第05話 クラス分け
「私、メルベリさんと同じクラスになれたら嬉しいです」
この学園には大きな正面玄関があり、そこに掲示されているクラス分け表を見に向かっている最中だった。
ぽつりと呟かれた言葉に一瞬だけ動作が遅れる。原作主人公の人当たりの良さに触れた気分だ。
ゲーム中にその片鱗は見る事が出来る。けれど、それが自分に向けられるとは……。
動揺を抑えるように声を出す。
「……そう?」
「はい。きっとご一緒になれれば素敵だなと思いました」
「ふぅん」
並んで歩く隣を向けば緩やかな笑顔。
こてん、と首を傾けるあたり、素敵にあざとい。アタシじゃ逆立ちしてもその可憐さは無理だ。
今はこうして連れ添って歩いているけれども、彼女、彼らの活躍をやや離れて見る立場で居たいという願望に変わりは無い。
変にシナリオを変えてしまったら不味い。今この瞬間も、出来ればゲーム中に描かれなかったクラスメイトとの交流程度だと思っていたい。
だから、そっけいない態度を取るのは間違いじゃ無いはず。
「あまり、そういうのは期待するんじゃないの」
「そうですよね……はい」
ややツンとしてそう言えば、しゅんとした気配。
これはこれで辛いものが……でも方針を見失うわけにはいかない。
すれ違う生徒の数が増える。みんな、顔も名前も知らないが、ゲーム中でも存在していたのだろう。
自分より若い子、教師ではないだろうかという年齢の高い人もぼちぼち見える。
流石にご老体と思える人は見えない。
見えてきた掲示場所には、数多くの生徒が群がっているのが見える。誰も彼も同じに見える。そこに自分も混ざる。そしてメインキャラクター達の生活を見守るのだ。
「それじゃ。また、縁があったら会いましょう」
「校内ですれ違ったら、声を掛けてもいいですか?」
不安そうな声に苦笑してしまう。この後起こる問題にも屈せず、大物男子学生達と出会い、能力を開花させていく未来の大物にこう言われるのも今だけだろう。
「ふふ、それを言うのはアタシかも……」
「?」
「何でも無いわ。じゃぁね。共同の授業ではお世話になるかもしれないわね。学生生活、お互い頑張りましょう」
「はい!」
神楽とは別場所から学生の群れへと突入する。後から後からやってくる学生によって、すぐに神楽と分断されたのがわかった。
天井も高く、ステンドグラスに透けた光が床をカラフルに染め上げてたりするエントランス。
中央にある巨大なコルクボードは、原作ゲームでは、読めない字で絵が描かれた告知物が貼り付けてあるように見える背景画像だった。
今は違う。一つ一つ、クラス名や学生の名前が書かれた巨大な紙が張られている。
パソコンもプリンタも無いと全て手書きになるわけで、なんというか、
(読みづらい)
のである。
それに、張り出された紙の真ん中と上側は見えるが、下側は近づかないと生徒の壁で見えない。
もっと深く群衆に入り込む。
自主訓練だと思って隙間を縫うように通り抜ける。
ちらりと周囲を見ても、神楽の姿は紛れて見えない。
神楽は銀髪に限りなく近い白髪であるものの、この世界の住民の髪色は謎にカラフルなので、白もぼちぼち居るので割とぱっと見で見つけられそうにない。
いや、凝視すれば多分分かるとは思うけれど。
手で通りますと意思表示してから掲示板から名前を探す。
ゲーム中では名無しのモブだった以上、アタシのクラス分けに関する情報は存在しない。この一覧の中から自分のクラスを探すしかない。
A……無い。B……も無い。文字ばかり見て目が滑る。C……無い……いやあった!
Cクラス。
Eクラスまで見に行かないで済んで良かったと思う反面、何かがざわつく。
Cクラス?
記憶の奥を擦るような感覚。そこでふと、神楽は何処のクラスだったっけと思い出そうとする。
確か……ツーと、Cクラスの名簿を、自分の名前より下を舐めていく。
その直ぐ先に、見つけてしまった神楽の名前を見て、「マジか……」と零したのは許して欲しい。
……気がつかないで欲しいけど、神楽の名前より先にアタシの名前があるのだから、恐らく神楽が見つけるだろう。
というか、ここで見つけられなくてもどうせクラスに行った時に明らかになる。神楽がこの時点でアタシを見つけていなくても意味が無い。
同じクラスと分かったとき、もしかしたら笑顔になったりしそうだなとぼんやりと思う。
とりあえず、クラスは分かったので、踵を返すと学生寮へと向かった。
次は水曜日です。が、そろそろ週一にすべきか悩み中です。