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第37話 訓練をする人々2

 フィオと神楽が戦っているスペースへと近づく。

 

「よっと」

「くぅ!」


 フィオは二つの短剣を器用に操り、神楽を翻弄している。片方は守り、片方は攻めときっぱりと分けているようだ。

 男子にしては小柄な体で軽やかに動き回る。

 対して神楽の方は一生懸命に剣を振り回しているけれど、フィオの方は楽に裁いている。こちらを見て一瞬ニカっと笑ってくるぐらいには余裕がある。

 

 それにしても、神楽の成長速度には驚かされる。

 前回の授業で幾つか戦った女子学生達よりかはよっぽど動けている……というより、()()()()()()()()()()()

 

「ほら、今度はこう行くよ!」


 だが、それでもフィオにはかすりはしない。

 片方の短剣で神楽の剣を受け止めたかと思うと、一瞬で刃を滑らせた。

 

「え、あ、ったぁ!!」

「ほらほらほら!」


 今度は逆の手一本で神楽を攻めたてる。手加減はしているが、それでも神楽は余裕が無く受けに徹し、足も下がり始める。

 隙があれば容赦無く体に突き込む様子は、ここが模擬戦場だとわかっていても非常にハラハラさせられる。

 間違いなく重傷や即死級の攻撃も、ここでは衝撃に変換されるだけだ。

 それらを見ながら、壁に寄りかかるゼン様へと近づいた。

 じっと二人を見つめていたゼン様もこちらを見て軽く手を振る。その姿だけで感無量だった。やはり姿良いとどんな場所でも映える画になる……!

 

「おはようございます、香月院様」


 無論そんな内心の葛藤は見せなかった。

 優雅に礼をする。

 

「ああ、おはよう、メルベリ。……胸を押さえてどうかしたか?」

「いえ、いえ。お気になさらず……」


 不思議そうにこちらを見る姿に、首を緩く振る。

 名前を呼ばれて胸がいっぱいになっていたとは言わない。

 実はゼン様に名前を呼ばれたのが初めてだった。


「神楽の様子はどうですか」

「そうだな……」


 その言葉に、複雑そうな表情で戦っている二人組を見る。

 アタシもつられて視線を向ける。そのまま、しばらく眺め続ける。

 神楽とフィオの攻防は、フィオによって攻めと守りを適宜変えつつ行われていた。地面には所々に濡れた跡が見える。彼らの汗だった。目の前の一戦だけでは、到底説明のつかない跡の数々。

 それらを眺めてから、ゼン様は幾分か迷った末に口を開いた。

 

「……順調ではある。飲み込みは早いほうだな。このペースが続くなら、半年後には並の男子生徒では太刀打ち出来ない実力になるだろう」

「高評価ですわね」

「このペースが続けば、な。やり始めは成長が早い。成長速度は何処かで鈍化するのがわかっている」


 そこはそうだろうな、とアタシもそう思う。

 続けて、

 

「それに、決闘の後も神楽が続けるかはわからない。……続けない方が、いいんだがな」


 とも複雑そうに告げた。

 ……ゼン様と神楽の関係は、言ってしまえば昔に出会った幼馴染みだ。かつてゼン様が神楽を守った。ゼン様だけが、神楽の事をはっきりと覚えている。

 当時は守るべきと決めていた子が、今変容しつつある様子は許容するのが難しいのだろう。

 ゲーム作中のゼン様は、徹頭徹尾、神楽を守る立場のキャラとして描かれている。精神的な対立時はともかく、こと戦いにおいては常に庇護下に置いていた。

 

「真面目で、一途。こうあるべきと決めたら突き進む。そんな性格な彼女だ。一時的かもしれないが、強くなりたいと願えばこうなるだろうとは思っていた」


 そんな正史を知っているだからこそ、複雑そうに語るゼン様を見るとこちらも辛い気持ちになってくる。

 これは、アタシが背負わなければならない問題の一つだと心に刻む。本来なら、こうはならなかったのだ。

 

「よく見ていらっしゃいますわね」

「神楽と話す機会は多いからな。しかし……」


 そこでちらりとこちらを見ると、ふっと笑う。

 笑いかけられた様子にドキリとする。百万ドルの笑顔で心臓が止まる。


「君の話題もよく耳にするよ。何時も楽しそうに話してくれる」


 動揺した心に、その台詞は無防備に直撃した。

 

「……そうですか。それは嬉しいですわ」


 顔が熱を持ち始めるのを感じる。作中で思い入れのある主人公である()()神楽ルカから、自分の話をよくされているとは。

 

「君も照れる事があるのだな」

「っ、お戯れを」


 赤くなりつつある顔を伏せると、目の前の戦いが終わる気配がした。

 

「はい、終了っと」

「っはぁー! っはぁー! や、やっぱり強いですフィオさん……!」


 フィオと神楽がこちらに歩いてくる。

 フィオは、慣れた様子で二本のナイフをくるくると回すと、器用に腰の後ろにある鞘へしまい込む。

 神楽は長い髪を縛ってポニーテールにしているものの、所々乱れている。

 それに心底疲れたという表情で剣を抱きしめながら歩いている姿は……何というか、本当にあのメインヒロインだろうかと思うぐらいの姿だ。顔の熱が急速に冷えていくのを感じた。神楽には悪いが良い冷却剤だった。


 フィオが神楽の言葉に反応する。

 

「そりゃそうでしょ。ついこの間初めて剣をまともに振り回しました、って子に並ばれちゃ世話無いでしょ。それと動き悪すぎ。懐に入られてからの判断がトロ過ぎ。そっちが使ってる剣はそこそこ長いんだからさ、懐に入られた時点でアウトだけど、入られてからの判断が出来ないのはもっとアウトだよ」

「す、すみません……がんばります……。えっと次は……」

「君の体力がもう無いでしょ。休みね」

「はい……」


 フィオのアドバイスを受けてしょぼしょぼとこちらに来る。


「お疲れ様」

「あ、オリヴィアさん!」


 声を掛けた途端、ぱぁっと笑顔になって小走りにやってくる。まるで犬だな、とゼン様が小さく零していたのが耳に入り、ツボに入るかと思った。思ったよりお茶目なこと言いますね、ゼン様……!

 それはさておき、ぜーぜーと荒く息を吐く神楽が落ち着くのを見計らってから声を掛ける。

 

「改めておはよう、神楽」

「はい! おはようございます!」


 ぺかーという笑顔。守りたい、この笑顔。誰もがほんわかさせられるよな素敵な表情。

 

「オリヴィアさんはどうしてこちらへ?」

「今日は特にやるべき事もないから、貴方の様子がどんなものかと見に来ただけよ」

「そうなんですか! ありがとうございます!」


 ぺこりと礼をする神楽の髪が気になって、一歩近づいて指で梳く。

 神楽が身を引こうとしていたので、更に一歩踏み込むと大人しくなった。


「あの……汗でべたついているので……」

「そう? 気にしないわ。それにしても頑張っているわね」

「……はい。でも、ここ最近は体中が痛くて……」

「貴方、寝る前は最近ぎこちないものね。筋肉痛かしら」

「多分……」


 櫛を持ってきてなかった……乙女力が駄々下がりと思いながらも、熱気を感じるほどの神楽の髪を梳かし続ける。

 静かになった神楽を見ながら、本当に強くなってるなぁとしみじみ思う。この調子なら、そう易々と負ける事は無いだろうし、十分勝てる可能性があるだろう。


「メルベリ、オレと一戦しないか」

「え」


 それは、唐突だった。遠くからの剣戟の音を除いて静かになった場にゼン様の提案。

 ぴくりと固まってゼン様達を見れば、フィオと揃ってこちらを見ている。

 ようやくこっちを見たよ、とフィオが呆れ顔で呟いていたので、空いている手で適当に挨拶をした。

 

「授業では時間が無く手合わせが出来なかったからな。魔法抜きで手合わせしてみたいと思っていた」

「え、ええっと。私は「おー。ボクも気になるな。ボコボコにされる香月院とか超みたい」」


 アタシの台詞に被せるようにフィオが口を挟むと、ゼン様がその様子を鼻で笑う。

 

「ぬかせ」

「そもそも私は……!「オリヴィアさん!」 か、神楽!?」


 抵抗の声を上げる間もなく、神楽ががばりと顔を上げるとがしっと両手を掴んだ。

 

「あの、ゼンさんはとっても強いです……! でも、オリヴィアさんならきっと勝てると思いますから! 頑張ってください!」


 キラキラとした瞳。黒い瞳の奥に期待の二文字が輝いて見える気がした。ゼン様も既に適当な剣を持って場に入っている。素振りもしたり、足をチェックしていたりと準備に余念が無い。

 逃げ場は無かった。

 

「……何でアタシが推しと戦わなければならないの」


 そう呟いた声は「おし?」と首を傾ける神楽にしか届かなかった。


あけましておめでとうございます。今年もよしなに。

新年一発目の更新です。

そしてブックマークの登録ありがとうございます。

今年はテンポよく進め……られたらなぁ……。

次の更新は引き続き来週の土曜日です。

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