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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第4章 それでも貴女に恋をする
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第7話 お尻叩き

 傍多は、クロエの耳元でそうささやくと、ぱっと体を離した。

 クロエは、不思議そうに、傍多の行動を注視する。


「ん」

 傍多は、そう言って、ベッドに腰掛け、自分の膝の上をぽんぽんと叩いた。クロエは、飼い主に呼ばれた犬のように、ぱあっと顔を輝かせて、その膝の上に傍多をまたぐようにして乗る。


 しかし、傍多は、残念そうに「違うわ」と言った。


「?何が違うの?これじゃないの?」

「そうよ。私はね、節操がないように見えて、一度も好きな子以外に唇を許したことはないの。でも、クロエは違ったのね。だから、お仕置きが必要だなって思うのよ」

「……?膝の上と、お仕置きが関係あるの?」

「大ありよ」


 そう言うと、傍多は、一呼吸置く。

「膝の上に、お尻を突き出しなさい。クロエ」


 クロエは、途端に顔を真っ赤に紅潮させて、それから、ぱくぱくと口を開けたり閉じたりを繰り返す。

「お、お、お尻って……そんなの、突き出してどうするのよぉ……」

「決まってるじゃないの。お尻を叩くのよ。お仕置き……というか、しつけ、かしら。もう二度と誰にも唇を許さないように、こういうことはしっかりやっておくべきだと、私は思うのよ」

「キスされてないって言ってるでしょ-!?って、きゃあっ!!」


 身長170cmで、陸上部で鍛えている傍多は、華奢な体型のクロエを持ち上げることなど容易だった。クロエは、傍多の膝の上に腹ばいになるようにして、お尻を空中に突きだした格好にさせられる。


「止めて止めて-!本当に、本当にキスなんてしてないのよ!?どうして信じてくれないの!?」

「クロエに隙があるから、そうなるのよ。じゃあ、10回。10回で、今日は終わりにしてあげる」

「今日はって、なによお……。うう……」


 クロエは、早速泣きそうになりながらも、羞恥と未知の恐怖に耐える。「お尻を叩かれる」など、兄であるルガリにもされたことがなかった。


「じゅーう!」

 パシン、と、クロエの肉付きの薄い尻に、傍多の手のひらが打ち付けられる。

 クロエは、「ひぎゃっ!」と、悲鳴を上げて、痛みに耐えた。


「きゅーう!はーち!なーな!」

 カウントと共に、次々と平手が襲いかかった。

 クロエだって、元は悪魔である。悪魔同士は好戦的で、試し合いとして、刀傷などを負うことも多かった。

 

 だが、あくまでそれは、悪魔同士のマウントや、腕試しといった、色気も何もない状況下での話である。

 傍多に尻を叩かれる、という行為は、クロエにとって屈辱と、それと同時に、支配されることによる被虐的な体の悦びを覚えていた。


「ろーく!あと半分よ。頑張って」

 半分まできたところで、傍多は、柔らかく、クロエの尻を撫でる。パジャマの上からではあるが、クロエの尻は、既に熱を持ってじんじんと痛みを感じ始めていた。


「ごーお!よーん!さーん!」

 パン、パンと、肉を打つ乾いた音がする。クロエは、目に一杯に涙を溜めて、傍多を見上げた。


「傍多……もう、もう良いでしょ?ここまで頑張ったんだから……ひぐっ!」

「まだよ。にーい!」


 パシン、と、クロエの尻が鳴った。クロエは、「あと1回……!」と思いつつも、うっかり尻に力を入れてしまう。


「いーち!」


 しかし、尻に力を入れたのは、逆効果だった。クロエの薄付きの尻の筋肉は、ただ叩かれるよりも、痛さの強みが増す。クロエは、慌てて尻から力を抜いた。


「ぜーろ!……はい、おしまい。頑張ったわね、クロエ」

「ぜ、ゼロまでカウントするなんて聞いてないわよ!ひぐっ……」


 クロエは、喉の奥でしゃくりあげる。恥ずかしくて、悔しくて、悲しくて……そして、快感だった。

 その、快感が、クロエを追い詰める要因にもなる。


「お尻、見せてごらんなさい?ちゃんと、パジャマの下を脱いで。ショーツも脱いで」


 クロエは、ぼろぼろと涙をこぼしながらも、傍多の言葉に従った。真っ赤になったお尻を、傍多の前に突き出す。


「そうよ。これくらいがちょうど良いわね。よくできました、クロエちゃん」

「う、う、う……何よ……何よ何よ何よ!!傍多の馬鹿!!私の話も聞かないで!!」


 クロエは、そう叫んで、手元にあった500ml入りのミネラルウォーターのペットボトルを、傍多に向かって投げつける。


「ちょっと、クロエ。またお仕置きして欲しいの?」

「傍多なんか大嫌いなんだから!!なーにが、『好きな人以外に唇を許さない』……よ!!そもそも、傍多が取り巻きの言うとおりにしてなければ、私はあんな目に遭わずに済んだんじゃないの!!」


 次に、枕。次に、使っていたドライヤー、と、クロエの投げる物の激しさは凶器度を増していく。


「傍多なんか大嫌い!!大嫌いなんだから!!」


 クロエは、最終的に、ホテルの備え付けの木製の椅子まで自分の頭の上に掲げた。そのまま、投げつけようとしたところで、傍多に「もう、いい加減にしなさい」と止められた。


「――っ!傍多は、私のことなんてどうでもいいんだわ!!もう知らない!!」

 クロエは、そう言って、自分のベッドに潜り込んで、布団を被った。

 傍多は、本気で、自分のしたことの重要性がわかってはいないようだった。

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