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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第4章 それでも貴女に恋をする
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第6話 クロエと宮島のキス未遂

「……っ!今のは聞かなかったことにするわ。でも、木崎さんが、あなたが私のことを蔑称で呼んだって知ったらどう思うかしら?」

「べーつーにー?本当に言ったことだから、私は弁解なんてしないわよ?そんなことで私を脅せると思わないでよね、宮島さん?」


 クロエは、一応今度は宮島を苗字で呼んだ。しかし、情勢は、悪意をものともしないほどの図太さを持った、クロエの方が優勢に見える。


 クロエは、自分の頭の後ろで手を組むと、そのまま柵に寄りかかった。


「本当に……!どうして木崎さんがあなたのことを特別視するのか、私には理解できない」

「ふーん。そりゃそうよね。ってゆーか、あなた、全ての関わった人間たちのこと理解できてると思ってんの?すっごい自信家なのねー!とてもじゃないけど、私には真似できないわー!?クロエ、びっくりー!」

 

 さすがに、年の功というか、クロエは口喧嘩でも負けてはいないようだ。そのうち、クロエと宮島という、異色の組み合わせと、その言い合いの不穏さに、生徒たちが遠巻きに事情を見守りつつあった。


「…………」


 ふと、宮島が黙り込んだ。クロエは、そのまま宮島がきびすを返して立ち去るか、平手打ちの一発でも見舞ってくると思って、目を閉じていた。


――だが。


 見守っていた生徒と、クロエの取り巻き、そして、カンナと理奈が悲鳴のような声をあげる。


 宮島は、カツカツとクロエに近づき、クロエの後ろ頭をがっしりと押さえ込んだのだった。

 そして、クロエの唇に、自分の唇を押し当てようとする。


「――な!?なにすんのよ!この変態!!」

 しかし、悪魔であるクロエの反応は、人間を超えていた。ぐいっと顔を逸らし、宮島の唇を避ける。


「…………」


 キスに失敗した宮島は、「本当にこの女性がわからない」というような、不可解な表情で、クロエを至近距離で見ていた。

 

「はっやっくっ!どきなさいよ!!」

 クロエは、ドン、と宮島を突き飛ばす。宮島は、数歩たたらを踏んでその場にしゃがみ込んだ。


「……私には、本当に、あなたのことがわからない。クロエ・アフターマン」


 宮島は、そう、クロエに聞こえる声量で言ってから、さっとその場で立ち上がり、カツ、カツ、と靴音を鳴らして、その場から去って行った。


「アフターマンさん、大丈夫!?」「叩かれたり、キスされなくて良かったわ……!」


 クロエの取り巻きたちが、わらわらとクロエの元に駆け寄ってくる。クロエは、宮島にキスされそうになった時と同じような、怒りをあらわにして、宮島の去って行った方向を睨み付けている。


「あいつ、何のつもりなのかしら!?本当に腹立つ女よね!!」

 美人の怒っている顔は怖い、というが、クロエのその顔も、かなりの迫力を持っていた。

 しかし、常日頃から孤独をものともせず、一人でも堂々たる王者の風格を持っているクロエのその顔ですら、取り巻きたちは魅力的に映ったようだった。


「あー、もうちょっとだったのになー、宮島のやつ……」「まあまあ、カンナ。これから素敵な修羅場があるかもしれないじゃない?それに期待しましょ」

 カンナと理奈のゴシップ好きの二人は、クロエを囲む輪に、そのまま溶け込んでいった。

 

 ただし、クロエから、「あんたたちからは不純な動機しか感じないわ!」と言われ、苦笑いで誤魔化すしかなかったのだった。


――

 予定通りでは、1日目の観光が終わった。

 3日目の午後に飛行機で東京へと帰る目算であった。


 クロエは、当然のように傍多と同じ部屋で宿泊していた。

 傍多とは、既に一線を越えてはいるが、初めての旅行先ということで、ドキドキしてしまうクロエがいた。


 しかし、当の傍多は、クロエがどれだけ呼びかけても、無反応である。クロエは、取り巻きに囲まれすぎて、疲れているのかと思い、あまり気にすることはなかった。


 だが、それでは終わらなかったのだ。


「……クロエ」

「うんっ?何!?」

 

 入浴から上がり、ドライヤーを使っていたクロエは、大体乾いた髪を手櫛で整えると、傍多に向き直った。


「ちょっと、嫌な噂を耳にしたんだけど」

「嫌な噂?……んー。確かに、宮島雪とは、口論っていうか、やり合ったけど」


 クロエは、さして問題なさそうに言うが、傍多は、クロエを手招きした。


「?どうしたの?傍多……って、えっ!?」


 傍多のベッドの隣に座ると、急に、傍多がクロエを押し倒した。

 クロエとしては、正直に言うと願ったり叶ったりなので、そのままキスを待つ。


 ……だが、傍多は、そのままクロエにまたがったままだった。


「……傍多……?」

「宮島に、唇を許したそうじゃない?」

「そんな!ちゃんと避けたもん!」

「嘘つきな唇ね」


 傍多は、そのまま、クロエに覆い被さって、ちゅ、ちゅ、とキスをしかけた。


「私以外に唇を許したのね……。残念だわ、クロエ」

「キスされそうになったけど、避けたわよ!傍多!本当だから!」


 傍多は、それでも腑に落ちない表情と、性的な興奮を瞳に映して、こう言った。


「今から、クロエの記憶を塗り替えてあげる」

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