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第26話 昨日の今日、正門の待ち人

「アタシの力は借りない、か……」


 ベッドの中で呟く。

 ぎしりと体を傾けて、ベッドを覆う薄いカーテンを開く。

 反対側にある神楽のベッドは同様にカーテンが閉じており、窓から差し込む月明かりが年代物のサイドチェストを照らしているのが見えるだけだ。

 身じろぐ気配も何も無い。それに、お互い布団に入ってからしばしば経っている。

 完全に神楽は寝ているだろう。


「入学式の事は、そう重く考えなくても良いと思うけどね」


 神楽の話をまとめると、一人で何とか出来るようになりたいのだという。

 神楽は、確かに作中では守られるタイプの人間では無いところがある。

 結果的に守られる事が多いシナリオではあったが、能力があろうが無かろうが、自分が出来るようになる・動けるようになることを好んでいたと思う。

 今回の場合、アタシの力を借りる事が入学式の延長線上にあるものと感じているらしい。

 プラス、相手が固執しているのがアタシであることも関係しているのかもしれない。

 もしかしたら、手を借りる事によって言いがかりが発生するかもしれないとでも思っていそうだ。


 室内は静かだ。

 他の部屋からの騒音も聞こえない。

 月の光を眺めるのは好きだけれど、今はそういう気分では無いのでカーテンを静かに閉める。

 

「……まだ決闘まで日があるのが救いかな」


 あの神楽ルカがどれほど戦えるのか? というのは、実は全くわからない。

 シナリオ上、神楽が誰かと真っ向勝負する事は無かったからだ。

 いや、確かに神楽の基礎魔法ではない、遺伝魔法を用いての最終局面では大群相手に立ち向かうシーンがあったけど、アレは特別神楽に有利な条件下であって、神楽の実力ではあるが戦いとはまた違うと思う。


 でもまぁ、友人となった今、贔屓目で見ても女子相手には出来るようになるんじゃないか? という感じはする。

 神楽は少なくとも根性はある。魔獣襲撃の授業の時、あの香月院ゼン様を前に、後ろでいることなど出来ない! 的な不満を訴えていたのだから。

 現時点で同学年の女子というのなら、多少出来ると言われている相手であっても所詮五十歩百歩の実力と思われる。

 何せ、本格的な模擬戦は、アタシ達のクラスでは明日から開始だ。魔獣との戦いは命がけになることもあるため気軽に出来ない⇒なら対人で少なくとも動けるようにはなるべきらしい。今日までは体力作りと体の動かし方を習っていたに過ぎない。

 魔獣が人型なら確かに練習になるかもしれないが、対人慣れしすぎると変な癖を身につけそうだ。

 倒したと思って安心して、そんで獣に飛びかかられるとか前あったなぁ。


「もう寝よ」


 枕の位置を調整すると、ぼんやりした頭だったので、すぐに意識は薄れていった。


 ◆ ◆ ◆


 神楽と一緒に、寮から正門へと歩く。

 外はやや曇りで、天気予報なんてものが存在しないこの世界では雨が降るかどうかは神のみぞ知ると行ったところ。


「今日から模擬戦が始まるんですよね」

「ん? うん、あーそうねー。神楽にとっちゃ良いタイミングだね」

「はい。色んな人や先生から稽古をつけさせて貰おうと思います」

「ん。ちゃんと相手の事を見て動かないとだめだけど、最初は攻撃を受ける事そのものを怖がらないようになることが大事だから、まぁ慣れないうちは頑張って」

「はい」


 特にネガティブな感情になってなさそうなので、ここら辺はイジメイベントよりだいぶ良いと思う。

 そして、これぐらいのアドバイスぐらいなら特に神楽も気にしないようだ。

 ぐっとこぶしを握っている姿はどことなく記憶にある神楽とは違うような気もするけれど。


「オリヴィアさんも模擬戦は楽しみなんですか?」

「そうね。楽しみといえば楽しみだけど……」

「だけど?」


 うーん。現状、同学年で打ち合える相手は居なさそう。

 魔法アリだったらまた違うのかもしれないが、現時点で真っ当に魔法を使えるのは数名だけだし、その数名も魔獣襲撃の時に見ていた感じ、まだまだ模擬戦で使える速度では無さそう。

 そう考えると、体は動かせるだろうが、満足に実力は出せないとは感じている。

 ので。


「……楽しみにしてるのは、模擬戦で使われる魔道具かな」

「魔道具、ですか?」

「そそ。模擬戦を行う学内のアリーナって、でっかい魔道具があるんだよね」

「そうなんですか? よくご存じですね」

「そりゃもう、校内をぼちぼち巡ってるしねー」


 そういって笑う。

 アタシが前に見に行った時は稼働していなかったけれど、近くに居た教員から話を聞けば、かなり高価で実験的な代物らしい。

 ゲーム中ではさらりとしか解説が無かった物だが、思わず実物のでかさにあんぐりと口を開いてしまうレベルだ。


「その魔道具があると何がいいんですか?」

「それがあると、どうも怪我が軽減されたりするらしいんだよね」

「……え! それって凄く無いですか!?」


 おお、流石にこれの凄さがわかるっぽい。

 作中では便利設定だなーと思うけど、この魔道具が現実にあるのを知るとやべー感が凄い。

 何というか、直接的な怪我の医療では魔法に軍配があがるこの世界だけれど、この魔道具に関して言えばもはやこの世界ではオーバーテクノロジーなんじゃないかと思うレベルだ。


「何でも、剣でやり合った怪我や打撲、魔法の威力なんかを衝撃だけにしてしまう凄い物らしいよ」

「ほぁ……じゃあ、それが魔森林とかにあれば、開拓だってもっと楽になるんじゃ!」

「と思うでしょ? でも、アリーナの裏を全部占領してるし、アリーナの中央の模擬戦用の台があるんだけど、あの裏も高度な仕掛けばかりらしくって。天井にも必要ってことで、到底移動は無理みたい」


 肩を竦めながら言えば、神楽もがっかりとした表情を見せる。

 

「そうなんですか……そう良い話にはやっぱりならないものですね……」

「そうだね。まぁでも、模擬戦はそういう魔道具があるところでやるから、思いっきし頑張ろうね」

「はい!」


 と、昨日の出来事など無かったような元気さで歩く神楽と正門へと入った時だ。

 正門の脇に、見知った顔を見つけた。

 ヘンリエッテ = クラウゼだった。

 誰かを待っているようで――と眺めたら、向こうもこちらに気がついたようで、明らかに視線が合う。

 ……あれは、アタシに用事があるって感じだ。

 何となく自分を指さしてみれば、クラウゼが頷く。


「ごめん神楽。ちょっと友人から話があるみたいで、先に教室に行ってもらっていい?」

「? わかりました」


 とりあえず、神楽と別れると、クラウゼが待っている木の下へと向かった。

次は土曜日です!

今回は短かった……。

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