもいっぱいくれない……」

「そうなの?」


 こんな可愛い子からお小遣い欲しいってねだられたら、アタシだったら出しまくる気がする。


「うん。小さい頃から遊んでばかりで働かずに浪費する癖がつくと、身を持ち崩す? って言うの。私もちゃんと働いてお金が欲しいなぁ」

「そ、そうなのね……」


 お兄ちゃんとそのシズエさんとやらは結構しっかりしているらしい。

 脳内に年の離れた兄妹という図が描かれる。お兄さんは街で働いているのだろう。

 ご両親の話が一度も話に出てこないということは、つまりそういう事なのかもしれない。この世界では……特にヨルム王国では簡単に人が死ぬ。魔獣との最前線に立たされ続けている国だからだ。

 『シズエ』さんという謎の人も関係性がよくわからない。

 お兄さんの恋人さんなのか、それとも家政婦なのか、ご近所さんなのか。

 謎の多い少女である。


 貴族……という風には流石に見えない。

 ちらりと服装を見た限り、見栄を張った服装ではない。

 普通に町中に居る子供達のように、汚れても良いような服装といったところだろうか。


 気がつけば、大通りから出ていた。

 住宅街とも言いがたい。周囲をみる限りあまり発展している感覚は無い……というより、人気が無さそうな場所だ。

 すれ違う馬車が極端に少なくなり、遠くに関所のような物が見える。あれは何だろうか。建物に遮られてはいるが、横にずらりと塀が続いているように見える。


「あ、あれあれ! あの建物だよ!」

「建物?」


 我に返って見れば、少女が元気よく隣の建物を指さしていた。

 三階建ての真新しい建物。正方形のコンクリ製っぽい、巧みが何一つデザインを行いませんでしたと言わんばかりに実質剛健な佇まい。そして建物の一階と二階の狭間には『クエスト仲介所』の文字。装飾も何も無い。

 大通りにあったのであれば、一発でわかるぐらいのわかりやすさだ。

 

「あった……」

「これでご案内かんりょーだね! じゃあ、お姉さんも気をつけて働いてねー!」

「あ、ちょっと待って! ……案内ありがとう!」


 言うや否や翻って楽しそうに笑いながら駆けていった少女。

 お小遣いでも上げようと思っていた所なので、せめてお礼ぐらいはと大声で伝えると、くるくると回って手を振りながら楽しそうに去って行った。

 元気な少女だった。

 結局、お互いに名前を交わす事は無かったけれど、こういう関係性も悪くない物だと思う。

 また次回、会えれば何かを奢ってあげよう。

 そのためにも、クエストを頑張ってこなさなければ。


「……さて、じゃぁ入りますか」


 扉は両開きだが、結構大きい。だが、見かけに反して手を添えて力を入れると音を立てつつもすっと開いていった。

 入ると一見するとカフェのようだった。

 予想に反して明るい。窓は決して大きく無い為、良い魔道具を使って照明を確保しているのかもしれない。

 周囲に目を向けると、二階へと続くだろう階段、飲み物が出そうなカウンターに、立ちテーブル、奥へと目を向けると木組みの椅子とローテーブルが見えた。

 椅子が用意されていない、立って使う事に限定された立ちテーブルには誰も居ないが、奥の方には明らかに魔獣を狩る服装の人達が居る。

 何時までもきょろきょろとしているわけにも行かない。

 そして、無論都合良く見知った人が居るわけも無い。

 

 街で強盗を捕まえた際、アタシにクエストをやらないかと誘ってくれた……確か琥珀アギトという、ソフトモヒカンが印象的だったガタイの良いおじさんは見当たらない。

 無論、よく利用しているという長月の姿も無い。長月は、今日はきっとクラリッサやマリアンネと遊んでいそうだ。

 話は通っているというけれど、あれからやや時間が経ってしまった事もあり、内心ビクビクとしながらも、真正面にあるカウンターへと向かう。

 特に話が通ってなければそれはそれで、という覚悟である。

 

 カウンターには幾つか椅子が並んでいるが、受付をしているだろう女性は一人だけだった。今は落ち着いている時間なのかもしれない。

 身麗しい女性だ。眼鏡を掛けていて、ややブロンズの髪は綺麗に後ろで束ねられている。

 

「――――いらっしゃいませ。ここのご利用は初めてですか?」


 すっと目が合うと、見た目通りの穏やかな声で話し掛けられたのだった。

次の更新は次の土曜です。

腕は一日経ってやや痛い+微熱が出たくらいだったので更新です。


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