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第02話 魔獣襲撃

 メインヒロインである神楽ルカが着席してしばらく、入学式が始まった。

 

 校長先生が光栄宮(こうえいみや)学園の歴史とありがたいお言葉を喋り始める。

 

 校長先生、ゲーム上だと操られているモブの一人で、若い女性って事以外は何も情報も無く画像もないのだけれど、こうして見るとこの世界特有の美女だなぁという感想を抱く。

 

 確か、もうすでに操られてるんだったような。魔道具か術式か、その両方だっけか。凄いと言われる校長も実は操られて……となるのだから、恐ろしき世界である。といっても、操られたのは偶然の産物だったはず。

 そんでもって――ドォオン!――って感じの効果音と共に――「ま、魔獣だあ!」――って感じの悲鳴が入って、入学式に魔獣が乱入してきて、メインヒロインが襲われかけるんだけど、隣の学生に突き飛ばされて……「メルベリさん! に、逃げないと!」


ぐいっと腕を掴まれて意識を戻すと、既に魔獣の襲撃は始まっていた。

 見ると壁の一部が破壊され、そこから二足歩行する、黒い毛に覆われた獣のような群れが講堂の中に入り込んでくる。


「あれが、魔獣……!」


 長年この世界に生きてきて、実は魔獣との邂逅は初めてだった。ゲームの世界では何度も見たけれど……何、あれ!?

 あんな生物が現実に居ていいの!?

 かつて魔法を目の辺りにしたときも思ったけれど、CGを見ているのではないかという気持ちにさせられる。

 

 元々はこのヨルム王国ではないユピ神国に住んでいたし、ヨルム王国以外では、魔獣は基本的におらず、本に描かれた物でしか見たことがない!

 魔獣の近くにいた生徒が真っ先に襲われ、叫び声を上げる姿にぶるりと身が震える。


 そして混乱の最中でも、校長先生の行動は早かった。

 

「保健医は襲われた生徒を救出しろ。防御魔法が得意な教師陣は侵入経路をまず塞げ。教師陣と上級生各位、迎撃を開始しろ」 


 動揺無く、凜とした仕草で指示する姿に、操られている敵だという事も忘れて格好良さすら覚えてる。

 統一感を持って動き始める教師陣とは逆に、蜘蛛の子を散らすように学生達が逃げ始める。

 出口を見ればぎゅうぎゅう詰めで、恐慌状態だ。脱出を考えようにも、今動く方が不味い。


「め、メルベリさん……」

「アンタ、今は動かないで! 今逃げ出したら逆に身動きが取れないわ!」


 ちらりと見れば、震える神楽さんの姿。掴んだ腕から、弱々しい震えが伝わってくると、逆に震えが止まった。

 二人で震えていたって、どうにもなりはしないのだ! 魔獣とはどう戦えば良いのか、経験が無く、普段通りに体が動かない……!

 それに、これがゲームとして約束された展開だとしても、メインヒロインである神楽ルカはともかく、自らの命の保証はない。この世界にある魔法によって怪我による死傷は少なくとも、魔法を受ける前に死んだら元も子もない!


 睨み付けるように未だ遠くの魔獣を見ていたが、はっと思い出す。

 ヒロインはこの後、抜け出した一匹の魔獣に襲われるはず!

 慌てて狭まっていた視野を広げれば、人の背ほども無い一匹が、こちらに向かって走り込んでくるのに今更気づいた!

 こんな所はゲーム通りってわけね! 嬉しくないけど!

 

 講堂の机を蹴り飛ばし跳ねて、飛ぶように迫ってくる!

 

「グケケケケケ!」


 そのまま、神楽へとまっすぐに飛び込んでくる!

 

「げぇ! まっずい! 神楽!」


 脳裏を過るシナリオ崩壊の文字に体は自由を取り戻した。

 視界の直ぐ先にて、大きく飛び上がりながら、腕を上に振り上げる小柄な魔獣――実はゴブリンと名前が付いていたのを後の授業で知る――が、神楽に飛びかかる!

 神楽は驚いたように、振り下ろされる腕を棒立ちで眺めて――そんな彼女を抱きつくようにして押し倒す!

 誰かの叫び声、遠くから聞こえる悲鳴に加えて分厚い木がへし折れるような音が背後から聞こえる。


「ッたぁ! 大丈夫!?」 

「え、は、はい、私は大丈夫、です……!?」

 

 すぐに振り返って見れば、空振りして椅子に激突した魔獣の姿。

 べりっと音を立てて、机に埋まった爪を引っこ抜く。

 魔獣は体勢を立て直すとこちらを見る。

 近づかれて初めて、強い汚物の匂いが漂ってきて顔を顰める。


 倒れた神楽は起き上がろうとして尻餅をつく。

 って起き上がれないの!?


「ッチ!」


 舌打ちと共に神楽の前に立ちはだかる。

 ここで主人公が死んでしまったら、今後訪れる強大な敵との戦いはどうなる!?

 そんなアタシの思惑など知ったこっちゃない魔獣が飛びかかってくる! 反射で手が動きだそうとして――――慌てて止める。


 ダメだ! 流石に無手の経験なんて無い! こちとら何でも出来るスーパーな異世界転生人じゃないんだよ! 剣を構えようとしていたのかボクシングのポーズでもしようとしたのか、よくわからないへなちょこの構えのまま、思わず目を瞑る。


「グギャア!?」


 魔獣の叫び声と共に、衝撃が……来ない?

 おそるおそる目を開けてみれば、誰かの後ろ姿。

 学生服という事は……上級生で……ここで登場するキャラクターは……。


 ゆっくりと、彼が振り返る。

 肩まで届く黒髪、理性的な表情を常にしていて、銀色のフレームを持つ眼鏡に、冷たい雰囲気を感じさせる鋭い眼光。

 凡百な存在から見れば従わざる得ない圧倒的なカリスマ。氷を纏うかのように研ぎ澄まされた雰囲気は見る者に緊張を強いる。

 学生とは思えないほどの力を持つ、圧倒的な強者。

 

「君たち、怪我はないか?」


 ――――アタシの一推し、香月院ゼン様がいた。

 

「……ゼン、様」

「あ、ありがとうございます」


 画面越しでは無い、あまりに近い距離感に目がクラクラとする。

 ぺたんとアタシが尻餅をつく。その代わりのようにふらふらと神楽が立ち上がる。

 立ち上がって直ぐに、そっとアタシの肩に手を置いて、不安そうにピタリとくっつく。


 最初にゼン様はこちらを一瞥して、そして直ぐに神楽を見て、驚いた表情を見せる。

 

「――君、は」

「?」


 神楽は不思議そうな表情をしている事だろう。ゼン様とは対象的に。

 

 このシーンは、香月院ゼン様と出会い、お互いが戸惑いを覚えるシーンだ。

 ゼン様は過去に神楽と出会っているからね! かつて恋い焦がれた相手が今出てくりゃそうなるでしょ!

 BGMが消えて二人だけの空間を演出し、掠れるようなゼン様の『君、は』のお声を聞いたときは、音量を最大にしてその空気の擦れる音まで耳の奥で味わうように何度も聞いた物だった。

 うわ、しゅごい、ぬるぬるうごいてる。きがくるいそう。

 

「オレを、覚えて――」


 そう。この台詞。今でも目を瞑れば思い出せるワンシーン。当時は繰り返し聞くことは出来たけれども、今生ではたった一度きりのワンオフシーン。

 そう考えてから、何故この世界には使い勝手の良いレコーダーが無いのかと悔しくなる。

 現代日本ならポケットに入るICレコーダーなど1万円以内で何処でも買えるのに!


「後ろ!」

「!」


 妄想の彼方に飛び込んでいたアタシの意識を引き裂くような、第三者の鋭い声が飛んだ次の瞬間には、ゼン様は既に振り向いていた。

 羽織っている黒いマントが一瞬で円形を描く。

 その瞬間に、ゼン様の実力を象徴する金色の刺繍が目に入る。学園の最優秀生徒を意味する、帝王の印。


「ブレイド――」


 小さく、呼気が聞こえたと思うと、右手に青白い剣をいつの間にか持っており、飛びかかってきた魔獣を一刀のもとに斬り伏せる。


「ひっ!」

「凄い」


 前者はアタシの感想で、後者は神楽の感想だった。いや、見慣れぬ魔獣が真っ二つになればこうもなりますって。

 若干の気持ち悪さを覚えながら、ため息と共に立ち上がる。このままここに居ると、魔獣のドス黒い血が流れてきそうなんだよね……。

 

 周囲を見れば、いつの間にか人間優勢の状態になっていた。

 

 教師だけではなく、ゼン様同様に上級生達が果敢に立ち向かい、あっという間に制圧していた。

 聞こえるものの大半は魔獣の断末魔だけだ。残りは人々の気合いの声。


 その様子に今度は感嘆の声と共に、作中の設定が口から漏れ出る。

 

「噂には聞いてたけど、基本的には武闘派なんだ、本当に」

「武闘派……そうなんですか?」


 背後から、神楽の不思議そうな声が聞こえる。

 おっと。聞こえていたか。

 

「アンt……神楽さんはここがどういう所か知らなくて?」


ここではお淑やかに。ゼン様いらっしゃるし。

 ゼン様は、知らない男子学生と話をしている様子。服装からして二年生、ゼン様と同学年だろう。

 安全そうなので後ろを振り向くと、ちょっと困惑している感じの神楽の姿。

  

「うん。ちょっと、事情があって……」


 遠い記憶から、この学園の設定を思い出す。

 

「ここは、この国――――ヨルム王国が、人類の為に――――魔森林攻略の為に、将来の人材を育てる所だから」

「そうなんですか?」


 頷く。

 

「他の三国と違って、ヨルム王国は魔獣が出てくる魔森林と大部分が接してるから、常に戦える人材を求めてるのよ。効率よく魔獣と戦い、勇敢に魔獣と戦え、まだ解放されてない領地を人類の為に解放する。そんな人材を育てるための機関でもあるの、ここは」


 このゲーム、いや――――この世界には、4つの国がある。


 

 一つは、海に面したウィシュト共和国。自由と海を愛する国。

 

 二つ目は、ウィシュト共和国と隣接している、宗教国であるユピ神国。ユピ神を信仰し、信心深い国。アタシの生まれでもある。

 

 三つ目、同様にウィシュト共和国とユピ神国と隣接している、武力主義のシペ帝国。かつては他方に喧嘩を売っていた軍事国家。

 

 そして四つ目――ユピ神国とシペ帝国の両方と隣接し、魔森林に対して壁のように存在している、ヨルム王国。魔獣の素材の売買がメインの産業。

 

 

 ゲームでは、基本的にはヨルム王国内だけで物語は完結する。

 シペ帝国も一部だけ魔森林と隣接しているものの、片側一面全てが魔森林と接しているヨルム王国と比べれば微々たる物だ。

 

 そう。


 光栄宮(こうえいみや)学園は、この世界における人類の天敵でもあり、重要な資源でもある、魔獣に対抗するための学園。

 

 ()()()()()()()()()()()()4国の中でも、対魔獣戦線の最前線にある学園に、アタシ達は居る。

次は土曜日です。

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