第24話 手遅れを知る
視点は主人公である、オリヴィア・メルベリに戻ります。
「今日は色々と情報をありがとう。助かったわ」
「いえ。何時もの口調と違うお姉様は、すっごくお姉様していたので良かったです。ですが、やはり何時もの人が居ない場所で男らしく振る舞い髪をかき上げるような美しい所作を見たいというのも本音でして」
「何の話をしているの?」
カフェ前で別れる。
お昼休みとしては残り時間も少なく、今日は遠い実習室とのことで、凄く無念そうな顔でクラウゼは去って行った。
終始名残惜しいといっていたが、授業をサボろうという考えが欠片も出なかった点で、やはりとても真面目な子なのだろう。
期待に応えようとする真面目な姿勢は、しかし時に利用されてしまうというものなのだろうか。
「しかし、そういう状況になるのか……」
歩きながら考える。
原作ではいじめっ子だったクラウゼからの情報は実際ありがたいものだった。
今でも神楽関係の情報はサロンに参加していると入ってくるようで、ちらりと小耳に挟んだ程度のものだったらしいが、警戒するに価する情報だ。
ただ、相手の詳しい情報はクラウゼからは出てこなかった。誰が、何時計画しているのか。
本人を探して追ってみますとはクラウゼの言だが、無茶はしないように言ってもおいた。
イジメイベントは無くなっていたとはわかっていたものの、女子生徒からの敵対イベントが逆に立っているとは思っても無かった。
いや、敵対そのものはするだろうとは思っていた。なんせ、ゲーム通りなら香月院ゼン様やフィオレンティーノ・ジャイルズ、未だ会ったことの無い塔仁義ゴウ、ガスト・レナードらの注意を引くことになるのだ。
敵意を持たれないはずがない。
だから、想定外だったのは真っ正面から神楽に戦いを挑むような女子生徒がいるという事だ。
正史ではイジメイベントはあったが決闘イベントは無い。あ、男性キャラはあった。
イジメイベントが消えた事で起きた、代替イベントと見て間違いないだろう。
歩いていると、見覚えのある学生が目の前から歩いてきた。
小柄でショタっぽいものの、いつ見ても綺麗なウェーブのかかった金髪ショートヘア……フィオレンティーノ・ジャイルズ。つまりフィオだ。
何か考え事をしながら歩いている様子は作中でも見たことが無い。
つまり、このイベントはアタシだけのもの。
これはもはや、イベントが自動生成されてくる新手のシステムとかそういう類いのヤツでは!?
「――――無限のサブイベントが生まれてくる世界って尊い」
と、思わず呟いてしまい、しまったと思った時点で時既に遅し。
「ん?」
フィオがこちらに気づいたように視線を向ける。
そして交差する視点。
だが、この世界ではアタシはただの路傍の石。
所詮、神楽ルカという人物の隣に居るだけに過ぎない存在である。
昨日の魔獣の群れの迎撃……授業? では軽く会話をしたが、実際に授業が始まってからは神楽に軽くちょっかいを出した後、香月院ゼン様にブロックされて早々に先生の元へと向かっていた。
その際にアタシは特に声を掛けられる事は無かった。
なので、とりあえず軽く会釈だけして通り過ぎる。
会釈して思ったが、存在を認知されて無いのであればここで会釈した方が不自然になるのでは?
と思ったが、認知はされているらしい。
「キミはメルベリさんだよね」
それもがっつりと。
あまりこういう主要キャラとは絡みたくないのだけれど。遠くから見させてもらうだけにしてもらいたい。
それはともかくとして、認識されていたのであれば仕方がない。
足を止めて、はっきりと答える。
「――――はい、そうですわ。覚えて頂けていたのですね。ジャイルズさん」
「はは、僕は人の名前を覚えたりするのは得意な方だよ」
こちらに近づき過ぎず、ほんの少し遠い場所で止まる。
廊下の端に背を預けるフィオを見て、少しだけ長い話のようだと理解した。
「そうなのですか?」
「太陽守護の面々は少なくないからね。こういう力が無いと困る。あ、言ってなかったとは思うけど、僕は今期から太陽守護のトップになってるんだ」
知っていますがな。
「それは凄いですね。私はそこまで記憶力が良くないので純粋に羨ましく思います」
「ありがと。……昨日の授業は遠くから見させてもらったけど、メルベリさんは相当剣の腕が立つね。良かったら太陽守護に入らない?」
何故彼がこの場にとどまったのか、合点がいった。
昨日の剣の腕を見て、太陽守護のメンバに加えるのにちょうど良さそうと思ったのだろう。
そういう評価を貰えるのは嬉しいものの、太陽守護に入ったら絶対ゼン様から冷たい視線を頂戴する事になる。
腕を組み、手を顎に付けて考えるポーズをしてから答える。
「……すみませんが、今は特定の勢力に入るつもりはありません」
「それは残念。他の勢力に入るつもりもないってことでいいんだよね?」
他の勢力。
太陽守護の他に、香月院ゼン様を崇拝する月光騎士、塔仁義ゴウをトップに集う不良集団のアウトサイダー、ガスト・レナードが居る真実の血たる貴族という肩書に固執した人々の集まるファクトメンバー……。
思う。
ゼン様の所に入るなど恐れ多い。ならば何処に入れと。
「それは、勿論」
答えると、フィオは少しだけ考えるそぶりを見せる。
その姿を眺めると、一枚絵になるキャラは見え方が違うとしみじみ思う。
神楽もそうだが、こうして物耽っている姿だけで絵になる。こちらとは断然違う顔のデキは見ていて飽きない。
意図してないのだろうが、光が柱のように幾本も空を切り裂き、学生服に一部だけ照らしている姿は、まるで前世の俳優を見ているかのようだ。
アタシたちの横を通りすぎていく学生のうち、女子学生の場合にフィオをぼうっと見てしまうのもよくわかる。
その後、アタシを見て『現実に戻った!』みたいなはっとした表情になって早歩きで場を離れるのはやめて欲しい。
ちょっとだけ傷つく。
低身長キャラであるフィオを苛めてる……とは流石に思われていないはず……。
やはり、主要キャラとは並ばずに外から見るに限るんだ……。
あと今ふと思ったのだけれど、フィオが少し離れた場所に立っている理由、アタシの事を見上げる事になるからでは……。
失礼なことを考えている間に、向こうとしては納得を得れたようだ。
「……まぁ、今はそれだけ確約してもらえればいいかな」
「私個人に、高評価をいただけているようでありがとうございます」
「ん。そうだね。剣の腕はピカ一だと僕は思うよ? 少なくとも、僕たち一年の中で君に敵う子はいないでしょ。もしかしたら剣の腕前だけならあの香月院に届くかもしれないね」
ゼン様に届く? 剣の腕が? ――――そんなの、不敬以外の何物でもない。
「……お戯れを」
「ふふ。まぁいいや。どうせ君が追いつく前に……その前に僕がアイツを倒すしね」
……お。
その瞬間だけ、顔つきがやや獰猛な表情になった。
抑えきれない闘争心の発露、というのは、男の子独自の物だと思う。
同時に、こういうのを見ると見た目がショタであっても男の子だなと思う。
正直、男性の間だけで通じるその手の感覚はよくわからないけど、心の底から自身のライバルと思っているのだろう。
こういう野性味のある姿は物語の中盤以降、神楽に対してよく見せるようになっていく。
今回のルートでは、その姿を神楽が見るのはまだ先だろう。
お話はこれで終わりだろう。
今度こそ、軽く会釈してすれ違う――――。
「あぁそうだ。ルカちゃんと仲が良かったメルベリさんは、この後知ることになると思うけど……」
ぴたりと、足を止める。
「何でしょうか?」
「ルカちゃん、食堂で決闘を受けるって評判になってたよ」
さらりと、何でもないかのように告げているフィオの顔を振り返って見れば、とても面白い物を見つけたという表情になっている。
アタシを呼び止めたのは、この話を振る為だったのか……!
それにしても、ああもう、クラウゼから情報を聞いた時点ですでに遅かったのか……!
こちらの様子を見つつ、クスクスと笑う太陽守護のトップ。
「凄いね、あの子。僕の部下から聞いたけど、結構良い啖呵を切っていたみたい。ちょっと興味湧いちゃうよね? あの子がどうしてそんな啖呵を切ったのか、なんてさ。――――それじゃ。僕はこれで」
そのまま、フィオレンティーノ・ジャイルズは、アタシに動揺を残して去っていた。
次は来週の土曜日更新となります。




