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第61話 いってきます


 飲める程度にお茶が出たようなのでコップに注ぐ。

 自室にて、ほっと一息を吐きつつちょっと整理をする。

 直近で起こるイベントについて、だ。


 起こるとすれば、

 ・お宝探索イベント

 ・学園内魔道具の暴走イベント

 ・神楽誘拐未遂イベント

 だろうか。


「ふむん」


 順番としては上げた通り……と思いたいけれど、今回の決闘イベントはイレギュラーにも程がある事態が起こってしまったし、本当に上記イベントが起こるのだろうかという不安が若干ある。

 お宝探索イベントは特に重要だ。

 神楽と攻略メインキャラの絆が深まるイベントであり、好感度が低いという事態になると、連鎖的に最終的な生死に繋がってしまう。


「ただまぁ、問題は無さそうに見えるけどねぇ……」


 思い出すのは、森の中でのワンシーン。

 神楽とゼン様がお互い向かい合い、泣いている神楽をゼン様がそっと慰めている光景。

 

「……あれは、いいものだった」


 正規のイベントでは無いとは言え、ゼン様の好感度が十分に高いことがわかった。まぁ想定通りにこのままゼン様ルートを通る事でしょう。

 鮮烈な光景として脳に刻まれたように思い出せるが、浸りすぎても良くはない。ぶるぶると顔を振ると、コップのお茶もゆらゆらと揺れた。

 

 ずず、とお茶を飲む。 

 窓から差し込む光が十分に部屋を照らしてくれている。

 今日も良い天気になりそうだ。


そこからのんびりと、けれど出て行く前に神楽を起こそうか、朝練を今のうちにこなそうか……と考えているともぞもぞと動く音が。

 

 小さく、それでいて舌っ足らずな声で「おりびあさん……?」という声が聞こえたので、くすりと笑う。

 これはあざとい。

 黙って居ると、間が抜けた声で、おりびあさーんと聞こえてくる。無くなった枕を探しているような雰囲気すらあった。


「もう起きてるわよ」

「はえ……?」


 声を掛けてしばらく。じっとベッド方面を見ていると、ベッドのカーテンが開かれて眠そうな神楽が顔を出した。ぐっと伸びをすると、以外と肉突きの良い体のラインが強調される。男子がいたら悩殺間違いなし。

 穏やかな日々だ。朝練は別の方法で行おう。



 

「今日は学園がお休み、なんですよね」

「そうねー」


 神楽の服装を軽く整えたのち、洗面所へと送り出して戻ってきた後、対面に神楽は座った。

 アタシと同様にお茶を飲んでほっと一息を吐いている。


「何でこんな早くに起きたんですか? もうちょっと寝ていても良かったと思うんですけど……。あ、学園があると間違えたとか?」

「休みだったことは覚えてたよ。ただ、休みが終わるまでは街に行こうと思ってて」

「……え、そうなんですか?」


 驚いたように、あるいは聞いていないとばかりに目をぱちくりとする。

 休みが告げられたのが昨日の今日ぐらいだし、さもありなん。


「私も準備しますね」

「何で?」

「遊びに行くんですよね?」


 コップを両手で持って、こてん、と首を傾ける仕草は大変可愛くてよろしい。


「別に遊びに行くわけじゃないよ。クエストでもしてお金でも稼ごうかと思ってね」

「そうなんですか……じゃぁ私も」


 被せるように言う。

 

「アタシはクエストの仲介場……だっけ。あそこの人に話を通しておくって言われてるんだけど、()()はそうじゃないでしょ?」


 何時だったか、街で強盗を撃退したときにそういう話を貰ったのだ。

 今もまだ有効だと思うから、そろそろ顔を出したいと思っていたのだ。

 のだが、神楽が不満そうにぷっくりと頬を膨らます。

 自分がクエストに参加出来る状態ではないという事がわかったのだろう。

 

「……神楽、ですか」


 ぽつりと、コップに言葉を零すような小さな声。

 

「? 何か言った?」

「何でもないです」

「不満そうに見えるー」

「もう!」


 笑ってそう言えば、何でもないですってば! と軽くプンスコされた。

 とりあえず、ややご機嫌斜め感があるけれども、街に行く理由については納得してくれた。

 来る前に貰った両親のお金でやりとりしている神楽にとって、お金が足りない事に関する不安はよくわかるらしかった。


「戻ってくるのは夜ですか? 向こうで泊まったりしないですよね?」

「そうだね。学園が定期便出してるでしょ? アレの最終時間前には十分に戻ってこれるよ。あんな遅くに出歩きたくないし、そもそも今日クエストが受けられるかどうかもまだわからないし」

「初めて向かわれるんですもんね」

「そそ。もしかしたら説明だけで帰ってくるかも」


 そうなったら安い駄菓子でも買って帰ろう。


 ひとまず出掛ける前に神楽へ伝えるという要件は達したので、早々に着替えて持って行く物を整理する。

 といっても、頑丈なだけが取り柄の剣、リュック、そこに入れている傷薬に包帯等々、元々用意してあった組み合わせのものを手元に持ってくるだけだ。光栄宮学園に来る前の旅装備に近い。

 あと学生証は必須だ。これがないと、下手したら寮に入れないという状態になりかねない。私服姿は完全に魔獣を狩るハンターの服装だからだ。

 最後に装備を隠すマントを羽織る。旅する若者の出来上がりだ。原作ゲームでは見る事の無い乙女の姿である。


「怪我には注意してくださいね?」

「うん。わかってる。……それじゃ、いってきます」

「いってらっしゃい」


 神楽に見送られて部屋を出る。

 ぱたりと閉じる前に見えたのは、ちょっと寂しそうで不安そうな神楽の顔。

 まるで新婚のようだなぁ、と思ってしまう。

 午前中ではあるが、朝早いとはもう言えない。すれ違う女子学生も数名いた。かなりぎょっとした表情をされた。

 

 寮を出て街へと向かう停留所へと向かっている際、御者付きの馬車とすれ違う。

 控えめでありながらも質の良さを思わせるそれには、見覚えのある紋章がついていた。

 振り返ると、その馬車は女子寮の方面へ過ぎ去っていく。

 あれは、香月院家の紋章。


「……神楽をお茶会にでも誘いに来たのかなぁ」


 ゼン様と朝一で会えるかもしれない機会を逃したと心底がっかりとしながら、アタシは停留所でちょうど来ていた定期便に駆け足で向かっていった。

 

 

次の更新は次の土曜です。

週一更新でもむがががとなるぐらいイベントに悩むという。

お仕事が忙しくなってきたので仕事中に考える余裕がない……。

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