第29話 模擬戦2
メリオトロイ先生は、クラスメイト全員の準備が整ったのを改めて見ると口を開いた。
「ここは模擬戦に特化した施設でしてね。この光栄宮学園にしか存在しない魔道具が組み込まれており、あれらの――」
といって、広い空間内の各々の扉を指さした。
「――全ての扉から、内側全てに影響を与えるものだ。効果は、人に対する損害の軽減、といったところかな」
言葉ではちょっとわかりづらいけれど、と言いながら、手に持っていた短剣を――――勢いよく、自らの手のひらに突き刺した!
「う」
という、一瞬だけ痛みに耐える様にメリオトロイ先生の声が響く。
と同時に、クラスメイト達は一部の女子生徒が短く悲鳴を上げたり、うろたえた声を出した。
アタシも、知っては居ても一瞬動揺した。実際のところ、どうなるのかは知らなかった。
が、よく見ると剣は手のひらを貫通していない。明らかに貫通してもおかしくない鋭さを見せる剣は、しかし皮膚をやや押し込む程度に止まっている。
メリオトロイ先生は、こちらの反応を見て楽しむように笑ってから手のひらを見せる。
そこには打撃を受けたように、やや赤くなった手のひらだけが見える。
ついで、手のひらに剣筋をぴたりと当てると、勢いよく引いたが――――やはり、皮膚はやや赤くなるだけだった。
見ているこちらとしてはとてもヒヤヒヤさせられる。
そのまま剣を雑に地面に突き刺すと、驚いている学生達に説明を続けた。
「とまぁ、多少の痛みや衝撃は来るけれど、こういう結果になる。急所を狙わない限り、軽い打撲程度に収まるって感じだね」
「痛く、無いんですか?」
クラスメイトの女子の誰かが、思わずといった感じに声を上げる。
それに対して横に首を振りながら答えた。
「痛いことは痛い。けれど、それは切断や本来受けるはずだった損害を考えれば無いに等しいものだよ。じゃ、各々武器を選んで貰えるかな……」
とまで言ったところで、思い出したかのように告げる。
「あぁ、あとそうだ。他のクラスが入ってくる事もあるから、その場合は場所を狭めて貰います」
――――武器を選ぶように告げ、一人ずつ動きを見る、とも告げると、一人でサクサクと準備運動を始めた。
「ん」
剣が雑に収まっている箱からするりと抜く。
品質を重点にチェック……はせず、一瞥して終わりにした。
そんなアタシに対して長月さんと神楽が声を上げる。二人ともジャージ……のような物を着こんでいるので、間に挟まれると唯一の制服女子としては肩身が狭い。
「そんな無造作に選んじゃうの?」
「そうえば襲撃時もそんなノリでしたね」
方や疑問、方や思い返すような頷き。
それに対してさらっと答える。
「前回は偶々なのか、特に変える必要性はありませんでしたもの。今回は別に品質は気にする場所ではありませんし……」
それに、よくよく考えればこの場でもっとも剣の腕前が良いのはアタシなのだから、品質などどうでもいい。
折れそうな剣には折れそうな場合の戦闘術をするだけだし。
「それに、ここにあるのは所詮五十歩百歩の品質なのでは無いでしょうか。学生向けに高品質な物を常備はしないでしょう」
「それもそうですね」
「それもそ……え、ホントにそうかな……?」
神楽は剣を引き、軽く見た後はすたすたと歩き出していった。
しかし、隣に長月さんは、引き抜いた剣を見て――一度戻すと、更に別の剣を物色し始める。
長月さんを見ていると、なんか小動物を見ているかのような気分になる。
「別にどれも一緒っぽいじゃん。トオコは何を見てんだろう? どう思う? クラリッサ」
「さぁ……じゃあ、とりあえず私はこれかな」
あれこれ物色している間に、彼女らの友人二人もぱぱっと選んだようだった。
先ほど長月さんを抑えていた少女はクラリッサだったと、聞いて思いだした。
彼女ら三人が持つ剣をざっと見た限り、どれも似たような量産品っぽいのには違いない。
模擬戦で使用するのは剣だけのようで、少しだけ疑問がある。
剣は果たして魔獣にとって有効なんだろうか? と。
まぁ体の動かし方を身につける授業だし、特に気にしないのだろうか。
あるいは、この世界の魔獣討伐を主にする人々は本当に剣がメイン?
とまで考えたところで、作中のキャラクターは基本的に魔法か剣、あるいは拳で戦っている事を思い出す。
作中ではゼン様は氷の剣を生み出して使うし、フィオも雷を纏って戦うし、拳で戦う先輩もいるし……。
「……魔法や身体的スペックが全て、ってわけね」
と呟いたところで、何処かへ行っていた神楽が戻ってきて聞いていたのか、声を掛けられた。
「どうかしましたか?」
「いえ。何でも無いわ。それより神楽、貴女は何をしていたの?」
「えへへ。ちょっとですね、とりあえず最初はメリオトロイ先生と模擬戦をやることにしました!」
「いきなり行くわね……」
思わず素になって返答するが、先生なのだし、ずぶの素人との戦闘経験や教導経験は圧倒的か。
周囲の学生は各々の準備運動や、どうすればいいのか不安そうな少年少女達ばかりだ。
ごく一部は既に軽く剣を合わせているようだが、何処かお互いに様子見しているかのような動きだ。
それもそうだろう。魔獣とは確かに戦った。その命も奪った。……だが、人と戦うのは初めての人が多いだろう。
神楽は、入念に準備運動を行うと、メリオトロイ先生のところへと向かっていった。
「相手は教師ですから、変に躊躇しちゃダメですよ。自分がまずどう動けるのか、それを理解するように動いてみなさい」
「わ、わかりました……!」
投げかけた言葉に一度だけこちらを振り返ると、再びしっかりとした足取りで歩く。
その姿を多くのクラスメイトが見守る事となった。
次は同じく来週の土曜日です。
もうちょっと展開を飛ばさないと、と思いつつ書き進め中といったところでしょうか。
自分の語彙力の無さに悩まされます……。




