第52話 2回目の魔獣襲撃
「ガァ!」
「邪魔よ!」
ゴブリンを切り伏せながら進む。当てもなく、とにかく量を減らすための前進だった。
魔獣の群れは予想以上の規模だった。
思い出すのは入学式の襲撃だが、あの時の比では無い。学園の外は薄暗く、すぐ側が森というフィールドの所為で、具体的な数がわからないのも不安に拍車を掛ける。
むせかえるような獣臭さ。そして飛び通う学生達の怒号。
学園の中に入っているのだろう、校内のガラスが粉々に吹き飛び、時折放たれた魔法の残滓が見える。
敵はゴブリンだけでは無い。
少し遠くを見れば、木々を薙ぎ倒すようにサイクロプスが巨大な棍棒を振るう。
二階をも超える見上げるほどの巨体から繰り出される攻撃は、ただの棒の振り回しで致命傷になりうる。殆どの学生は手も足も出ず、一部の上級生が魔法による攻撃を主軸に、気を引いたところで背後からの強襲という戦法を立てていた。
とにかく魔法の通りが悪く、足の裏を削いで倒そうとしているらしかった。
クラーケンドッグは、犬のような見た目をしているが、その背中にうじゃうじゃと触手が生えており、控えめに言って視界に入れたくない類いの魔獣だった。
ゴブリンなどよりもよっぽど強い。実際に戦っている学生達は一体に対して複数名で対処に当たっているし、下級生は見てることしか出来ていない。
基本的に下級生はゴブリンの相手をひたすらするに限るだろう。
「ッシャァ!」
「っく!」
そして、蛇のように地を這い、勢いよく飛びかかってくる魔獣、ナーガを避ける。
紫色で大人の半分ぐらいの体躯を持ち、二本腕と太く短い、胴体と一体化した後ろ足を持つナーガは、音も無く地面を這い、忍び寄ってくる。
避けたナーガをどう斬るか戸惑ううちに、金色の電光が通り過ぎ、宙に居たナーガがどうと音を立てて地面へと落ち、痙攣し続ける。
「やっぱり魔獣には慣れてないようだね」
「ジャイルズさん……」
「以前、ゴブリンと戦ってる時も思ったけど、対魔獣だと模擬戦の時に見た強さが見る影も無いね」
「面目御座いません……」
というか、いつかの魔獣討伐の授業、何処かで見ていたのか。
あれでも、最後らへんは結構マシになっていたとは思うのだけれど。
「しっかし! まぁここに居る魔獣達の数が凄いね。いったい何処に居たんだが。校内にも入ってるみたいだし、種類も、学園周辺では見ない魔獣もいる」
話しながらフィオが放った電撃は、ゴブリンに直撃すると四方に分かれて10体近くのゴブリンがその場から崩れ落ちる。
ゴブリンと向かい合っていた学生達が安心した様子で感謝の声をフィオに投げかけ、それに笑顔でフィオが応えていく。
強い人が場に現れるだけで、目に見えて学生達の気力が回復していく。
こうして魔法を使った戦闘を見ると、剣一本で魔獣と戦っていくというのは、この世界を生きていく上では難易度が高い事だと強く思う。
瞬く間に10体も倒す事など、剣だけでは流石に出来ない。
「サイクロプスでしたか、あれほど巨大な魔獣を見るのは初めてです。一体どうやって戦えば良いのか……。ジャイルズさんはサイクロプスとの戦闘経験がおありで?」
「そんなにサイクロプスとの戦闘経験は無いよ。魔法が通りづらくてね、少し面倒だった記憶がある。――――ああやって誰かが傷をつけたら、そこに魔法を当て続けて倒すのが一般的なのさ」
野太く、それでいて知性など感じられない咆哮を上げながらサイクロプスが後ろに倒れていく。それは、先ほどまで上級生達が囲っていたサイクロプスだ。暴れながら倒れる魔獣に対し、ダメ押しとばかりにサッカーボールよりかは大きい程度の火球が注がれる。
サイクロプスが掴んだ木が、まるで草木のようにメキリと折れ、巨体が地面に倒れると土煙が舞い上がった。土煙の中に数名が飛び込んだ後、歓喜の声があがる。が、まだサイクロプスは森の奥から出てくる。
「――――となると、やはりゼン様は凄いですね」
「……ふん」
もっと遠くにいるゼン様は孤軍奮闘と言ってもいい。
視線の先には、数多くの魔獣の屍を築き上げ、サイクロプスと一対一で立ち会うゼン様がいた。
真上から振り下ろされた棍棒を難なく躱し、氷で作られた剣で腕を切り刻む。
すると、血が吹き出ると同時、それらが凍り付いていき、あっという間に片腕が氷づけになる。
握力が落ちたのか、棍棒を落としつつたたらを踏んだサイクロプスが苦し紛れに反対側の腕を振るうが、そんなものに当たるゼン様ではない。
腕の下くぐって姿が見えなくなったと思った次の瞬間、サイクロプスの中心線を通って氷の華が咲き乱れるように下から登っていった。
そして、体を駆け上がったゼン様が氷の剣で首を一閃すると、頭部が粉々になり、キラキラとした氷粒となってサイクロプスの巨体が倒れる。
「強いことは認めるよ、今は、ね!」
苛立ちも含めて放たれた雷は、今度は一直線に並んだ魔獣の息の根を止めた。空気がぴりりと痺れた気がした。
ずっとフィオと一緒に居るわけでは無く、太陽守護のメンバーと思われる学生達が近づいてきたタイミングで離れる。
フィオは直接戦闘もこなすが、太陽守護を率いるリーダーでもある。前線に向かうアタシとは役割が違う。
話を盗み聞きしたところ、どうやら、教師棟にも魔獣が居るようで、しかしそこは既に制圧気味との事だった。
流石に学生とは戦闘能力が一線を画す教師陣だ、特に問題となる事は無かったのだろう。
アタシが対処出来るのが主にゴブリンだったので、とにかく数が湧いてきたら飛び込んで切り刻むだけ切り刻む。
ナーガが飛び込んできた場合はどう対処すれば良いのかわからないまま、とりあえず地面へと串刺しにしていたが、これでは剣がダメになると気づいてからはとりあえず飛びかかってきた勢いを利用して、剣を置くように使い、刺身のようにそっと切り裂くようにした。
クラーケンドッグに関しては手に負えない。
触手を切り払っても切り払っても生えてくる。ナーガと同じく自分より半分以上背の低い魔獣というのは、やりづらいことこの上ない。
そういう時は流石に後退して、上級生の援護を情けなくも貰いながら戦っていた。
無尽蔵に現れてくると思われた魔獣だが、その数は徐々に減っていき、アタシが出張らなくても雑魚に関しては問題無いレベルまで落ち着いてきた。
そんな時だった。
「オリヴィアお姉様!」
呼ばれたその声に振り向くと、青い顔をしたヘンリエッタ=クラウゼが居た。
「っクラウゼ!? 貴女、どうしてここに……!?」
息も絶え絶えのその様子に、全力でアタシを探していたのとわかる。
慌てて駆け寄って崩れ落ちそうになるその身を支えた。
「模擬戦場には私もおりましたの! それよりも、神楽さんが……!」
「神楽に何かあったの……!」
思わず腕に力が入る。
クラウゼが、泣きそうな瞳のまま、掠れた声で叫んだ。
「神楽さんが、魔獣にさらわれました……!」
ギリギリ……。
次は来週の土曜です!




