第25話 事情を聞く
フィオから話を聞いた後は、急ぎ教室へと戻った。
がらりと扉を開けると、奥に居る神楽と目が合う。
目が合った瞬間に、神楽が何かを察したように表情を変える。
アタシが何か騒動を掴んだと、そう察したのだろう。
「オリヴィアさん」
「神楽! 一体何が――――」
と、話に行こうとしたところで運悪く魔法学の先生が入ってくる。
授業中に話をと思ったが、今日は実技では無く座学のため、雑談出来るほど騒がしい環境にはならない。
聞きたいことは色々あるけれど……。
「……寮に帰ったら、話を聞かせて貰っていい?」
「はい」
こくりと頷く姿を見て、とりあえず自席に座る。
隣に居る神楽に話を聞きたくて仕方が無いが、じっと我慢と言い聞かせる。
あまりに気になりすぎてノートでもちぎって話そうかと思ったけれど、必死に授業を取っている神楽の様子をチラ見してやめた。
その後、軽い休み時間や放課後になっても、昼の話題には踏み込まなかった。
授業前に話したとおり、色々と話を聞くのは寮にしようと決めた。学校は不適切だったからだ。
……既に、何らかの噂話は出回っているらしく、放課後になると神楽をチラリと見る学生が明らかに多い。
授業と休み時間を幾つか挟む度、少しずつ視線は増えていった。
ここで話題を神楽に振れば爆発してしまいそうな気配を感じ取ったアタシは、放課後になるやいなや、神楽を率いて教室から去った。
神楽は、その際にお昼休みに話をしていたクラスメイトにぺこりとお辞儀を返していた。
お昼を共に過ごしていた面々には興味津々といった視線は一切無く、心配そうな表情をしている。
神楽の味方が確かにいることがわかって少しほっとした。
なお、話し掛けようとしてきたへらへらと笑った男子学生が二人ほど来たが、こちらが一瞥をくれてやるとご丁寧に脇に飛び去ってくれた。
素直な子は好きよ、お姉さんは。
しかし神楽は、この視線にも気づいているだろうに何時もの雰囲気を崩さない。
騒動の中心だろうと動じない当たり、ここら辺は流石主人公と感心する。
寮に着いてからは、直ぐに話し合い……とはいかず、とりあえず服がしわにならないよう、着替えたり一通りの雑用をこなしてから着替えてソファに座る。
服がしわになった場合、学生寮の各階にある、貸し出し用のアイロンを借りなければならず、割合争奪戦が激しいのだ。今誰がアイロンを持っているかのアイロン探しに極力巻き込まれないよう、普段から気をつかっておく必要がある。
閑話休題。
給湯室からお湯を貰った神楽が、よく分からないお茶を入れてくれる。
神楽に感謝を告げると、ほっと一息。
そして、コップを買いに行かないと、と気づくのが何時ものパターンだ。
神楽が、目の前のソファに座ったので話を切り出した。
「今日、決闘を申し込まれたってホント?」
目の前でゆっくりとお茶を飲んでいた神楽が、こちらを見る。
「もうそのお話を知っているんですね。今日のお昼の事だったと思うんですけど」
「ご丁寧に、アタシの用事が終わった帰り道、すれ違ったフィオレンティーノ・ジャイルズに教えられたのよ」
「フィオさんですか? 食堂に居たんでしょうか……」
「多分、配下の連中から聞いたんでしょ。太陽守護だか何だかのトップらしいから」
「へぇ、そうなんですか?」
いまいち凄さがよく分かって無さそうに首を軽くこてんと傾けた。
少しだけフィオが哀れに思った。この世界がフィオレンティーノ・ジャイルズルートじゃなくて良かったね……。
「って言っても、アタシだって短い時間でざっと聞いただけだよ。神楽が誰かと決闘をやるって決めた程度。詳しい話、聞かせて貰える?」
「わかりました」
そう頷くと、ゆっくりと昼の事を話し始めた……。
◆ ◆ ◆
「それで、買い言葉に売り言葉、と」
「はい……ごめんなさい、オリヴィアさんが居ないのに……」
「それはいいわよ。でも、」
でもコレって、アタシか。
アタシかー。
「やっぱりアタシが原因かー」
「いや、違うんです! オリヴィアさんの所為とかじゃなくて!」
明らかにアタシが原因だった。
なるほど、クラウゼがアタシと関連していると言い切るわけだ。
相手が思った以上にアタシを神聖視しているのが想定外過ぎる。
項垂れるアタシに対して神楽があたふたし始める。
経緯はどうあれ、これは言っておいた方が良いだろう。
身を正す。……ちょっとだけ言うの、恥ずかしいので何となく髪を弄る。
「まぁ、決闘を受けた理由が、アタシを思っての事なのはわかったよ。それは、素直に嬉しいし、ありがとう」
「――――」
神楽の目をじっと見て言うが、直ぐに逸らす。
……しかしまぁ、やっぱり、良い子だなぁ神楽は、と思わざる得ない。
穏便に済ます事も出来たろうに、友達を変な型に入れてしまうことは譲れない事だったのだろう。
この短い期間で、そうまで思って貰えると嬉しい。
嬉しいけれど……ガチガチにシナリオに組み込まれていきそうでちょっと怖い……。
今回の件は、アタシが直接何かするわけではないけれど、問題のトリガーはアタシなのだ。
世界の補正とやらで、イジメイベントの代替イベントであるとわかるが故、まだ傍観者としての立ち位置に居ると思うしか無い。
「ところで、相手の子の名前は? さっきの説明には無かったけど」
「それが……教えて頂く前に去ってしまって」
「一ヶ月後って言って、予定まで仮決めして、それで名前を告げなかったの……」
「そうなんです……」
それは結構な直情径行な子で……。
思い込んだら一直線な子なのだろう。
それにしたってやることが男前だ。
作中でも決闘イベントなんて、後半での各キャラの個別ルートでそれぞれやる程度しかないのに。
気になる事は他にもある。
「決闘というからには、神楽は戦えるの?」
そこだ。
どうにも、負けた方は相手の考えを認める方針のようだ。後は副産物としてアタシの隣に居れるとの事だが。何、神楽が負けたら部屋でも交換するのだろうか。それならその子は今寮生活? 地元地域の子じゃない?
こちらの問いに、ふるふると首を振る。
だよね。
「今は全然出来ません」
「そうだよね。戦いの経験は?」
「戦い……小さい頃はあまり覚えてないのですが、多分先日の魔獣討伐の授業が初……でしょうか……」
「……大丈夫なの、それ?」
「頑張ります。色々と鍛錬をしてみようと思います」
いくら主人公補正があるからといっても、コレは負けイベントなのでは無いだろうか。
心中にまさかという思いが過る。
まぁでも、覚悟そのものはあるのだろう。
戦ったことは無いと言っている神楽の表情に悲壮感や不安は無い。
あるのは、やり切るのだという決意だ。
そこに気づけば不安は減った。
後は頑張る主人公を応援して行こうと決める。
ずずっとお茶を飲んで改めてソファに背を預ける。
ある程度、事情も神楽の様子も確認できた結果、気が抜けたのかお腹も空いてきた。
食堂へ向かって晩ご飯に行きたい。
とりあえず、最後に手は貸すという事を告げておこう。
そう思い、頂いたお茶を美味しく飲みきってから口を開いた。
「そうえば、アタシは剣しか出来ないけど、鍛錬に付き合うよ」
「いいえ、オリヴィアさんのお手は、一切お借りしません」
「……へぁ?」
そう、きっぱりと神楽は笑顔で告げたのだった。
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