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第33話 主役のふたり

「次は……貴方ね?」

 

 気が付けば模擬戦希望者? が列を成していたので連戦することしばし。体型が細いも太いも、身長が低いも高いも皆揃って同じ時間だけかけて平等に倒していく。


「次の人は?」

 

 こちらから仕掛けはするが、様子を見て相手が全力で対応出来る程度には抑えているので、ちゃんとメリオトロイ先生のご要望には叶っているとは思う。


「次はっと……貴女で良いのかしら?」

 

 向かってくるクラスメイトの顔はそれぞれだ。興奮して目を見開いて鼻息荒く立ち向かってくる子、怯えたような表情で時折目を瞑ってしまう子、キリッとした表情で挫けそうとなる自分を律しながらも迫ってくる子。


「そこの子が待ってるから、貴方はおしまいね」

 

 一人一人の名前をよく覚えていないのは大変申し訳ないけれど、概ね挨拶を交わす程度の仲はある子が多かった。男子学生はともかくとして、同じ同性の子とはもっと仲良く……と思うけれど、精神年齢だけ見れば三十路オーバーなアタシからすれば、やや会話にノレるのかちょっとだけ怖い。

 だいたいは男子生徒だったけれど、女子生徒も思ったより多かったのは意外だ。


「次」

 

 前回の魔獣襲撃のとき、女子生徒の多くは基本的に後方で解体が多かったから、正面切っての戦いはやりたがらないのがやっぱり普通なのかと思っていたから。

 

 最後の相手は女子生徒だった。目の前の子は剣で身体を支えるように立ち、息を荒らげる。ガチガチと剣先が地面に当たって音を立て続けているのが聞こえる。

 アタシ自身も流石にこの連戦でやや息が切れたり、思ったより汗が出て嫌な感じだ。制服姿のままであることを真剣に後悔している。いっその事、授業不参加にしてしまった方が良かったと思っても後の祭りだ。

 首に張り付いた髪をさらりと後ろに流すと目の前の子に告げた。


「とりあえず、ここまでとしましょう」

「はい……」

「そんなしょぼくれないで。誰だって最初はそういうものなの。貴女もやがて強くなれるわ」

「は、はい……!」


 最後の一人を終えたところに再戦を願う男子生徒達が見えたので慌てて、

 

「あと、今日はここまでね」


 といえば、

 

「はい!」


 と周囲のみんなに唱和されてしまう。

 数十人に囲まれて唱和される生徒とは一体。これも剣術の腕前を替われた特待生の宿命か。これがゼン様ならわかるけれど。


「……アタシは先生じゃないんだけど」

「何か言いましたか?」

「何でもないわ」


 何とも無しに周囲を見渡せば、いつの間にかこの空間全体で人が多くなっていることに気付いた。注意が二分されている事にも気がつく。

 一つはアタシ達側。まぁ一人の学生が多くの学生に模擬戦……いや稽古でもいいのか? をしていたら注目もする。

 もう一つは遠くに見える二人組だ。


「神楽と……ゼン様?」


 呟きと足を進めるのは同時だった。

 どうやら、上級生のクラスもこの空間の半分を使うようだった。

 原作ゲームである『Diamondに恋をする ~ユア・ベスト・パートナー~』を振り返っても、模擬戦の授業でゼン様と神楽が絡むイベントは無かった……と思う。

 もし決闘イベントが原作に合ったとしたら、きっとこうなるのだろうという展開が目の前にあった。


「はっ!」

「それではこうなるっ!」

「くぅ……! じゃあ、こうします……!」

「甘い!」


 歯を食いしばり、一心に前を向いて攻撃を仕掛ける神楽。

 それを容易く受け止めると、『脆い』と感じたその場所にゼン様が反撃を行う。

 ゼン様の表情は……何というか、葛藤を抱いているかのようだった。苦々しいというか、苦渋の決断というか。

 一撃一撃を叩き込む瞬間にそっと勢いを殺して可能な限り痛みを与えないようにしている。

 あの苦々しい表情からして恐らくというか、十中八九、今回の決闘騒ぎを認められないんだと思う。

 知らぬ間に言い争いでもあったんじゃ無いだろうか。

 そこでゼン様が折れてせめて自分が鍛え上げる、となった可能性が高い。

 ……それにしても、傍から見ても、ゼン様の実力は飛び抜けていて凄い。惚れ惚れしてしまう。本学園で“全てにおいて優れている”称号であるエンペラーの肩書きは流石でゼン様凄いと頷く。


「向かってくる剣から目をそらすなっ!」

「……はいっ! 行きます、ゼンさん!」

「最後まで力を入れろ! 躊躇するな!」

 

 見ていると、指摘や攻撃・迎撃方法がアタシの考える物とほぼ同じで、思わず唸る。


「……メルベリさんなら、香月院さんにも勝っちゃうんじゃ無いかな?」

「えっ」


 と思って振り向けば、神楽の友人三人組のうち一人、クラリッサが側に居た。


「流石にそれは無いと思うわ。エンペラーの称号持ちのお方よ? 良くて長く耐えられるだけ、だと思っています」

「そうなんですか……やっぱり凄い方なんですね、香月院さん」


 実際どうだろうか。剣術だけなら……いや、やっぱり、勝てるイメージはわかない。あのゼン様と戦うなんて……恐れ多いにも程がある。何が悲しくて推しと剣を交えなければならないのか……。


「それと、メルベリさん、お疲れ様でした。あの人数と戦っても涼しい表情なんて、本当に凄いです」

「ありがとう。でも、大変だったわ。制服で来たことをとても後悔しているの」


 辟易しながら肩を竦めると、くすくすと笑う。


「私は、さっきまでトオコとマリアンネと主にやってましたけど、もうへとへとで……」

「そうみたいね」

「わかりますか?」


 きょとんとしているクラリッサだが、何となく顔を見ればわかる。


「だって貴女、顔まで赤くしちゃってるもの。結構派手にやりあったのね。意外だわ」

「あ……えっと、はい……そうなんです……」


 クラリッサが近くに居るということは……居た。長月とマリアンネだ。

 二人して、「あの剣筋はたまらないよね」とか「トオコだったら死んでたね」とか「はぁーマリアンネなら躱せなかっただろうね」だとか言いながらのんびりと神楽とゼン様の模擬戦を見ている。

 さっきまでやっていたという二人は既にリラックスモードといった呈だ。既に剣すら持っていない。マリアンネはまだ持っているというのに……。


「たぁ!」


 という鋭い声を見て視線を戻せば、神楽がゼン様の胴に一本入れていた。

 無論、そういう風に誘導していたのだろう。最後の一撃をしっかりと見届けると頷いた。


「ここまでとしよう、神楽」

「は、はい! ありがとう、ございます……っと」


 と言いながらへなへなと沈んでいくと、大慌てでゼン様が近づく。片膝をつき、手を添えて支えていた。

 気がつけば時間は、模擬戦の終了を示そうとしていた。

 あの様子では直ぐには歩けないだろう。元々、授業で外を走らされていた時も、神楽はそう体力のある様子では無かったのだし。


「あの様子を見る限り、神楽は歩けないかもしれないので、申し訳無いのですがクラリッサさん、ご一緒にお手伝い願えますか?」

「の、ようですね。はい。私もちょっと思ってましたから、大丈夫ですよ。多分動けないんじゃないかな、って」


 お互いに顔を見合わせて苦笑すると、神楽に声を掛けながら近づいていった。

次は次の土曜日ですね。

っく、テンポアップしないと……。

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