第202話 フィオルートの魔道具
部屋の中、お互いが話しやすい場所へと案内される。
部屋の広い空間の中には、オシャレな、というよりは、座るのも遠慮してしまう豪華な椅子が人数分、そして良い感じのローテーブルがある場所があった。
椅子の表面に縫い込まれた刺繍が値段の高さを物語っているようだ。
これと比べると、フィオ家の家具は数段劣るのは否めない。
ローテーブルは水晶の切り出しだろうか。あるいは、遺跡産のオーバーテクノロジーなガラスなのかもしれない。薄らと光量を落としたこの部屋の中で、テーブルの上に星空が映し出されているかのようだった。
物がどちらにせよ、活動範囲が限られたこの世界においては恐ろしく貴重な物だ。
本当に座っていいのだろうかと思いながらも、フィオがさっさと席に着いたので流れで座る。
反対側に座るのは主一人だけだ。護衛の二人は後ろで立ち続けている。
ゲーム知識があるからこそだが、目の前にはフィオレンティーノ・ジャイルズルートにおける黒幕の一人である。黒幕というか、神楽ルカの奪取を、生存したまま行うべく暗躍する人である。
人の良さそうな表情や雰囲気をしているが、実際にフィオと一対一の時はかなり圧力のある話し方をしていたと思うが……。
「神に仕える教皇としての役目がありますが、この役目もここ最近になって備わったものです。所詮は多くいる卿の一人に過ぎません。どうぞチェールズ卿とお呼びください。ジャイルズ、あなたも外国での活躍をよく耳にしていますよ」
「過分なお言葉、恐れ入ります。お役に立てて光栄です」
さっき一瞬見せたフィオの苦渋に満ちたような表情は、今は完璧に消え去っている。
チェールズ卿は、作中では見たこともないほど和らいだ雰囲気を漂わせていた。
正直、この時点で本性を知らなければ、黒幕だとは思えないくらいだ。アタシが人生の2周目だとしても、人生経験の差に圧倒的な差がある。
そこから、少しだけフィオとチェールズ卿との間で会話が進む。
学園の様子と、ヨルム王国の様子だ。
「貴方達が出発する前の状況と、今の状況ではヨルム王国の状況は大きく変わっています」
チェールズ卿の静かな声が室内に響く。チェールズ卿の言葉には重みがある。
下手をすれば雰囲気に飲まれかねない。
フィオが口を開く。
「……魔獣の増加でしょうか」
「はい。それも急速に、です」
チェールズ卿は軽く頷きながら、深いため息をつく。ヨルム王国の現状は一層厳しさを増している。
ヨルム王国には、苦労を掛けていますと、チェールズ卿は静かに目を伏せて言う。
「このままではヨルム王国は魔獣によって踏み荒らされ、ユピ神国とヨルム王国にある、豊かな自然も魔獣達によって手が届かないものとなりましょう」
痛みを感じているかのように、胸に手を当て、首を振る。
「しかし、希望がある事は既に掴んでいます。これは神の思し召しでしょう」
そこで言葉を切ると、アタシ達を順繰りに見てきた。
「神楽ルカ、という少女が、この騒乱を人類側の勝利で終わらせる鍵であると、私は知っているのです。この地をずっと脅かしてきた魔獣に対する、この世界の切り札。しかし、それだけでは足りない。彼女の力は、未だ世界を救うには足りない――――このままでは」
その言葉にデジャブを感じて、思わず息を止めた。
思い返せば、あぁと声が零れそうになる。
この台詞は……口調は台詞は違えど、ゲームと同じだ。
フィオルートにおいて、本来は一対一で会話するシーンだ!
こんな場所にもかかわらず、アタシの目が妙に興奮した物になっていく。
作中の展開が見られるかもしれない……!
隣のピィラが、何となく妙な感じをアタシから感じ取ったのか、ふと怪訝な表情を向けてきたが無視した。そんな事より作中展開である。
そして、チェーザレ卿が言う。
「皆さんを呼んだのは他でもありません。神がこの地に使わせた奇跡の少女である神楽ルカ。彼女に、この指輪を渡して欲しいのです」
チェールズ卿が差し出したのは、精巧に彫刻された美しい指輪だった。テーブルが夜空であれば、この指輪は星々を閉じ込めた銀河なのかもしれない。美しい紫色が煌めく。
ピィラとフィオの両方が息を飲んだ。
ゲームでは描写が少なかったが……なるほど、こうして見ると存在感が凄い。ユピ神国が持つ、神器の一つと言われるだけがある。
この指輪は、ユピ神国から彼女に渡せる、最大級の支援となりましょう、とチェールズ卿が言う。
「この指輪には、古の魔道具であり、彼女の力を最大限に発揮する式が込められています。彼女の力を引き出し、この戦いに終止符を打つための力です」
小さな音を立てて、ロストテクノロジーの指輪がテーブルの上に置かれたのだった。
月曜になりました() 次の更新は土曜・日曜の深夜目標です、よろしくお願い致します!
追記:宣言が早いですが月曜になります!




