第244話 役立たず
「ジャイルズ!? ピィラ! どうしてここに――――!?」
予想外の再会に、思わず足が止まった。
呼吸が荒れ、喉が痛む。だが追撃の気配はない。
ほんの一瞬、心が揺らぐ。
「そりゃ追ってきたからねぇ。バカスカ痕跡があっても、なんかやたらと幅広かったから、ちょっとヒヤヒヤしたけれど」
「大きな爆発音がしたのでもしやと思いまして……」
「そしたら案の定ってわけだねぇ」
顔が煤だらけだと笑われた。
ゼン様とクラリッサ達とは会わなかった感じだろうか。
二人の参戦は非常に助かるけれど……。
すぐに彼らの視線が遠くを射貫く。
「んー、よく見えない……けど……」
「相手は光栄宮学園の学園長よ」
「やっぱりそうだったかぁ――――よっとぉ!」
落ち着いたのは束の間のみ。
ピィラが跳ねるように構えを取った次の瞬間だった。
再び赤い光線が空を焼く。
空気が歪み、視界が滲む。
極太の火柱が、まるで空と地を貫く杭のようだ。パイルバンカーにしては派手すぎる。
そんな中でフィオとピィラが落ち着いて魔法を唱える。
二人の雷魔法で空に金色の道筋が作られた。
空気が破裂するような音と共に、火魔法とは対象的に、宙をジグザグに走った雷。
学園長の放ったビームのような、極太な火炎と接触する。
二つが混じり、龍の咆哮を思わせる悲鳴のような音をたてて、捻れ、逸れ、空へと消えていく。
空気中に帯電した静電気の臭いが混じり始める。
ピィラだけなら不可能だったろうけれど……フィオの雷魔法は流石であった。
「凄まじい攻撃だねぇ。でも、こうして“道”さえ作れれば、ギリギリ何とかなるってわけだ!」
ピィラが額の汗を拭いながら笑う。
「あなたの魔法だけでは足りないようですね」
「ほんのちょっとだけ足りないってだけだ!」
軽口を叩きながらも間髪入れず魔法を放ち続ける。
網の目のように広がった、自然現象としては酷く不自然な雷が、マシンガンのように飛んで来た――一つ一つのサイズは大玉だが――火球を次々と逸らしていく。
一発一発が、大砲のような重みを持つ火球。
それが、雷の波に押し流され、逸らされ、爆ぜる。
爆発による明滅が多すぎて目がチカチカするし、耳もじんじんと痛くなる。
大声を上げようとして煙が喉に入り、むせる。
「けほっ! 立ち止まる余裕は無いから走りながら相談で! これからどうする!?」
「状況がわからないな! 君はこんな所で何をしてるんだい!? 香月院と共に神楽を追っていたんだろう!? 神楽ルカは見つからないし、香月院の野郎もいないじゃないか! それになんで学園長がこんな所にいるんだ!」
「神楽は……あの神楽を連れた魔獣達は、ガスト・レナードが操っていた魔獣だったの! 学園長も操られてて!」
「何だって!? ――――っく! 本当に何だあの馬鹿火力は!」
周囲では焼け焦げた木々が倒れ、地面は至る所に陥没と亀裂を刻んでいる。走り続ければその分だけ体力も摩耗する。息は乱れてはないが、無限では無い。
このままだと体力切れだ。
幸いこの三名なら、アタシが接近すればワンチャン……でも武器があまりに心許ない!
「メルベリ、君が先にいけ!」
「!? 三人なら――!」
「ここは魔法戦だ、君は足手まといだ!」
唇を噛みしめる。
正論だった。悔しいがその通りである。
そのとき、フィオが何かを手から放る。
金属の閃きが空中で光った。
「これを!」
空に反射した小さな光。
それを見失わないよう、手を伸ばして握りしめる。
掌で握り閉めて分かる、薄い、楕円の何か……。
「それは指輪だ、神楽にルカに渡す! 君が追いついて渡すんだ!」
「でも! っあつ」
空が、焼けた。
まるで扇を広げたように、炎が一面に弧を描いて襲ってくる。
仰ぐように動き、熱波が押し寄せてくる中、フィオとピィラが放った二つの魔法がビリビリと引き裂いた。
「いいから――――走れ!!」
雷鳴の中でもはっきりと届いた。
瞬間、守りに徹してたフィオが、その雷を学園長へと差し向けるのだった。
今回はかなり短くなりました。
二週間ペースから戻せない状態が続いておりますが、引き続き更新は土曜・日曜目標です。\
追記)次の更新は引き続き次の土曜・日曜です




