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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第4章 それでも貴女に恋をする
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第2話 カンナと理奈の二人

「ええと、アフターマンさん。勝手にお邪魔してごめんなさいね?」


 理奈は、そう丁寧に言って困ったように微笑む。恋人を取られて、ひとりぼっちでぽつんと孤独を感じていたクロエに対する憐憫れんびんと、カンナが気安く、孤高の存在であるクロエに絡みに行ったことの「ごめんなさい」らしい。


 ちなみに、クロエにはファミリーネームはない。悪魔は総じて、名前しかないのだ。しかし、クロエは、現世界に現れた時に、たまたま本屋でみかけたSF本のタイトルを、そのまま苗字に付けたのだ。だから、大して意味はないし、ロシア国籍でその苗字を使うかどうかも知らない。


「別に良いわよ。ってゆーか、皆、座席なんて関係なく移動しちゃってるし」

 クロエは、素っ気なく言う。大人しく自分の席に座っているのは、真面目グループの理奈たちくらいなものだった。


「……で、あんたたち、付き合ってるの?カンナと理奈だけど」

「ぶほっ!!」

「え!?」


 カンナは、再び買ってきた缶コーヒーを吹き出し、理奈は口元を手で押さえた。

 

「良いじゃない。本当のこと言っても。恋愛はこの国では自由なんでしょ?私と傍多の関係は皆にバレちゃってるし~」

「……あ、あれで隠してたつもりなんかい……」


 カンナは、むしろ傍多とクロエの関係を隠していたつもりのクロエに驚いたようだった。クロエは、首をかしげる。

「一応、公にはしてなかったつもりだけど」

「公にしてない女が、転校初日に木崎と腕組んで歩いたり、お弁当を食べさせ合いしたり、一緒に住んだりはしないと思う……あ、最後はホームステイならわかるか……」


 クロエは、足を組み替えると、言う。


「だから、別にバレたって良いのよ。この学園では割と普通のことみたいだし。だから、カンナと理奈もカミングアウトしたら?」


 そこで、カンナも、理奈も、お互いにそっぽを向いた。クロエは、「お?」と声を上げる。


「もしかして……あんたたち、まだ告ってもいないとか!?うっそでしょ!?あんなにいちゃいちゃいちゃいちゃしておきながら!!ふざけないでよ!!」

「ふざけてないよ!!なんで最後に罵倒されたの、私!?告るとか告らないとか……理奈の心持ちにもよるじゃん……」

「えっ……?」


 理奈は、ほんのりとその人形のような顔に赤を散らせた。

 クロエは、それを面倒そうに見やっている。


「ふーん。まあ、そのまま、やってても良いんじゃない?あんたたち、そんなんじゃ一生告白なんてできないわよ」

「まあ……それも、そう、だけど……」

「あの、アフターマンさん、傍多さんは良いんですか?なんか、ちょっと困ってるみたいですけど……」

 クロエは、また面倒そうに、理奈を見た。


「……クロエでいいわよ。カンナなんて、断りもなくファーストネーム呼びだったのよ?アフターマンって、長いじゃない」

「え……でも……」

「良いってば。それとも何?この私に何か意見でもあるっていうの?」

「クロエ……お前、ホント上から目線だよな……」


 カンナが、微妙に言葉遣いを注意するものの、クロエは気にするそぶりもなく、チョコレート菓子を一つつまむ。


「良いんじゃない?傍多も、これで懲りれば、あっちこっちの女を口説くのも止めるだろうし。あいつは調子に乗ってるから、痛い目見た方が良いのよ」

「はあ……でも、クロエさん自身は、どう思うんですか……?」

「私自身?」

「はい」


 理奈は、人の感情の機微に聡い。クロエが内心、傍多に対して嫉妬していることを、見抜いているようだった。


「……そうね。ちょっとばかり、つまんないな、とは思うわね」


 クロエは、そう言って、窓の外の景色を見やる。カンナと理奈は、その、クロエのふとした瞬間に見せる、「儚さ」に、時々はっとさせられるのだった。


「……そろそろ、長崎駅じゃないの。降りるところだから、皆、席に戻ってくるわ」

 クロエが、シートから立ち上がったところで、カンナも理奈も、我を取り戻した。


「……って、私の席、変な女に取られてるし!!ホント腹立つわあいつら!!」

「クロエは、そうして女王様やってる方が似合うな」


 カンナが、ぽつりとそう呟く。カンナも理奈も、クロエと接していると、不意にクロエに魅了されて引きずり込まれるような感覚を覚えることがあった。それが、悪魔特有のものなのか、それともクロエという存在が天性として持っているものなのかを知るよしは、二人にはない。


「ちょっと!!もう降りる駅近いのよ!!さっさと散りなさいよメス共!!」

 クロエは、そう怒鳴りながら、傍多の取り巻きをしっしと追い払う仕草をした。


「アフターマンさんって、性格きついわよね」「木崎さんが可哀想」

 そんなことを口々にしながら、取り巻きは徐々に減っていった。


「ふん!性格悪いのはどっちよ!!全く、メス共はやることが陰湿ったらないわ!で、お菓子で懐柔されてるんじゃないわよ傍多!!」

「ふん?」


 傍多は、取り巻きが持ってきたお菓子をさっきからむさぼり食っている。尻に敷かれていると思われる傍多だったが、実際はクロエもなかなか苦労を強いられているのであった。

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