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第20話 話を聞きたい2

「こんにちは、クラウゼ。元気そうで何よりだわ」

「こんにちは、お姉様……何だか、何時もの話し方と違うのですね?」

「私、外では色々と都合があるの」

「そうなんですか。普段のお姉様は格好良いですが、これはこれで素敵です」

「そ、そう……」


 誰ともなく言いたいことがあるのかもしれないけれども、こちらの方が年上と分かった途端、お姉様呼びにしてきたのは向こうだ。向こうが勝手に言い始めたことであって、こちらが指図したことでは無い事は告げておきたい。

 席へと着く。小柄な丸テーブルの上には、サンドイッチとコーヒーのような物があった。


「お昼時はこんなに混むのね、ここは。普段から食堂を使うよう決めておいて正解だったわ」

「食事も美味しいですし、3階からの眺めは生徒にも人気がありますから。オープンテラスも作られてる場所は、この国でも珍しいんですよ」


 そう言って視線を向けた先には大規模なガラス窓があり、みずみずしい観賞植物があり、その先には外と直結しているテラスが見える。

 外に居るのはほぼ学生だけのようだ。大きな庇があり、その下には店内にあるものより大きい4人向けの丸テーブルが幾つか置いてある。


「やっぱり、どこの世界でも人気の出る場所は決まっているのね」

「お姉様の居た国……ユピ神国でもそうでしたか」

「そうね……」


 無論、ユピ神国の事ではない。

 いや、あったのかもしれないが、そこらを堪能出来るほど自由な境遇では無かった。

 脳裏にあるのは、元いた世界のカフェテラス。

 今となっては消えつつある記憶であり、もはや優先的に覚えているゲームの話題以外、精度は怪しいものだ。

 

「オリヴィアさん、何か飲み物を買ってきましょうか?」

「――――ちょっと混んでるから、少し様子見してから自分で行くわ」


 感傷に浸り込みかけていたのをストップして本題に戻らないと。


「今日は時間を作ってくれてありがとう」

「いえいえ! お姉様のためならこのヘンリエッタ、無茶でも何でもします!」

「しなくていいから」


 そんな、という声を上げる目の前の子に若干頭が痛くなる。

 家の格式も高く、周りからの信頼に応えようとしている子が懐くとこうなるのかと思わないでも無い。

 なんだかんだで図書館で雑談に付き合ったり、手紙を貰ったりをしているうちにこうなった。


「それで、例の件は……?」


 言葉を濁しているが、神楽のイジメの件だ。


「少なくとも、私が見ている範囲では香月院様やジャイルズ様を起因としたイジメが起きる兆しはありません」

「そう、良かった」


 とは言うが、心情は複雑だ。

 これで、間違いなく原作のシナリオはおかしくなった。

 イジメ発生⇒メインルートの男性が援護に入り、神楽が相手に対して好感度を爆上げしていくルートは消え去ったと言ってもいい。

 世界に、ルートの修正能力はあると思っていたがためにこのイベント喪失は結構堪える物がある。


「貴女が、悩みながらも実際に行動したから出来た偉業だわ、クラウゼ」

「えへへ……お姉様にそういって頂けると……とても嬉しいです……!」


 両手に頬を当ててクネクネと気持ち悪い動き方をし始めたクラウゼの事は置いておいて、ずしりとのしかかってきたこの難問をどうするべきか。

 ……覚悟を決める必要があるのかもしれない。

 それは、実はやりたくなかったのだけれど、本来のルートになるようにアタシが修正を入れていくという事だ。

 勿論イジメそのものに手を入れるような外道な振る舞いはするつもりが無い。未来のイベントを知っているからこそ出来る、好感度上昇のルートへと強制的に流してしまおうという試みだ。

 本来存在しないイベントさえ、自ら発生させてしまえば良いのだという暴論である。

 好感度上昇さえさせてしまえば、失ったイベントの代用になり、また元のルートに戻って干渉しなくても良くなるのでは無いかという打算も大いにある。

 まぁとりあえず、イジメイベントが起きるのか起きないのかわからないままの状態は消え去って、次に取るべき対応が考えられるようになったのはひとまずの進捗と見て良いと思う。


「色々とありがとう。貴女も苦労したでしょう?」

「確かに色々とありました……でも」


 目の前で小さく笑うクラウゼ。

 抑えきれない喜びが滲み出ているように、カップを両手で包んで告げる。

 

「でも、私の仲の良い友人も、私のことを理解してくれて、もっと仲良くなれたんですよ。私も友人の事を誤解していたのがわかって、お互いの事を前よりずっと、信頼出来るようになったんです。だから、色々とあったんですけど、やっぱりお姉様が――オリヴィアさんがあの時声を掛けてくれたから、決断出来たんです」


 照れくさそうに笑って。

 

「だから、お礼を言うのはこちらの方です。ありがとうございます、お姉様」

 

 そういって彼女が優しく笑う。

 ……改めてみれば、図書室で見かけたときよりよっぽど健康的な見た目になっている。表情も明るいし、ピリついた雰囲気は無くなっている。

 これはなんというか――――と少し考えて、言う。

 

「前より綺麗になったわね、クラウゼは」

「――――」

 

 そうだろう。

 心労が無くなればそれは見た目に出る。前世でも当たり前だったでは無いか。

 まつげも、まん丸に見開かれた瞳も、よく見れば綺麗だ。広範囲の人々に影響力を与えられる子なのだから、よくよく考えれば美人なのも納得する。

 これがモブキャラとして隠れていたか……と思うと中々唸りたくなる。

 ゲームである『Diamondに恋をする ~ユア・ベスト・パートナー~』で容姿が出ていたら、きっとこの子も書かれる側の人間になる。

 ……メインの男性キャラがこの子とくっつくとか、それは流石に炎上案件過ぎるかと、一人で頷く。

 アタシとて禁忌はあるし。うん。


「注文カウンターが空いたみたいね。私、ちょっと飲み物を買ってくるわ」

「――――あ、はい」


 とりあえず、コーヒーみたいな物でも買おう。俯いて、何故か机を見始めたクラウゼの横を通り過ぎつつそう思った。

 

読んで頂きありがとうございます。

次回は次の土曜日です。

文学フリマ東京が行われるっぽいので、それの準備も進めつつ、新しい仕事の対応もしつつ……(遠い目

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