第23話 譲れない二人
今回まで神楽ルカ視点です。
side - 神楽ルカ
振り向けば、見たことが無い……いや、時々見かけたことがあるような、話したことは無い女子学生がいた。
視線が交差する。
明らかに、私を見ていた。
「あの子、誰か知ってる? クラリッサとかどうよ」
とマリアンネが言えば、
「なんで私が……トオコが知ってるんじゃないかな」
と流れるようにクラリッサが横にスライドさせ、
「知らないけど?」
料理と一緒にトオコがしめる。
そして、三人がこちらにルカの知り合い? という表情で視線を向けてくるので慌てて首を振った。
「貴女」
「はい?」
明らかに不機嫌な様子で、やや強い口調で言われる。
「貴女、先ほどはなんとおっしゃいましたか?」
「お疲れなのはオリヴィアさんも一緒なのに「その前ですわ」」
その前……というと、「運ばれた話じゃない?」と小声でクラリッサのアドバイスが耳に入る。
「えっと、ソファからベッドまで、オリヴィアさんに運ばれて「そこですわ!」」
大声に加えて、ビシリと指を突きつけられる!
人がいっぱいいる食堂なのに、こんな大声を出せるなんてちょっと凄い。
ただ、目つきはこちらを睨んでいるのに変わりは無い。
私は、何かしてしまったのだろうか。もし知らないうちに傷つけたのなら謝らないといけない。
だが、見知らぬ彼女から聞こえてきたのは想像もしていなかった言葉だった。
「ちょっと、メルベリ様に甘え過ぎなんじゃありませんか?」
「え?」
「見ていれば、毎日のようにメルベリ様と食事をして、会話をして!」
「あの」
「席もお隣の上、極み付けは寮まで一緒ですって! ――――なんて羨ましい!」
視界の端で、クラリッサが何故か頷いたような気がした。
「うらやま……? すみません、一体貴女は――――「お黙りなさい!」 はい」
一気呵成だった。
そして凄い早口だった。
「今日だって、廊下で貴女を見かけたからきっとお側にメルベリ様も居ると思ってここまでついてきたのに……なんで貴女しかいないのですか!」
ガー! っという表情で言われる苦情は、明らかに私に言われてもしょうが無い内容だ。
私だって、オリヴィアさんが居ないのは寂しいけれど、オリヴィアさんがいないのはオリヴィアさんの都合によるものだ。
困惑していると後ろから声が聞こえる。
「うっわ、理不尽極まりない……」
「リッサはああなっちゃダメだよ」
「ならないわよ……」
「どうだか」
なおも、名前を名乗ってくれない彼女の主張は続く。
「黙って居ればメルベリ様の何か有益な情報が得れるかと思えば……漏れて来たのはドしがたい程羨ましい状況の限り……!」
「まぁ、気持ちはわかるけど……」
時折、クラリッサの声が同意するように小さく聞こえてくるのは本当になんなのだろう。
とりあえず、羨ましがっているのはわかった。
でも、未だに彼女の名前がわからない。
「それで、貴女の――「私の話はまだ終わってませんのよっ!」――はい」
ひとまず、向こうから何かを言われるまでは黙って居た方がよさそうだった。
「私、確信しましたわ――――貴女がメルベリ様の側に居てはメルベリ様がダメになってしまう」
だが、続けられた言葉には思わずピクリとしてしまった。
告げられる。
「メルベリ様の側に居るのは、貴女のような十把一絡げな小市民ではいけないのです」
そういって、彼女は伸ばしていた手を胸に置き、目を閉じて思い出すような仕草を見せる。
「昨日の戦うお姿も――同盟の者達から聞いて馬を飛ばしました甲斐がありましたわ――まるで戦女神の様子でした。誰も側に居ることの出来ない、孤高の美しさ……。そして理解したのです、真に居るべきは、私のような、あの輝きに見合う高貴な存在……!」
心底、そう思っているのだろう。
言葉には陶酔の響きがあった。
確かに、昨日のオリヴィアさんは凄かった。
クラスメイトの誰よりも、下手したら二年生よりも凄い剣捌きで瞬く間に魔獣を倒していく姿に誰もが目を奪われていた。
今日、登校して校内に入った時にも、一瞬のざわめきのようなものを感じ取った――明らかに、オリヴィアさんを見る周囲の目に変化が起きた。
オリヴィアさんは、気づいていないみたいだけれど、そうえば意外と鈍感なところがあるし……。
「だから、貴女にはそこから消えて貰います、神楽ルカ」
確かにそう思うのもわかる。
再び強い口調と目つきでこちらを見据えてくる彼女には同意すべき箇所もあるかもしれない。
けれど、違う。
「――貴女の考えは、違います」
違う。
まだ少ししかオリヴィアさんの事は知らないけれども、私は知っている事がある。
「オリヴィアさんは、確かに凄い人です。勉強も秀でていて、容姿も、静かに凜と咲く一輪の花のようだとも思います。どんな人にも優しくて、それでいて自らを守る為の力だって男子生徒以上にあります。でも――」
違う。
あの人は、意外と気安い存在で。
「――孤高であるべき存在なんかじゃ、無いんです。オリヴィアさんは」
実は、一緒の部屋になって、普段は演技していると自信満々に告げられた時は思わず笑ってしまいそうだった。
何を変な事を言っているのだろうと本当にそう思ってしまった。
それに、何時も休日直前になるとコップを買いに行こうかな、と零すのに当日になるとすっかり忘れて勉強を始めて、近くのお店で食べ物を食べて、終わり頃に思い出して唸ってしまうような人だった。
初めて見たときは本当に綺麗だと思って、それでいて誰かを守るのも積極的で、入学式で庇われた時は、こういう人になりたいと思った。
その思いは、今となっても変わっていない。
あの人は、
「もっと、一緒に居て普通にお互いに何が面白かったかを気軽に話すような、お互い笑い合って、時々お互いに失敗した事を話したり、どうでもいいことを話したり、そういうことをする人なんです……!」
そう言い切れば、相手は静かに目を閉じた。
「今、わかりました――――そんな考え、認めません。認めませんとも」
理解してくれれば良かったのだけれど、そうはならないだろうなとも思っていた。
そして、否定の言葉だけで終わるはずが無いとも思っている。
だから、私は表情を変えずにその言葉を受け取り、返す。
「孤高で良いはずなんて、絶対に無い。貴女の考えを、私は認めません」
「お互いがお互いを認められない。ならば、神楽ルカ……やることは一つですわ」
真剣な表情で彼女は告げる。
「貴女に決闘を申し込みます。オリヴィア・メルベリ様の、お側の座をかけて」
その言葉を投げかけられても怖じ気は無かった。
受けましょう、と私は返した。
名前は……?
とりあえず、次は来週の土曜日です。
最近は新しいプロジェクトで平日てんやわんやしています。休日はモンファ2とダクソ3で埋まってますね……。
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