第34話 変わる日常
模擬戦の初授業が終わり、みんな昼休みへと移行する。
この後も授業があると考えると、大多数は疲れて眠ってしまうんじゃないだろうか。
アタシは問題は無さそうだけれど、制服のまま強行したため、汗臭いのではとかなり気になっている。
寮に用意された魔道具の洗濯機が現代以上のスペックのため、今日が無事に終われば特に問題は無いだろう。
それはそうと、模擬戦で神楽をクラリッサと一緒に支えようとしたのだけれど、なんとゼン様がそのまま抱えてしまった。
がっつりとお姫様抱っこで。
それを見ていた女子生徒から――――学年問わず――――羨望と嫉妬の混ざった視線を貰ってしまっている。それに加えて黄色い悲鳴がそこかしこから上がる。
神楽は重いのでとか歩けますとか、顔を真っ赤にしながらとあわあわしてしまって周りが見えていない。
こんな香月院ゼン×神楽ルカをスチルじゃなくてリアルで見ることが出来るなんて……! と、思わず両手を胸の前に当てて感極まってしまう。解像度は無限大です。
「……いい」
やはり原作キャラの濃密な絡みは良い。惜しむべきは神楽がジャージであることか。ゼン様は普通にマント羽織った制服姿だったけど。模擬戦は汗をかくほどやらないのかもしれない。あるいは相手がいないか。
あと模擬戦シーンをゲーム中に入れなかったのはどうしても絵が映えなかったから、というのはありえそうだ。ジャージと制服とか、アンマッチ感が半端ない。
颯爽と歩き出すゼン様と赤い神楽を固まって見ている間、
「やっぱり憧れるんですか?」
と隣のクラリッサに見られて勘違いされたが、ああ、とかええ、とか適当に答えていた。
こうだよこう! アタシは傍観してイベントを眺めたいのであって、アタシが混じりたいわけではないのだ! と改めて自分の主目的を思い返したりもした。
とまぁ模擬戦はこんな調子で終わり、女子の更衣室手前で神楽を預かるとゼン様は颯爽と立ち去ったのだった。
ただ別れ際、ゼン様とふと視線が合い、「……実は、君とは戦ってみたかったんだが」と言われてクラリッサが赤くなって黄色い悲鳴を上げ、アタシは青くなって引き攣った悲鳴をあげ……そうになった。
昼休みは元気の良かった三人娘と神楽も、午後の魔法の授業では眠気と戦う羽目になっている。
最も、予想通りクラスの半分はうつらうつらとしていて、ご老体の先生も理解があるのか、復習を交えつつ、そんなに進まないように余談に花を咲かせている。
「わしが若かった頃はじゃな、もっとこの国も荒れていてのう。連日連夜、魔獣の侵入騒ぎ。ヨルム王国だけが国土の片側を魔森林と接している以上、当時としては避けられないことじゃった。何故他国ではなく、わしらだけがこんな悲劇に見舞われるんじゃと、思う時もあった。
ときに、ヨルム王国とシペ帝国の間にある大きな森林地帯を……今よりもっと多かったのじゃが、その森を越え、魔獣が隣のシペ帝国へと侵入したこともあり、その時はシペ帝国が苦情の使者を寄越してくるなどの騒乱もあってじゃな……」
聞けば、50年前はもっと町中でも魔物の侵入を許していたらしい。
このおじいさん先生も、侵入した魔物を昼夜問わず追いかけますような武闘派だったとは面白い。
が、治安の悪さは今まで以上で、光栄宮学園の生徒の卒業生が増え、魔道具の開発も進んだ結果、今の平穏がある……と先生は言っているが、今でも魔獣は街に入ることはあるが……。
「まぁ、当時と今では、あまりにも差がある」
感慨深そうにそう言った。
今となっては腰を曲げて魔法についての講釈をする先生が夜空を舞っていたとは想像出来ない。
そんな興味深い話を聞きつつ隣を見れば、案の定、神楽が既に陥落寸前となっている。
必死に目を開こうとして失敗し、首ががくんと落ちて……停止した。
完全に陥落している。
今後も、しばらくはこういう姿を見ることになるんだろうなぁと思う。
神楽は……恐らく原作よりずっと強くなっていく。
原作でも強かった。でもそれは精神的な強さだけだった。本来のイジメイベントではその精神的側面だけが本来強化されていくイベントだった。けれど、今回の決闘騒ぎでゼン様直々に鍛えられることになる。
あの神楽ルカが物理的に強くなるという事がうまく想像出来ないままでいる。
いったいそれが、どう物語を変えるのか……。
神楽が、いじめられた者達に嵌められて森に取り残されるイベントが、この先にある。そして潜んでいた魔獣によって襲われてしまう。
そのとき、原作では逃げの一手をしたから助かるイベントで……場合によってはバッドエンドにもなるイベント。
そのイベントの時、なまじ力をつけてしまったら、どうなる?
イベントでは選択肢を選ぶ。二択だ。
一つは逃げる。もう一つは、立ち向かう。
その事を頭に入れながら、どうするべきかと考え始めた。
既に、授業の事は頭に入っていない――――知らなかったけれど、大幅に授業は脱線していったそうだった。
そんな事を考えながら、日々を過ごす。
神楽は魔法を使う授業もいっそう励むようになり、何とかして魔法を使いこなそうと気力を使い果たすことも多くなった。
放課後も時間があれば誰かに稽古をつけて貰っているらしく、校内を散策しているアタシが時折、フィオやゼン様と戦っている神楽を見かけることもある。模擬戦が出来る神殿じゃない場所でやるときは流石に木刀でやっていた。
ここ最近は寮に帰ってくるのもアタシの方が先で、この一週間は瞬きをするように過ぎ去っていき、休日が訪れた。
目が覚めたとき、珍しく静かだった。
何時もなら、起きたことを察した神楽から挨拶が来るのだけれど……。
シャ、という音と共にカーテンを開ける。
向かいのベッドのカーテンは明け放れて、そこに誰も居ない。
ゆっくりと身を起こして、スリッパを履く。
「――んっと! さて、神楽は何処に行ったのかな」
大きく伸びをする。ごきりごきりといい音が。
改めてぐるっと周囲を見る。部屋の中に神楽は居なかった。
ただ、部屋の中央にあるローテーブルに手紙が置いてある。
アタシはそこに近づくと、手紙を手に取ったのだった。
次は土曜日です。
ラノベが好きなのでよく読みますが、色んな事物を色んな表現方法で書いているのを見ると、はてどうやれば自分の小説もこうなれるのだろうかと悩みます。




