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第42話 海と海老とクエストと

「まずはお昼ご飯でしょ!」


 という長月の一声により、4人は馬車を降りるとそのまま大通りから店を物色する。

 玉石で作られた石畳がきっちり敷かれた大通りは何処を見通しても人、人、人ばかりである。無論、前世の都内と比べればそこまでではないけれど、それでも多いと表現して差し支えなかった。

 老若難所問わず、ファンタジー的な服装やら現代的な服装やら、建物の外見のようにごちゃ混ぜになって生活する様子は、何時の間にかアタシの中では言葉にする程の違和感が無くなっていた。

 なんだかんだで統一感のあったユピ神国から離れ、このヨルム王国に馴染んできた証左なのだろう。


「相変わらず凄い人ごみですね」

「だよねー。ウチの国だとこんなに行かないし、そもそもここまで大きい道も無いしね」


 クラリッサの感想にそう呟きながら、楽しそうに周囲を見ているのはマリアンネだ。

 

「そうなんですか?」

「そそ。ウチの生まれはウィシュト共和国なんだ」


 ウィシュト共和国。ゲーム上では基本的には設定でしか出てこない。この世界は魔獣蔓延る魔森林に隣接したヨルム王国、ヨルム王国とは広大な森林を挟んで隣接するシペ帝国とユピ神国があり、シペ帝国とユピ神国に隣接する形、つまりヨルム王国の反対側にウィシュト共和国が存在する。

 ファンの間では続編だのファンディスクで使用するだの話は出てきていた。

 確か、と思い出しつつマリアンネに問いかける。


「ウィシュト共和国には海があるのですよね」

「あるよー。まぁ、あの国には主な物が坂道と海しか無いんだけどさ。や、城も観光名所としてはやや有名だったかも?」 


 どうだったかなと悩むマリアンネの言葉に、くるりと体を回転させて目をキラキラと輝かせるのは長月だ。

 

「海かぁ! 私は見たこと無いなー!」

「ふふ。海に降りる道は険しいけど、海からやってくる風は強くて塩っぽくて、見たことが無いくらいの水平線が視界いっぱいに広がるのは中々爽快なのよ、トオコ」

「あれ? リッサーも見たことあるの?」

「あのねトオコ、クラリッサも私と同じウィシュト共和国の生まれだって。前も言ったでしょー」

「覚えてない!」

「全くこの子は……!」


 和気藹々と話す彼女達の話を聞いていると、やはり他の国も行けるものなら行ってみたいところ。

 海を見たのは、前世が最後だ。それも前世でも最後に生で見たのは何時だっけ……と一瞬悩んだものの、夏と冬にある巨大な同人イベントを思い出してなんだかんだで見ているなと思うなどしたが、真っ当に見ていないという意味では確かに長いこと見ていない。

 今世ではまだ見ていないのだから、もう数十年レベルで見ていない事になる。

 観光レベルの出国ならまだ何とかなったはず。永住となると、ヨルム王国から他の国は大変厳しいけれど。


「ウィシュト共和国……何時か行ってみたいわ」

「本当ですか!? もしそのときなったら私が案内出来ますから、是非とも教えてください! 付いて行きます!」

「え、ええ、そのときが来たらよろしくね、クラリッサ」

「はい!」


 食い気味で迫ってくるクラリッサは何なのだろうか。彼女のポニーテールが興奮を示すようにぶらぶらと揺れるのを見ながら内心少しだけ引いている。

 作中では彼女達三人は名前の無いモブキャラなのだけれど、こうしていると彼女達もまた、メインキャラ達のような個性的な子達だと思う。

 焦点が当たらないだけで、彼女達もまた、個性豊かな人なのだ。


「ところでさ。ご飯なんだけど、あそこにしない?」


 マリアンネが指さしたお店。

 思わず面々で顔を見合わせて分からないでも無いと頷く。

 

「あー」

「……話題にも上がりましたしねぇ」

「そうね……」


 そこの看板には、海老の画が大きく描かれている。

 海産物がメインの飲食店だった。

 全員、異論は無かった。




「美味しかったですね、オリヴィアさん」

「そうね。不思議な感じがしたけれど、また来て食べたいと思ったわ」

「ウィシュト共和国に観光に来たら、もっと美味しいですよ。私のオススメの料理屋とか紹介出来たら嬉しいです」

「そのときはお願いするわ」


 お値段は高かったけれど、この世界に来て初めて食べた海老は懐かしき前世を思い出すには十分だった。

 鮮度や味は確実に落ちていると思うのだけれど、食べた瞬間にジーンと心に来る物があった。異世界に来て懐かしいと思うのは中々奇妙な感じがする。

 ただ、メニューを開いた瞬間、お昼ご飯にしては良いお値段でアタシは安めの物を選んだけれど、周囲は躊躇せず注文していたのを見てこれが財力か……! となった。

 

 奨学金で間に合っているとはいえ、やはりアルバイト感覚で稼げるものがあればやっておきたい。

 そうすれば学園内のカフェで妙に気を悩ます必要もなくなるし、こうして買い物も余裕を持って出来るようになるはずだ。

 あまりアルバイトに傾向すると休日の原作イベントを見逃してしまう可能性があるのは本末転倒なので注意するとして、作中でさらっと出てくるクエストには手を出してみたいところ。


 次は服を見に行こうと話し始めているクラリッサとマリアンネの後ろで、それとなく長月に聞いてみる。

 

「クエストって、どうやって受けるの?」

「ん?」


 原作ゲーム中は神楽やゼン様が素でクエストと言っていたのでそのまま喋ってしまったが、そもそもクエストという言葉が通じるのか一瞬不安に思った――――


「何々? メリっち、認定? を貰わないと?」

「ええ。ちょっと興味があるの」


 ――――のだが、素で通じるとは。


「あそこは登録制だから、先にクエスト仲介屋の人から認定を貰わないとなれないよー」

「そうなんですか?」

「うん。まぁメリっちなら実力を試して貰えれば直ぐにでも登録は出来るよー。うちの学園生だと少なくとも身分とかの調査票? とかいちいち出さなくても済むから結構楽みたい! 私がやったときとか、数時間調査とかで拘束されて、親に話が言ったり手間だったんだよねー」

「……」


 ゲーム中ではそんなのがいるとは一度も聞いたことが無い。

 そもそも、ゼン様に誘われて神楽とフィオが気分転換にピクニックに行くというレベルでクエストをやってたはず。

 ゼン様が居たからそのままチェックも無くスルーされたのだろうか。

 香月院家はこの国では王様の片腕と呼ばれる程信頼があるし。


「実はうちらも登録してるしねー」

「そう、なんですか?」

「うん。私は光栄宮学園に来る前からやってたけど、リッサーとアンネは光栄宮学園に入ってからすぐに登録したよ。あ、私の紹介だから、二人とも出来る範囲は私よりちょっと狭いけど……。メリっちは私たちと同じ範囲だと多分物足りないよね? 実力試験で認めて貰った方が選べる範囲が多くなるから、そうしてもらいなよ!」

「はぁ……」


 思わず目をぱちくりとする。

 模擬戦を見る限り、まだ魔獣と戦うには危険過ぎると思うのだけれど……。

 引率の人を連れて討伐にでも行くのだろうか?


「たまに受けるんだけど、レストランのお手伝いとか、魔獣の襲撃で壊れた家屋の掃除とか、時には子守とかもあって以外とバリエーションあって楽しいよ! あ、光栄宮学園に入ってからは魔獣の解体授業もあるから、解体も出来ると言えば出来るようになったんだけど……」


 腕を組んで、小さくあれは臭くてやだなぁと頷く長月を見つつ、別に魔森林に向かうだけがクエストじゃないのかと理解する。

 てっきり魔森林の外に出て開拓していきましょう! というのがクエスト存在意義かと思っていたのだけれど、普通に地域に密着したお仕事の斡旋状という感じだ。

 今よりもっと若い頃の長月が登録出来たのだから、認められる必要があると言ってもハードルは高く無いようだ。出来る範囲の制限を食らうだけという感じがする。

 ただ、それならまぁ。

 

「私も登録しておこうかしら」

「おっけー! ねぇねぇリッサーとアンネ! どっかで時間を見つけたら……」


 と長月が喋った時だった。


「キャアア! ドロボー! 誰か止めてー!」


 という女性の大声が大通りの横路地から聞こえてきて、私たちは歩みをピタリと止めた。

 

次の更新は次の土曜日です。

ドロボーはサクッと行きます! ええ!

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