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第15話 突発的なイベントの発生

 結論は出せず、そのまま次の日が経過した。

 考えすぎてもどうしようもないので、何処かでいったん流れを再整理しよう、程度に落とし込んだ。

 さっさと身ぎれいにしようと寮内の共同浴場で体を洗った後、自室でぼんやりとしていたらチラチラと神楽から視線が飛んできたため、早々にベッドに入らせて貰った。 

 その後もうーうー唸りながらベッドに籠もっていたため、ベッドのカーテン越しに神楽に大丈夫ですかと心配されてしまう程だった。

 目覚めた時に寝不足感が無かったのは幸いだった。

 

 朝のホームルームでは何時も簡単な事を言うだけで終わるのだけれど、どうやら今日はイベントの日だったらしい。


「今日は都合が良いので、全面授業内容を変更します」


 クラス全体がざわりと一瞬だけ揺れた。

 一瞬、外部監査か何かかと思ったけれども、記憶の底から焦げ付いた懐かしい情報を拾い出す……前に、担任がネタバレを言う。

 

「ちょうど、学園周辺に魔獣の小規模な群れが確認されました。皆さんには、この群れと戦ってもらいます。今日は一日、対魔獣の戦闘授業ですね。他クラス合同となります」


 いきなりの展開にざわめきが加速される。

 直後、隣から不安そうな声。神楽だ。

 ――何の因果か、席すら神楽と隣とは、と思ったところでどうしもない。

 それに不安に思っているのは神楽だけでは無い。

 アタシも勿論そうだし、主に女子生徒が不安そうに話し出してる。

 そんな空気は何度も見てきたのだろう。懐かしささえ漂う雰囲気で担任は話を続ける。

 

「勿論、後ろには教師や保健医が付いています。指導を受けながら実際に戦って貰い、本物の魔獣との戦闘に是非とも慣れていって欲しい。私たちの基本的な目標は魔森林の開拓にあります。そしてそれは国の目標でもあり、日々の生活を豊かにするために人々の望みでもあります。魔森林を開拓する上で魔獣との戦闘は避けられません。魔獣を知らずに魔森林を開拓することなど不可能です」


 入学式の時に少し慣れた人もいたかな、と冗談を零す。


「だから、少しでも安全な状況から慣らしていき、君たちがやがて魔森林でハンターをしたり、調査員として研究に従事した時に、可能な限り生存率を上げていく必要があります」


 生存率、というところで教室全体が引き締まったような気がした。

 その空気を満足そうに見てから、緊張を緩めるように続ける。


「それに、上級生との合同授業です。規模と魔獣の種類から見て、一年生と二年生が合同で行えば何も問題は無いでしょう」

「あ」


 隣から納得したような、ちょっとした気づきを得たような声が漏れ出る。

 見れば、小さく頷いている神楽の姿。

 

「どうかしたの?」


 囁くように問いかける。無論、口調は念のためにお嬢様っぽいヤツだ。問いかけに、神楽もひそひそと喋り出す。

 何だか懐かしいノリだ。一回目の学生時代は何年前だったっけ……?

 一瞬、目が遠くを見据えてしまう。あ、担任、よく見ると前の世界だったら地味に女子人気が出そうだなぁ……

  

「いえ、ゼンさんが近々魔獣が来るらしいとはおっしゃっていたのを思い出して、これのことかなと」

「そうなの? 流石ゼン様、把握していらっしゃるのね、凄いわ」


 内心、その神楽が伝えてきた情報に少しだけ首を傾げる。

 劇中、何か言ってたかな、ゼン様。

 この手のイベント戦闘は作中でも度々あり、物語中盤ではもはや授業の一部という感じで、『戦闘があった』という一文レベルまで情報がカットされていた……と思う。

 頭をひねっているアタシに、引き続きゼン様の情報をくれる神楽。ナマの情報って感じで大変ありがたい。

 

「研究所に知人が務めているそうで、その分析結果とか言ってた気がします。今度、研究所内を案内してくださるそうですけど、オリヴィアさんも来ませんか?」


 とても、とても魅力的な案ではあるけれども……!

 内心首をひねる。

 研究所案内もまた、原作には無い展開だったはず。実際は裏で起こっていた出来事だったのだろうか。そうだと仮定した場合、アタシが参画してこれ以上、変に物語に影響を与えるのはアタシの心臓に良くない。

 

「いえ、遠慮しておくわ」

「えー。オリヴィアさんも来ましょうよー」

「ゼン様を直視するのは、ちょっと大変なの」


 これは事実だ。

 

「はぁ……?」


 不思議そうな表情をした神楽から離れると、キリッとした表情で前へと向き直った。

 

 その後、じゃぁ、あと30分後に連絡した地点に集合という担任の声が終わると、多くの学生が何時もと違う時間割に戸惑いながらも準備を開始する。


「ほら、神楽も行きましょう。ロッカーで良い場所を取らないと」


 とりあえず、アタシ達も女子更衣室で着替えてこよう。 


 ◆ ◆ ◆


 外は快晴で、やや厚手の長袖で無ければ紫外線を考慮しなければならなかったなと思う。この世界の紫外線がどれほど強いのかは知らないが。

 帽子も何も無いが、背が高く伸びた木々のお陰で直射日光は受けてはいない。

 学園指定の戦闘服という、元現代人からすると違和感の固まりといわんばかりの服装に袖を通すと、この世界の人達の基礎能力は高いのだろうなと思う。

 戦いに適するほど厚手の服は、相応に重い。が、そこはこの世界の人々の底知れぬパフォーマンスによってカバーされている。アタシが着ても重いとは思わない。

 人によっては笑ってしまうほど強力な筋力を――見た目に反して――持っているような世界なのだ。まだ一度も見たことが無い(神楽はあるらしい)塔仁義ゴウという先輩キャラは、素手で校内の壁を破壊出来るようなキャラクターであるが、あの先輩はムキマッチョであり、鍛える事によってちゃんと見た目通りの力も出せるのだろう。

 この世界の人々には恐らくRPGのようなステータスの概念があって、それは勿論アタシにもあるはずだ。原作のゲームは選択肢を選んで物語を進められる程度で、ちょろっとしたミニゲームもあれど、筋力とか賢さとか素早さとか、その手の能力値は存在すら示唆されていない。

 

 ……ちなみに、戦闘服というが、まぁようはジャージのようなものである。ジャージが戦闘服って結構殺伐とした世界観だと思う。

 ジャージを着つつ、各々が使いやすいと思える武装――基本的に学園にある剣や斧など――を背中に背負いながら、あるいは腰にぶら下げながら歩く姿はシュールを通り越した何かだ。

 基本的に女子は短めのダガーとか、戦闘という意味では使いづらい装備が多いが、まぁ今回の授業では特に問題無いらしい。 

 ちらりと振り返ると、ホームルームの緊張感は何処に行ったのか、全体的にやや高めのテンションだった。


 最初に担任が指定した地点はまだ学内だったようで、そこから三〇名近くいるクラスメイトの点呼を行い、魔森林へと歩き出した。

 先頭に担任が一人に、防衛部とかいう学内の安全管理の組織から来た人が左右と後方を固めつつの進行である。

 加えて、後方には保険医が一人見えた。その保険医はかつて神楽を診て貰った時の人に見える。

 

 アタシは今、担任の後ろを神楽と共に歩いていた。

 神楽が周囲を見渡しながら呟く。

 

「意外と道が整備されてるんですね」

「そうね」


 確かに。

 道はでこぼこであれど、十分な広さがあった。

 もっと草木が乱雑してかき分けるかのようなジャングルが生い茂っているのかと想像していた。無論、脇道にはそこそこ生い茂っているし、天を見上げても背の高い木々によって青空は多少遮られている。遮られていない空の光景から、何かの鳥が集団で飛び去っていたのが見えた。

 ここがまだ学園の敷地内である以上、ある程度の整地は行っているのだろう。

 それを裏付けるように、担任が前を向いたまま会話を続ける。

 

「この道は、学園が出来た当初からあったらしくってね。昔は背の低い草も生えていたけれど、人の往来が多すぎて、今となってはご覧の通りだ」

「意図的に整地していたわけではないのですか?」


 問いかける。

 

「そうだね。ここのルートが一番利便性が良くてね。よく魔獣が集まるよう細工した丘があるんだけど、そこへの最短経路なんだ」


 アタシの問いかけに、うんうんと頷くその姿は、何か古い思い出を探っているかのようだ。

 

「メリオトロイ先生は、もうこの学園に居て長いんですか?」


 神楽が尋ねる。

 今の口ぶりからすると、相当長く教師をしているようだが……それでも30歳半ばではないのだろうか。

 アタシの疑問の視線を受けて、苦笑しながら話してくれる。そして地味に担任の名前が判明する……というか、アタシが覚えてないだけだ。


「僕は元々この学園の学生でね。僕が居た当時はまだもう少しだけ背の低い植物が生えてはいたんだ。今よりこの学園の周囲はもっと危険で、保健室がしょっちゅうけが人で埋め尽くされてたりもしていたんだ」

「そうだったんですか!?」

「オリヴィアさん……?」

 

 少し声量を上げたのはアタシだ。思わず目を輝かせてしまう。

 作中や外伝本でも担任の話は出てこないけど、実はキャラクタが昔からの学園を知っているっていうのは良いよね!

 しかも元学生ときたもんだ! この情報があったなら、もっとオンリーイベントにて担任のSSが増えていただろうに……!

 惜しい、惜しすぎますメリオトロイ先生……!


 ぐっと拳を握りしめるアタシを見る事無く、先生は話を続ける。

 

「もう20年ぐらい前の話だけどね。――っと、2年生組と合流する場所にそろそろ着くね」


 前を見れば、確かに人影が見える。

 へぇ。

 2年生はジャージ強制じゃないのか。割と色々な服装が見える。勿論ジャージの人も居るのだが、それでも何かしらのアクセントが見え、全体的にだいぶ個性溢れる感じに仕上がっている。

 近づけば、ゼン様を筆頭に多くの学生が見え始めた。既にこちらに気付いており、ゼン様は真っすぐにこちら――の隣にいる神楽を見ている。

 ここら辺の展開そのものは実に――。


「ゲーム通り、ね」

「何か言いましたか?」

「いえ、何でもありませんわ」


 メリオトロイ先生の不思議そうな視線をこちらに向けていたものの、直ぐに目の前からやってきたゼン様達の二年生クラスを迎えるために向き直ると、ゼン様へと声を掛けた。

次回は土曜日です。

ストック分は尽き書けているので頑張り所ですね……。未完のままにはしたくないものです。

夏休みが世間的な事情で例年より数日だけ長いので頑張ります。


あとは、よろしければブックマークもどうぞお願いします。

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