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第41話 騒がしき移動

 月影キンコ――――神楽の決闘相手との出会いは衝撃だったものの、神楽から関与無用みたいな事を言われているわけだし、現状は傍観に徹するだけだ……というより、これが原作のイジメイベントの代わりであるなら、積極的に手を出さずに理想通り傍観に徹するべきである。

 美味しい所はしっかりと目撃し、メインキャラ達の活躍ややりとりを眺めなければならない。


「彼女の事はひとまず置いといて……どうしようかな」


 うーんと手を当てる。

 目覚めた直後は街に買い物をしに行く気分ではなかったものの、神楽にああいった手前、今となっては逆に寮で大人しく過ごすという選択肢は消えた。

 日用品は別に足りているのだけれど……まぁどうせ消耗品なのだから、追加で買い足せば良いか。

 何なら、ゲームの設定にはある"クエスト"とやらが出来るならちょっとぐらい見てみたい。まぁ原作ゲームの『Diamondに恋をする ~ユア・ベスト・パートナー~』では、クエストに関連する事はおまけ程度のお話で、数回出たあとは主人公である神楽が関係することは無かったのだけれど。

 確か、普通にチームを組んで魔獣を狩るような物とか、宝探しをする冒険者らしいそれっぽいものとか、街のお手伝いとか割合幅広くあったはずだ。


 てくてくと歩いて学園の門から出てすぐ。

 街と学園を繋ぐ手段である馬車が未だ暇そうに止まっていた……と思っていたが、近付くと朝見掛けたときのおっちゃんでは無い別のおっちゃんであるため、ぼちぼち人の流動はあるようだった。

 馬車は学園と街の間の移動なら実はタダだ。

 学園が一括で契約しているらしく、流石のお金持ち学園と言ったところ。


「すみません、街までよろしいですか?」

「んー思ったより早かったな……って、違う子か?」

「?」


 首を傾ける。誰かと勘違いしたらしい。

 疑問の声に応えるようにおっちゃんが口を開く。

 

「いんやな、ついさっき友人を呼んでくるから待っててと言われててな。嬢ちゃんは違うだろう?」

「たぶん……違いますね」


 先約アリだったらしい。

 そうなるとその子達が来るのを待つか、別の馬車が来るまで待ちか。

 

「まァ相手さんも同じここの女子学生だ。3名って聞いてるから、別に相乗りで問題ないだろう」

「いえ、先約があるなら他のを待ちますが……」

「他の馬車は……」


 何か脇から、長方形の薄い……割り符? のような取り出し、何かを確認する。

 他の馬車の位置か何かを知るための魔道具っぽい。

 それを見て顔をしかめる御者のおっちゃん。

 

「……あーまだ来ねぇみたいだ。まァ御者から言われたら納得するだろ、軽く説得するから乗ってけ乗ってけ」


 実に軽い……険悪な雰囲気になったら困るのだけれど。

 

 ……仕方が無い、寮に戻って寂しく自主勉強でもしようか。いや、図書室にでも行けば本もいっぱいあるし、楽しく時間は潰せるかもしれない。

 そこまで考えてから、


「あれ? メルベリさん?」


 と声を掛けられる。

 声がした方向に顔を向ければ――――三人の見知った女子生徒達が見えた。




 ガタンゴトンと動き始める馬車に揺られる。

 室内には4人が多少余裕がある感じに対面で座り合っている。

 

「初めてですね! こうしてメルベリさんと街に出掛けるのって」

「ええ、そうね」

 

 何やらテンションがあがった表情で前のめりに話し掛けてくるのはクラリッサだ。

 真っ正面に座っている彼女は、何が嬉しいのか凄くにこにこしている。

 長いポニーテールを揺らしていて、隣に座っているマリアンネが時折揺れてきた髪を雑に追い払っていた。


「いやーリッサーも元気いっぱいだねー」


 アタシの隣でそう呟いてクラリッサを見つめているのは長月さんだ。

 神楽と似たような小柄な背丈な為か、何となく見ていて安心するサイズ感。


「……元気になりすぎでしょ。や、わからないでもないけどね」


 マリアンネがにやりとそう言うと、また揺れて向かってきたクラリッサのポニーテールの先を猫がするようにパンチしている。

 

 ここに居るのは、アタシを除いて……名前は確か……クラリッサ=ニコリッチ、長月トオコ、マリアンネ=リーシュだったハズだ。

 寝る前によく神楽と会話するけれど、例の決闘騒動時の夜、雑談した際に聞いた名前が確かそんなフルネームだったはず。

 まだ親しい間柄とは言えないものの、彼女達三人は基本的に賑やかで、アタシとしても彼女達と一緒に馬車に乗れるというなら是非もなかった。

 

「貴方たちも寮生だったの?」

「いえ、寮にいるのは私だけ何です」

「クラリッサだけなの?」

「はい。マリアンネとトオコは街に自宅があって、休日はこうして寮に押しかけてくるんですよ」


 やれやれとクラリッサが首を振るが、別に嫌とは思っていないのは明白だ。


「となると……マリアンネと長月さんは馬車に乗るのは今日で二度目かしら?」

「そうなるね」


 何も気負わずにマリアンネが答え、長月さんが追従するように頷く。

 実に慣れきった対応だ、これは毎週レベルで遊びに来ているに違いない。

 良い友情ですなぁと内心微笑んでいると、不思議そうな声が正面から聞こえた。


「そういえば何ですけど、なんでトオコの事はさんづけなんですか?」

「……何ででしょうね? 何となく長月さん、と呼ぶ方が語感が良かったから……かしら」


 振り返ると、確かに模擬戦の時とかでも“長月さん”と呼んでいたような気がする。

 日本人寄りの名前が付いていたのでつい呼び捨てではなくさんづけにしてしまったという感じだ。


「んー別に長月でもトオコでもどっちでも良いよ?」

「では、長月、で良いかしら?」

「うん! メリっちありがとう!」

「別に感謝されるような事は何もしていないのですが……」


 長月さんは天真爛漫、お団子ヘアで元気いっぱいという感じだけれど、割と不思議系が混ざっているのかもしれない。

 長月はマリアンネと話し始めて、クラリッサとアタシがやや無言……になるのはちょっと気まずい。

 ちらちらとクラリッサの視線がこちらに向いているのがわかる。

 聞きたい事でもあるのだろうか。それとも無言な空気に耐えられず、しかし話し掛けづらいから躊躇しているとか? のであれば、とりあえずこちらが疑問に思っている事を簡単に聞いてみる。


「……貴方達は街までは遊びに?」

「え、あ、はい! 私は買い物もする予定ですけど、基本的にはそうですね」

「何をするの?」

「そうですね。基本的には新しいお洋服とか、美味しい物とか、みんなで見て回ったりします。あ、本屋や演劇を見たりもしますね」


 おお、普通に高校生とか大学生っぽい。やっぱりウィンドウショッピングと食べ歩きは世界が変わっても共通の楽しみ方という事か。


「メルベリさんは何をしに?」

「私は普通に日用品……主に消耗品を少し買い足そうと思ってね」

「そうなんですか? その……剣とかを見に行く感じですか?」


 その問いに吹き出さなかったアタシを褒めて欲しい。

 

「……別に武器関係じゃないわよ。普通に日常生活で使う布とか、飲み物用の葉っぱとかそういう物よ」

「てっきり、メルベリさんなら鍛冶屋の常連とかだったりするのかなって思ってました」

「私はヨルム王国で鍛冶屋のお世話になったことはまだ一度も無いわ」

 

 答えながらも何でやねん、と内心突っ込みを入れてしまった。

 幾らアタシが精神年齢高めと言ってもそこまで枯れた人生は送っていない。

 休日になると剣の調子を確かめるために鍛冶屋へと向かう乙女ゲーキャラが居たら教えて欲しい。

 そもそも魔獣と戦ったのは、この前の魔獣襲撃の授業の時だけだ。

 あの時使ったのは自前の剣では無い以上、自室にある剣はまだ鍛冶屋にお世話になるような状態じゃない。


 そこから、マリアンネがこの中で一番演劇が好きであることとか、ベッタベッタで甘い騎士とお姫様の話を夢見がちでクラリッサが語ったりとか、長月がアタシの剣の強さの秘訣を聞いてきて、適当に答えて何故かドン引きされたりしているうちに、アタシ達は街へと辿り着いた。

 

次の更新は変わりなく次の土曜日です。

ポニテ、ショトカ、お団子ヘアの三人娘です。

うおー色々と設定がー! とじたばたしていたので、過去の設定と矛盾してたらそのうち直します、過去話を!!

週間でも連載って難しいですねーと思いながら進めてますが、また次もよろしくお願いします。

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