第49話 決闘
とうとうその日がやってきたかと、神楽ではなくアタシが緊張していた。
場所は模擬戦場で、隣には神楽が居る。
後方にはゼン様とフィオが居るはずだ。先ほどまで、言葉少なく神楽とやりとりをしていた。
周囲を見渡す。
模擬戦場には放課後にも関わらず想像以上に学生達で溢れていた。広い模擬戦場だ、別の場所は誰かが借りて使っているようだが、学生達の注目はこちら側に注がれている。
足場も無いという事は無いが、壁際は一通り埋まっている。
一年生だけで無く、二年、三年も居る――――制服を自由に改造しているからおおよそ見てわかる。
だいたいは興味深そうな顔をしていたり、そもそも友達に連れられてきたのか、何が始まるのかわからない子も見受けられる。
決闘の話が出たときからひそひそと話自体は広がっているのは知っていたが、想像以上に興味を引いているようだ。
わかってはいるが、所詮学生にとっては見世物程度の物と思うともやっとする。
しかし、張り詰めた表情を見せている神楽は周囲を気にすること無くじっと向こうを見つめている。
その視線の先には、審判役の生徒がいて、更にその先には月影キンコがいた。
「勝てるね」
「――はい」
疑問では無い。確定口調で告げると、しっかりとした返事が返ってきた事に安堵する。
プレッシャーだろうか。でも、神楽に掛ける言葉は頑張ってという言葉や疑問では失礼だと思った。
今まで、直接は結局教える事は無かったし、最後まで請われはしなかったけれど、強くなっていく様はじっと見ていたから、これで良いと思う。
月影キンコの方も誰かと話している。相手は上級生のようで、向こうも誰かに鍛えられていたようだった。
ただ、月影キンコの様子は少しだけ不自然に見えたけれど……「オリヴィアさん」話し掛けられ、視線を神楽へと戻す。
真っ直ぐな瞳と視線がぶち当たった。
「ん?」
「行ってきます。勝ってきますから」
「うん」
気力万端な状態で歩いて行く後ろ姿を眺める。
こんな大一番で、周りに人がいようとも集中出来る姿を見ると、流石原作『Diamondに恋をする ~ユア・ベスト・パートナー~』の主人公だと感服してしまう。
アタシなら、絶対に無理だ。今のアタシは出来るかもしれない。でも、かつての、前世のアタシならもう緊張してわけがわからなくなっていたと思う。
その後ろ姿に、物語のキーを握る、『神楽ルカ』という存在の片鱗を見た気がした。
対する月影キンコも、神妙な顔つきで歩いてくる――――。
side - 神楽ルカ
目の前にいるのは、月影さんだった。
挨拶をと考える前に、向こうから声を掛けられる。
「お久しぶりですわね、神楽ルカ。貴女がメルベリ様のお隣で居られる、今日が最後の日ですわ」
「お久しぶりです、月影さん。そうはならないです。だって、私が勝ちますから」
そう告げると、一瞬だけこちらを見て眉を顰める。
何か言おうとしたのだろうか、口を開こうとして、しかし直ぐに暗い笑みに変わった。
「まぁ、貴女がどう言おうと結果は変わりませんわ。メルベリ様の隣に、貴女のような有象無象が居てはいけないのです」
「――――」
一瞬だけ、その言葉に意識がぶれる。いけない、と気を引き締め直す。
「オリヴィアさんは、孤高を望まれる人では無いですから。私は側にいるつもりです。これからも」
「減らず口を……」
月影さんがレイピア――――やや剣に近いのは魔獣戦仕様らしいと知った――――を構える。その姿は堂に入っていて、同じ時期に戦闘訓練を始めたとはとても思えない。けれど、ゼンさんが試しに見せてくれた立ち姿よりかは、遙かに『勝てる』と思う。
視線が合う前に、ゆっくりと瞼を閉じる。
私は、今まで誰かと衝突するといった事はしたことが無かった。
この光栄宮学園に来るまでは、両親は優しく、村の人達は全員顔見知りで、全員で支え合って生きてきていたから。
でも、こうして学園に通い始めると、色々な人が居て、色々な人がどうあってもお互いに影響を及ぼし合っていて、関わる人が多ければ多いほどにどうしても衝突は起こる。
そういう時、自分から立ち向かっていかないとより悪い方向へと向かってしまうという事を知った。
今回の決闘の件だって…………いや、それよりも前の時だって。知らない間に誰かの不評を買い、何か陰口を言われたり、悪意の被害を受けたりする。
こんな大変なのが世界で、私自身があの村だけで育っていたら、きっと何処かでこの世界に触れた時に今の比ではないショックを受けたと思う。
人は、多ければ多いほど悪意を向けてくる人も出てくる。でも、知ったのはそれだけじゃない。
目を閉じ続けながら、きっちりと剣を構える。
足を引き、体勢を整える。
ゆっくりと息を吐く。
ゼンさんもフィオさんも、徹底的に教えてくれた。二人ともこの学園では有名人で、そんな二人が私に時間を割いてくれているのは幸運以外にも何物でも無い。冷静で容赦の無い指摘をフィオさんがしてくれて、温かくも厳しくゼンさんが指導してくれた。
二人とも私とはかけ離れた位置にいる強者で、毎回訓練が終わると私だけぼろぼろになっていたけれど、確実に成長出来ていると感じることが出来た。
二人だけでは無い。授業の模擬戦で相手をしてくれた強い人達の中には、あえて月影さんのような戦闘スタイルで戦ってくれる人も居た。積極的に私と戦ってくれて、言葉にしなくても応援してくれる人は多く居た。頑張ってねと一言優しく言ってくれる人も居た。
クラリッサ、トオコ、マリアンネも、練習が増えて忙しくなっても変わらず接してくれて、ゼンさんやフィオさんの都合が付かないお昼休みとかはいつもお昼ご飯に誘ってくれたり、放課後に時々クラリッサが一緒に寮に帰りつつお喋りしてくれたり、温かい言葉を掛けてくれた。
自分以外を助けようと行動してくれる人がいる。無関係であろうと、少しでも力になってくれる人達がいる。
それに、辛い期間だって耐えられたのは、何時も側に彼女がいたからだった。
入学式には助けられて、一目見て緊張してしまうぐらいの美人で、実は部屋が一緒という事がわかって嬉しくなって、いつも凜としているのに部屋に戻ると素のぶっきらぼうな感じになるのが面白くて、授業ではピンとして真面目なのに、部屋に戻るとわからないと言いながら教科書を開いてソファで呻いていたり、その素の表情を見せてくれるのが私だけで。
それでいて、初めて魔獣と戦った授業では、ただ二面性を持っているだけでの人ではない事を知った。凄まじい剣捌きは誰もが太刀打ちできず、先生をも超えていて、実は学園から特待生として入ってくるような実力の持ち主。でも、ゼンさんと彼女の模擬戦の結果は、彼女がゼンさんを崇拝しているからしょうが無いのかもしれないと密かに笑ってしまった。
あとは、隠しているようだけれど。
あるとき、物を隠されたり教科書を破かれたりといった事が起きて、これから先どうなるのだろうと一人で不安になっていた。彼女にそれを告げるのは何だか恥ずかしくて、それとなく聞かれた際に何でもないと無理して振る舞ってしまって。
それが、あるときぴったりと無くなった。
その裏で、彼女がまたしても私を助けてくれたと知ったのは、少ししてからだ。
何も言わないし、いつも通り振る舞ってくれる。最近は疲れてソファで眠ってしまっていても、朝起きるとベッドの中でちゃんと寝ていて、恥ずかしくも何処かそれが嬉しかった。
だから、今回はせめて決闘では彼女の力は借りたくなかった。何時も助けられるような事はしたくないと、そう思ったから。
今、こうして月影さんの目の前にいる私は、多くの人の力を借りて立っている。
目を開ける。
月影さんと視線が合った。
「行きます」
「叩き潰してあげる」
覚悟に不足は無い。そう思ってじっと見つめれば、相手の視線が一瞬揺れた。
「お互い準備はいいね? ――――それでは、試合――――開始ッ!」
審判の声が響くと同時に、待ちきれないとばかりに、両者は一気に踏み込んだ。
次の更新は引き続き土曜です。
本当は決闘を書き終える予定だったんですが、無理でしたー。
モンハ○ラ○ズは関係無いと思います、ええ。多分。




