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第228話 vs香月院ゼン2

 ギリギリと剣を押し込む。

 突発的に武器を出し、片手で防ぐのは流石だけれど、流石に腕力差がある。

 

「まさかこうも……簡単に、接近を許すことになるとはな……!」

「魔道具の恩恵にあずかりまし……た!」

「チィ!」


 突き出された右手の氷の剣――こちらは長剣スタイル――が振られたので、一歩飛び去りながら上へと弾いた。

 砕かれた氷。青い破片が太陽光を反射して幾つも残光を描いた。

 間合いはこちらの剣ギリギリ。二刀流となった後、短めの剣では絶対に届かない距離はキープする。

 飛び去る間に素早く短剣が振られるが軽くいなす。

 二刀流になったからといって二刀同時に襲ってくるかというとそうでもないようだ。

 ゆったりとした構えのまま、出たときと同じ唐突さで、左手から剣が消える。再び一刀流に戻った。

 絶対的な問題として使える筋力が分割されるため、こちらが攻めた時に攻撃を裁けない事を危惧した感じだ。盾として使う程度か。

 筋力差はゼン様の方がアドバンテージがある。

 だが先ほどの一瞬の攻防で、片手でいなせるほど、こちらの攻撃は軽くは無いという事を改めて認識したものと思われる。 

 

 しかし、魔法で出来ている剣はこういう時非常にずるいと思う。

 驚異的な練度を必要とするからそもそも実現が難しいのだけれど――そして実現出来る程練度があるなら普通は遠距離攻撃で済む――、武器を任意のタイミングで出し入れできるのは、武装が無限にあるようなものだ。

 しかも理想的な形で今必要な武器を手元に出せるのだ。

 加えて武器破壊をこちらは警戒しなくちゃいけないのに、向こうは気にせず出し続ける事が出来るとか。

 ……ゼン様と打ち合った自分の剣を見る。

 更に氷が刃を覆っている。あと打ち合えていかほどだろうか。


 どちらにせよ、戦闘は早期決着になる。

 

 多少重くなった肉厚の剣。小振りで左わき腹を狙う。

 防がれた。引いて籠手切りを狙うが、見る間に強化外装のように凍りで自らの手首を覆われ、突破は不可能。逆に武器が更に凍りまみれになっていく。

 ゼン様が持つ氷の剣の一部がごっそりとひっついてきた時点で諦めた。

 武器を手放す。

 落ちきる寸前、足で思い切り蹴り上げたが、見もせずに雑な凍りの盾で防がれて、蹴った勢いのまま、矛先を逸らされて天へと飛んで行く。

 武器を捨てると同時、軽く意識を込めて背嚢からするりと落ちた一本を背面で受け取る。手にしたのはハルバード。返す刀で飛んできた氷柱をたたき落とす。

 長柄の分、振り回した際の威力は先ほどの比では無い。

 次からは背面に手を回せばより苛烈な攻撃が来ると予想される。

 

 距離を取ろうとするゼン様に、引けば不利になると思わせるよう、踏み込みを偽装する。

 それにハルバードは先ほどの剣よりも長い。

 腰と上半身を使って振り回すように振る。大きく下がる事は不利になると思ったのだろう、留まった。

 逆に踏み込み……摺り足で距離を詰められた。

 ハルバードの刃の部分は有効範囲が狭い。

 柄にはトゲあるとはいえ、有効打にはなりがたい。だがハルバードは斬る、突く、鉤で引くなど手数が多い。

 近付こうとするならばと、素早く突く。

 ニ手、三手と続く。思い切り突き込めば手痛い反撃が待っているから回転を速めるしかない。

 点の攻撃は最短距離で相手に届き、距離感も難しいというのに難なく逸らされる。ゼン様の地の目の良さがわかる。

 こちらが近距離で猛烈な動きを叩き込む一方、ゼン様の攻撃も氷の剣と飛んでくる氷柱の二種類が厄介極まりない。

 氷柱も、最小限で躱せないものが肩に食い込んでは砕け散る。

 精度は時間停止の時より低いが、散弾のようにもとより砕けて飛んでくるなど、バリエーションは豊富であった。

 

 吐く息が白くなっていく。

 環境変化が急激過ぎる。

 ここだけ冬が訪れるかのようだ。 

 足はまた氷を砕く音がする。本当なら、もっと足下はガチガチの氷まみれの筈だけれど、アタシがずっと張り付いているために、十分な展開が出来ないのだろう。

 最初の、時間停止を組み込んでいたときよりも明らかに薄い。軽く踏むだけでピシリピシリと音を立てて幾つも砕け散っていく。

 振り上げた矛先を思い切り下げると、地面から生えた氷の柱が武器を丸ごと飲み込んだ。

 その時点で再び手を離す。片方は懐に、片方は背後に。

 懐からはナイフを放り投げる。ただの牽制だ。

 思ったよりも大ぶりな挙動でゼン様がナイフを弾いた。何らかの仕込みが無いかを疑っているような素振り。

 ゼン様が氷の剣を振るう。十分に避けた……はずだったが、頬を引き裂いた。

 何が起きたのかと一瞬目をやり、振るっている最中に刀身を伸ばしたようだった。

 こちらを斬った衝撃で砕けていく様が見える。付け刃にしてはよく斬れる。トンボの羽のように薄刃であった。


 その後も、十秒にも満たない間に幾つもの応酬があった。

 たった数手でショートソードが、巨大なクレイモアが、双剣が、長刀がどれも使えなくなっていく。

 突き、払い、斬り。それらを緩急込めて上下左右に揺さぶってもゼン様は倒れない。

 傷だけは無数に付き始めている。

 服の所々が斬れており、腕には血筋も這っている。額には汗が玉のように浮かび、首もとは筋肉の筋が隆起している。

 逆にゼン様の魔道具が光り、風が吹き、火を噴き出し、一瞬の幻覚を見せても、アタシは倒れなかった。

 体には霜が付き、足下はガタガタで、腕は凍傷になるんじゃないかと思うぐらいに傷と氷まみれであり、ゼン様より酷い有様だ。

 息の荒さはこちらが酷い。

 

 それでも……押しているのはアタシだった。


「ぐ、う、お、おおおおお!」

「ぁぁあああ!」


 地面に突き刺さっていくアタシの武器。

 砕けた魔道具の破片。

 お互いの装備が地面に散っていく。


 背嚢が軽い。残りが少ない。

 取り出したのはメイス。

 思えば、コイツなら多少の重量増なら構わないか。

 付着する氷ごと相手に叩きつければ良い。

 近距離戦でも戦える魔法使いは卑怯だろう。

 今もこうしてアタシが戦えているのは、ひとえにゼン様を知っているからに過ぎない。

 元ゲームのプレイヤーとして、設定集を読み込んだオタクとして、学園生活を過ごした推しをうっすらと観察する日々の賜物として。

 全能力を振り絞っている。

 勝てる。


 

 ――――次の瞬間、アタシの足下がガクンと落ちた。

 地面に薄い氷の膜が貼ってあったその下は、小さな小さな穴だった。

 何時から誘い込まれた。

 狙っていただろうゼン様が、一足で大きく離れる。

 メイスでは届かない。踏み込むには足が不安定過ぎる。

 氷の剣を仕舞うと同時、懐に手を差し込んで、エンジンのスターターを引くかのように手を走らせると、幾つもの魔道具が火花を吹いた。


「――――終わりだ」


 そう呟く声が、そう聞こえた。

 魔感知力がさっぱり無いアタシでも感じるほど、おぞましい魔法の気配。

 決着が、付く。


 



 

 

すっかり月曜日は忘れてました、すみません。

次の更新は引き続き土曜・日曜目標で進める予定ですー。

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