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第28話 模擬戦1

 クラウゼに礼を伝えるとお互い素直に教室に向かった。

 お互いのクラスに別れる前に軽く話を聞くと、模擬戦の授業はアタシ達の方が先らしい。

 別れ際に練習に付き合ってくれる件については改めて伝えますのでと念押しをされた。

 クラスに入って周囲に軽く挨拶しながら自席に進むと、神楽がにこにこしながら手を振っていた。

 作中でもイジメに屈しなかったあたり、強靱な精神力は健在らしい。


「朝のホームルーム、そろそろ始まっちゃうんじゃないかと心配してました」

「その時はその時ですわ」

「さっきまでクラリッサさん達と決闘についてどうするのか話し合ってたんですよ」


 クラリッサ? とまだクラスメイトの名前と顔がぱっと出てこないが、恐らく昨日の食事していた誰かのことだろう。

 

「そうなの? どんな――」


 と言い掛けたところで、茶髪ヘアーの人が入ってくる……担任であるメリオトロイ先生だ。

 最近聞きたいタイミングで担任が入ってくるような気がしてならない。

 何一つ担任の所為では無く、ギリギリまで話すアタシが悪いのだけれど。

 ふと横を見ると、神楽がちょっと頬を膨らませていた。

 神楽も同じなのだろうかと、何となくほっこりした。


 メリオトロイ先生の話は至って普通だ。


「一応言っておきますが、今日から模擬戦を授業に組み込んでいきます。魔獣と戦う上で対人訓練など不必要かと思うかもしれませんが、現状、体を動かす術を偶発性に頼らず身に付けられる事には変わりありません。人型の魔獣には有効ですし、魔獣を意識して対下段や上段などの特殊な技術も今後は身に付けてもらいます。そのための訓練も組み込んでいきますので、弛まぬ努力を持つように」


 との言葉に、はい、と素直にまとまって返事をする当たり、前居た世界との違いを感じる。

 しかし、特にゲーム中で語られてはいなかったが、模擬戦で対魔獣用の動き方を教えて貰えるのか。

 てっきり対人間だけかと思っていたのでふむふむと心の設定資料に書き写す。

 となると、アタシも意図的に下段集中や上段集中を学べるということか。

 対人という意味なら何も問題は無いけれど、魔獣を意識して行うというなら初めてになる。


 振り返れば、前回の魔獣襲撃でゴブリンをぼこぼこにしてた時にも中段下で面倒くさかった覚えがある。

 あれは慣れない振り方を強制されたからの面倒くささだった。

 あれはいけない。主目的は魔獣なのだ、学生としてしっかり学ばねば。

 ……それはそれとして、特待生としての矜持を守るために頑張らないとね。


 ホームルームが終われば全員揃って模擬戦が可能な大型館へと移動となる。


「それで?」

「うん。結局のところ、私はまだ戦いの経験が無いから、先生や先輩を使ってどんどん成長するしか無いってことになりました」

「……まぁそうなるでしょうね」

「クラリッサさん達も色々手伝って下さるそうで……頭が下がります」


 そこで、小声で言う。

 

「アタシも手伝いたいのに」

「今回も助けられるのは私的にはだめ、なんです」


 囁けば、小鳥のような囀りが耳に返る。

 心地よい声ではあるけれど、結局は否定である。

 だがよくよく考えれば、これに介入しなければイベントを観察できる立場を堂々と手に入れられたことになる。

 細かい手伝いはあれど、今回は傍観者に徹する事が出来ると前向きに考えよう。


 歩くこと数分、巨大で神殿のような建物に辿り着く。

 校舎よりも背が低いものの、現代とややファンタジーが混じった校舎の外見と比べ、こっちはモロに神殿という感じだ。

 これで中の方は普通なのだから感覚が滅茶苦茶になる感があるのだが、誰も気にしていないらしい。

 苦悩しているのはアタシだけという事か。

 中に入ると、メリオトロイ先生がクラスメイトが全員来ているか、ざっと確認した後に告げる。


「それじゃ、着替えを持ってる人は着替えて中央舞台へ。遅くとも10分には開始するよ」


 というと、三方向ある道の真ん中を通り、石畳のある空間へと進んでいく。

 女子達は全員左へ、男子学生は一部が右へ。

 

「あ、じゃあ私は着替えてきます。制服汚れちゃいますしね」


 と、手元の布袋を持って言う。

 着替え……?


「私は……」


 と言ったところで、手に何も持っていない。

 そういえば、模擬戦では動きやすい服の方が良いとか、そんな話があったよな……。


「……」

「……」


 神楽と顔を見合わせても、何も解決しない。

 違うの、魔獣襲撃時と違っていきなりロッカーで着替えましょうじゃなかったから……なんて考えてもしょうがない。

 ため息を吐くと、今更戻るわけにもいかずに覚悟を決める。


「……まぁ大丈夫でしょう」

「お、お洗濯は手伝いますよ!」


 その言葉だけでもありがたいよ、と思いながらさっさと真ん中を通って模擬戦上の空間へと向かった。

 男子生徒を見れば、割と同じような制服組が多いようだ。

 めんどくさがりが多い、という事なんだろうか。派手に汚れたって知らんぞ。地面が土では無く、綺麗に整った白い石がマス目のように配置されているが、それでも床を転がれば白っぽく汚れていきそうだ。

 

 一方、着替えてない女子はアタシ一人だけのようで、きょろきょろ見渡しても誰も居ない。

 そのためか、男子学生からはまるで女子力低いのかみたいな視線が突き刺さって痛い。


 ……一応、今この瞬間だけ見ればハーレムなんじゃなかろうか。

 なんて現実逃避をしつつ、目を細めて男子生徒の数を数えれば、何故かそそくさと周囲から人が離れていく。

 そんなにアタシに見られるのが嫌か、ええ? 女子力の低い女子はこの世界でも遠目で見られるのか!?


「お待たせしました! オリヴィアさん」

「あら、早かったのね」


 見れば、前回も見たジャージである。

 そりゃ着替えるのも早いか。


「ありゃ? メリっちは着替えなかったの?」

「メリ……?」


 聞き慣れない呼び方に視線を移せば、薄い水色のお団子ヘアが跳ねるように近づいてきた。神楽と並んでもあまり大差の無い身長と、子供のようなすらっとした見た目な子。もしかしたら、フィオのように飛び級的な感じでこの光栄宮学園に入って来たとかあるんだろうか。


 そして、この子は昨日神楽とお昼ご飯を食べていたはずの……。


「えっと」

「私長月トオコ!」

「長月、さんね」

「トオコでいいよ! メリっち!」

「こ、こら! トオコ! 何メルベリさんに絡んでるの……!」


 こちらが圧倒されていると、保護者のように彼女の友人2名がやってきた。

 やや薄い感じのする赤いポニーテールの子は長月に何か言っている。もう一人の、黒のショートヘアの子は、こちらを一瞥して不思議そうに目を開く。


「メルベリさん、着替えないの?」

「ええっと、私はちょっと着替えを置いてきてしまったので……」

「じゃぁ見学なんだ?」

「えっ!?」


 今の驚きの声はアタシの声じゃ無い。

 長月という事を抑えていた子の声だ。

 こちらを見る顔には驚きと小さく悲しみの表情が見えるような……。


「いえ……別に制服でも授業としては問題は無いですし、このままいきますわ。取りに行って授業に遅刻するのもよろしくありません」

「うわ、凄い自信……でもあの動きを見てると納得……」

「はい! じゃあ皆さん集まったようなので、こちらで用意した剣を持っていってください。これからこの施設の説明をしてから、模擬戦に入ろうと思います」


 うんうんと頷くこの子の名前を結局思い出せないまま、メリオトロイ先生の声に割り込まれる形で前を向き直った。

次の更新は来週の土曜です。

書きたい所までいけなかった……

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