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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第1章 君に恋を教えてあげる
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第6話 兄としてできること

 無舵に、「今日は帰って良い」と言われた彼方一行は、帰路についていた。

 彼方とルガリの手には、ビニール袋が提げられている。


「3人で来たから、安売り卵3パック買えちゃったな~」

 ほくほく顔で言う彼方だったが、悪魔2人は不思議そうだった。


「彼方、親御さんはどうしてるの?」

 クロエがそう聞くと、彼方は「うん、聞かれると思った」と返事をしてから言う。

「親は、父さんは亡くなった。その死亡保険が結構入るから、そんなに貧しい暮らしはしてないけど、母さんが仕事命な人だし、今は海外で生活してるよ。だから、今はあのマンションで、傍多と2人暮らしなわけ」


 なんでもないように言う彼方に、クロエは眉を寄せる。

「それって、寂しくない?」

「なんで?悪魔の君らにそういうこといわれるとは思わなかったな……。もう慣れたからね。それに、傍多とも、最近すれ違いであんまり喋ったりしなかったんだ」


 意外な事実に、クロエは驚く。

「え、だって、あんなに仲よさそうだったじゃない!」

「外見はね。でも、心の中では、どうだかわからない。傍多はああいう子だから、なかなか本音を見せてくれないし。ミッションスクールでは人気者みたいだけど、友達を呼んだり、友達と遊んだりってことも今までにないし、皆、きっと傍多のことは高嶺の花だと思ってるんだろうな」


「共通の敵を作ると、人間は結びつきが強くなるそうだ」

 黙っていたルガリが口を開く。

「そして、今朝、お前たちが仲よさそうにしていたのも、俺たちという共通の敵がいたからだろうな」


「……ふーん。人間社会って複雑なのね」

 クロエは、ぱたぱたと歩く。人間年齢では10代前半の姿形をしており、元々背の低い彼方の歩幅でも、下手をすると置いていってしまうので、彼方も気をつけて歩いている。


「……でも、傍多とああいう風に、兄妹として接することができたのも、君たちがいてくれるからだね。ありがとう」

 彼方は、クロエとルガリを振り返りながら言った。

「僕は、とてもじゃないけど自慢なんてできない兄だから。だから、料理も覚えたし、掃除も洗濯も、全部僕がやってるんだけど。少しでも、傍多にとって、『必要な兄』と思われたいのかもね」

 その顔は笑顔だが、悪魔兄妹はそれ以上口を挟むことはなかった。



――

「ただいま~」


 家に帰ると、クロエがぴょんと飛び上がって「ただいまんこ~!」と悪魔らしいと言うか……品のないあいさつをしてみせる。


「クロエ、ちゃんと手を洗え」

「はーい」


 悪魔兄妹は、そう言ってバタバタと洗面所に向かう。

「……僕も、ルガリみたいに格好良ければ傍多と上手く接することができるのかな」

 彼方は、ぽつりとそうこぼしたが、首を振って、「よし!料理作ろう!」と気合いを入れた。


 

 メインを作って、味噌汁を仕上げる頃に、傍多が「うーい、ただいま~」と帰ってきた。

「は、傍多、お帰り……」

「?うん?うん」

 事情を知らない傍多は、彼方のあいさつを軽く流す。そして、170cmの大柄な体を洗面所に収めた。


「傍多って、何の部活やってるの?」

 クロエが足をぱたぱたと動かしながら聞く。

「陸上だよ。あれで、傍多はスポーツ全般何でもできるからね。色々と迷ったみたいだけど、中学では陸上をやるって決めたみたいだね」

 彼方が、皿を並べながら言う。


「そういえば、彼方と傍多って、いくつ差があるんだっけ?」

「うーんと、僕が14だから、傍多は13だね。年は1年差で、いわゆる年子だよ。僕がもしも中学に行ってたら、中学2年になるのかな」

「じゃあ、傍多は中学1年でもう170近いわけ!?何食べたらそうなるの!?」

「父親が元々大きい人だったみたいだよ。ほら、女の子は父親に似るっていうじゃないか。傍多の場合、完全に遺伝で、しかもあのプロポーションだからね。モデルにも何回か誘われたことあるみたいだよ」


 クロエは、「ふーん」と机に両肘を付く。彼方は、ついにこらえきれないというように、クスクスと笑った。


「何?何よ?」

「いや……さっきからクロエ、傍多のことばかり聞いてるなって思って……」

「しっつれいね!間違いとはいえ、契約しちゃった相手のことを知りたいって思うのは、普通でしょ!?」

「そうだね。ごめんね、クロエ」


 彼方に謝られて、一応は溜飲を下げたのか、クロエは「ふんっ」と鼻から息を吐いた。



 そして、食事の時間になったのだが。


「私たちの分は要らないわよ。私たちの栄養分は、人間の『精気』なんだから」

 そう言われ、彼方は「でも作っちゃったし、余らせるのもダメだから、食べなよ」と料理を勧めた。

「……完全に無駄だと思うんだけど……」

「そう言うな、クロエ。部族の歓迎の踊りのようなものだ。俺たちにとって意味はないかもしれないが、彼らにとっては意味があるんだ」

「僕の料理を部族にたとえるんかい……」


 そんななかで、傍多だけが、黙々と料理を頬ばり続けていたのだった。成長期の食欲なめんな。

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