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第10話 触れてはいけない話題

 次はようやく座学だった。

 全員が青い顔をして――少数の生徒が体調不良が直らず、保健室から戻ってこなかったが――わらわらと廊下を歩く姿は前世の学生達とそっくりだった。初日から体調不良者が出たことに関して、教師があのバカ教師などと言う場面すら、何処か懐かしい。

 教科書を持って、すり鉢状の講義室で魔法に関する初授業の風景は、薄れゆく前世の記憶における授業風景と一致する。まぁ、服装はかなりファンタジーだけれど。


「魔法を知るにあたり、まず三つの能力ついて知ってください。魔力量、魔感知力(まかんちりよく)、耐魔力値。この三つです」


 どこから見ても中年と呼んでもいい教師が声を上げながら、魔法に関して説明をする。

 ここら辺、ゲームではダイジェストだった。しかしこうやって聞いているとしっかり学問として存在するんだな、と妙な感心を覚える。

 

「魔力量は個人が保有する、魔法の源の量です。端的に言えば、どれくらい魔法を使い続ける事が出来るか? という事を示します。今、ほとんどの生徒が自らの魔力量を自覚出来ていないと思いますが、魔法を行使出来るようになれば自ずと自らの魔力量を知る事が出来るでしょう。魔力を使いきると、今度は自らの体力を消費していき、疲労がたまり、それでも使い続けると死に至ります」


 憶測でも無く断言口調で言われた死ぬという言葉に、一瞬室内が静まりかえる。

 

「もっとも、そのときには疲労困憊な状態のはずです。死ぬ前に気絶が先でしょうが」

 

 と続けても、恐ろしい事は恐ろしい。やや遅れて少しだけざわめきが起こるが、見慣れているとばかりに話を続ける。

  

魔感知力(まかんちりよく)は、周囲にどれくらい魔力の残滓があるか? という事を知る能力ですが、この能力を上げていけば、自ずと魔法の使い方も上手くなります。魔感知力が高いと魔法の効果もあがり、これは良いことなのですが……自らの魔力を失った時にどれくらい疲弊するか? も、この能力に依存します。よって、魔力が尽きたとき、魔法が上手く使えない人間であればあるほど、ある種の継続戦闘能力が高い事になります。つまり、魔力が無くなったとしても疲弊する速度が遅くなります」


 魔感知力そのものを使った説明ならば良いけれど、何かに例えようとすると難しいかもしれない。

 蛇口の大きさ……と思ったものの、特にピンと来ない。出力が変わる事は変わるのだろうが……。ぺらりと、何で作られているのかわからない教科書を捲ってみても、魔感知力の主眼は出力の大小に置かれていないことがわかる。

 ……眼鏡の度数をあげた時のような? よく見えますが目の疲れ具合も加速します? 全然違うか。

 

耐魔力値(たいまりよくち)は、魔法に抵抗する強さを示します。この能力が高いほど、相手の魔法による妨害を受けづらく、また魔法全般の影響を受けづらくなります。しかし、その逆に、高ければ高いほど仲間からの補助も受けづらいです。本当に高い人は、仲間から魔法の補助を貰うために、意図的に魔法に対して無防備になるような訓練が必要になります」

  

「高ければ高いほど嬉しいのは、魔力量だけ……みたいですね、オリヴィアさん」


 こっそりと、横に座った神楽が話しかけてきた。それはアタシもかつて思っていた事だ。単純に全能力が高ければ良いというわけではないこと。ゲームでは特にデメリットに関して触れられていない。

 ちらりとページをめくると、耐魔力値の弊害に関しても幾つか書かれている。

 内容を確認して返答する。

  

「そうみたいですね。耐魔力値が高いと、医療系の魔術も通りづらいって結構大変のようです。……ほら、こことか」

「あ、弱体化の魔法を自分に掛けるんですか? 成るほど……」


 教師の話は、それらを踏まえた、今度は魔法史とも言えるものが間に軽く挟まれる。発展の歴史は初耳で、うきうきしながら聞いてしまった。

 

「次は、一般的には魔法とだけ呼ばれていますが、正しくは基礎魔法です。これには種類があり――「火、水、雷、風」――です」  

「オリヴィアさん、知ってたんですか?」


 教師の言葉に重ねるように呟くと、ちょっとだけ驚いたような表情で尋ねてくる。

 

「基本である以上、少しでも興味がある人は、きっとみんな知ってるわ」

「私、全然知りませんでした……」


 実際問題、そうなのだ。ユピ神国に居た時点で既に、軽くそこら辺の書物に触れる機会があったときにすら書いてあったぐらいだ。

 ……そうえば、主人公である神楽の過去というのは、作中では割合サクッとした説明しかない。実際にどういう生活をしていたのだろうか。

 

「神楽さんって、魔法を見たことありますか?」


 この学園に入る前に、というニュアンスを漂わす。

 

「実は、ほとんど無くて……。間近で見たのは、たぶん……入学式の時が初めてだと思います。私の住んでいた地域は、安全な場所で、のどかな場所でしたから。田舎です」

「田舎……」

「ゼンさんが使ってたのが印象に残ってます」

「ゼン様は、「ゼン様?」あー」


 おっと、素が出た。

  

「……あの方が使っていたのは水属性を更に突き詰めた氷の剣。ただ水属性が使えるだけでは出来ない、高等技術よ」

「そうなんですか? 水属性が得意属性なんですね、ゼンさん」


 その言葉に横に首を振る。

 

「あの方は、全ての基礎属性が優秀の評価よ」

「そうなんですか?」


 あら? 興味あるの? ゼン様に?

 今この瞬間、間違いなく無意識にアクセルを踏み込んだ。

 第三者が居れば、オタクに好きな物について尋ねるとは迂闊な、と言うだろう。

  

「――どれも不得意な物が無いの。ゼン様は全てが得意と言っても過言では無いわ。魔力量、魔感知力、耐魔力値、全てがトップクラス。勿論、耐魔力のコントロールも抜群で、強弱も思いのままなの。でも遺伝魔法はお持ちで無いのよね。遺伝魔法っていうのは知っている? 知らない、と。遺伝魔法っていうのはその人自身が持つ基礎魔法とは外れた属性の事で基本的には血のめぐりによってのみ発言する魔法のことよゼン様は遺伝魔法持ちと出会うと少しだけ羨ましそうな表情をするスチルがあってそれにね素晴らしいのは魔法だけじゃないのよ身体能力も素晴らしくてまるで舞踏会で踊っているかのように軽やかに戦うのよねぇ聞いてゼン様は博識で先見の明があり座学もとても優秀で美貌秀麗でありながらねあこれはメモを取っていた方が良いわ――」


 魔法の授業が終わるまで、アタシの話は続いた。

 授業終わりの合図で我に返ったアタシが見たのは、焦点の合っていない目で空を眺めていた神楽の姿だった。

 ――ゼンさんと話したのは入学式の時だけなのに、本人と話す前にゼンさんについて詳しくなれました――とは原作主人公、神楽の談だ。

 授業ほっぽりだして静かに、そして熱意溢れるままフルスロットル。

 自由に弁論出来る場所が無い世界に来たオタクに、好きを語らせるというのは、蜂の巣を突くようなものだ。

 

 今は後悔している。神楽にも申し訳無い事をしてしまったと思う。

 口頭だけでなく、資料が必要だった。

次はまた来週の土曜ですね……。

ストック中の最新話を書いている最中に寝落ちして、気がついたら主人公が呂布みたいな叫び声を上げてました。

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