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第30話 剣を振るうということ

 後ろから見ても緊張しているのがわかった。

 まぁ、それはそうだろう。


「神楽さんだね。初めを打診されたときはびっくりしたよ」

「早急に力を付けたいなと思ってましたので」

「成る程。……私はそこそこ長く教師を続けているけれど、模擬戦のトップバッターを女の子が務めるのは君が初めてだよ。はい、それじゃ構えてみて」


 そう言われて、たどたどしく上段で構え……なんで上段なんだろう。魔獣の時はそんなでも無かったと思うので、緊張の所為だろう。

 先生の方は特に構える事無く自然体だ。

 そうして一言二言会話した後、神楽が走り出して――剣を振るった。

 といっても、フォームはダメダメ、振りも前面に緊張が出ていて剣に若干振り回されている状態だ。

 メリオトロイ先生はそれに対して極自然に――剣を振り回す速度は流石だった――剣で受け止め、衝撃を吸収するようにいなす。

 神楽は剣に引っ張られるようにたたらを踏む。


「あ、とっ……と」


 その隙に連激を叩き込む――ような鬼畜外道の振る舞いはせず、軽く剣を神楽の首に触れさせた。

 カラン、と音が響く。

 神楽が落とした剣の音だ。傍目からでも、神楽の全身に緊張が走ったのがわかった。

 まぁ、真剣が首に触れているという状況では嫌でもそうなるなぁ……と遠い昔を思い出す。そして思い出の中では安全危険など無かったのだが。

 だが、たとえ原作知識があって、安全であると事前にメリオトロイ先生がテストしていたとしても、真剣であるという認識が脳から消える事は無い。

 見ているこちらの手にじわりと汗が浮かんでくると同時に、四肢に力が漲るのを感じた。


「あ、う……」

「剣を引きます。大丈夫です。体で覚えてください」

 

 宣言通りにすっと剣が引かれた瞬間、神楽目掛けて駆け出そうとする身を全力で留める。

 ギリリ、と手の握りから音がする。

 周囲に居た学生がぎょっとしてアタシから離れる気配を感じた。

 

 剣が引かれ――――神楽の首は両断されることなく。そして神楽はへなへなと崩れ落ちる。

 その様子にこわばっていたのはアタシだけでは無く、他の学生達も、一足先に剣を打ち合わせていた学生達も皆一様に同じだったようだ。

 ……メリオトロイ先生は、思ったより容赦が無いのかもしれない、と思った。

 神楽が落とした剣を拾い、神楽に手を差し伸べると、普段の授業のように軽く告げた。


「さぁ、立ってください。君の――君たちの今後が掛かっているのですから」

「……はい」


 ややショックを受けたように見えるが、大丈夫だろうか。

 よろよろと立ち上がると、剣を受け取り、構える。――その構えは、最初の姿よりもしっかりとしていた。


 ◆ ◆ ◆ 


 あれから、神楽とメリオトロイ先生は数度打ち合わせ、その度に振り方が悪い、こう直すべきだと指摘を続け、最後は神楽に全力で振りかぶるよう指示して、その身で剣を受け止めるという荒技でしめた。


 先生に礼を言い、こちらに戻ってくる神楽は誰が見ても消耗していた。神楽が歩く度にモーゼが海を割ったように人並みが割れて、アタシの周囲から神楽に向かって飛び出していく3名――トオコ、クラリッサ、あと3人目の……ショートヘアの子は何だっけ――が神楽に纏わり付くと、しきりに大丈夫とか首は痣になってないよと告げながら支えてくる。

 ……やっぱり、原作のゲーム中では登場しなかったけれど、きっとこういう友人達はいっぱい居たのでは無いかと思う。

 スケジュールの都合もあるし、シナリオ上、友人よりメインキャラとの絡みを取るのは極自然な事だと思うけれど、こうやって支える友達の姿は、やっぱり見たかったな……。

 ふとメリオトロイ先生を見れば、今度は別の男子学生を指名して向き合っていた。クラスの実力を全員分見ようとしているっぽいので、アタシも何処かでかち合うのだろうか。

 

 と思っている間に友達に支えられた神楽が戻ってきた。

 荒い息のまま、こちらを見て、周囲の3名の手を軽くほどき、とと、と駆け寄ってきたのでぽふんと胸で優しく受け止める。全体的に硬い体でごめんね。


「あの、私、その――」


 と、胸元から見上げて言う神楽の目は、まだ動揺から立ち直っていないように見える。

 だから、今言えるのはこれくらいだろう。

 

「よく頑張ったね」


 大変だったろう。そして、この先を考えると、更に大変な道のりになるのは間違いが無い。

 神楽には決闘がある。改めて戦わなければならない"敵“が居る。それは同性で、同学年で。

 強さでいえば間違いなくメリオトロイ先生より弱い。だが、精神的なやりづらさはどうなることだろう。

 今日、神楽は人と戦うことの恐怖を知ったのだ。

 優しい少女が踏み出した一歩は、とても大変だった事は想像に容易い。

 頭をぽんぽんと軽く撫でるように叩きながら、小声で告げる。


「これから、頑張っていけばいいからさ。今日は、自分は頑張ったって、そう胸張っていいからさ。きっと大丈夫だから、不甲斐ないとか、そういう風に思っちゃだめだから」


 そういうと、またしてもカランという音がして、神楽にぎゅっと抱きしめられた。剣をそう雑に扱うのはどうかと思うけれど、とりあえずなすがままにされる。

 ふっと視線を感じたので見ると、神楽の友達たちがうんうんと頷きながらこちらを見ている。その中でもポニーテールの子は、何故か複雑そうな顔でこちらと神楽を見ていたけれど、あれは何なのだろうか……。


 現実逃避気味に、次々と学生を指導と共に下していくメリオトロイ先生の姿を眺める事にした。

 何時アタシの名前は呼ばれるのだろうか。

 その頃には、きっと神楽も落ち着いていればいいのだけれど。

次回はまたしても次の土曜日です。

そして、ううむ、他の作品を模写?して表現を習わんといかんな……と思う今日この頃。

どの作品を模写しよう。マリア○が見てる? 安○とし○むら?的な物を……?


あと、11/22は文学フリマ三十一回東京にコロナに怯えながら参加する予定です。よろしければどぞー。

⇒【シ-18】サークル名:あいえすぜろに

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