第7話 暴走するきっかけ探し
「新菜ちゃんは、元々霊能力者の才能があるんだよ」
無舵は、訥々《とつとつ》と語ってみせる。
「思春期辺りの、特に女の子に多いんだが、昔はラジカセがひとりでに点いたりな。あと、簡単なものなら、天井からぶら下がってる電灯の紐を揺らしたりもできる。それの強化版が、新菜ちゃんってわけだ」
「……というと、特に珍しいケースでもなさそうですね」
「ちょっと霊能力に長けた女の子なら、そういうことが勝手にできるんだよ。霊能力ってのは、電波だからな。ただ、新菜ちゃんのように、様々な物体に対しても、その能力が発揮されるとなると、レアケースといえばレアケースだな」
「はあ……」
彼方は、気の抜けた返事をするが、無舵はそこで口を閉じた。
「あの……新菜さんの能力が、暴走したのが、今回の件ってことでしょうか?」
彼方はそう問いかける。無舵は、眉間をもみほぐす。
「暴走……そうだな。新菜ちゃんは、能力の使い方を知らない。新菜ちゃんの親御さんと話もしたが、そういう兆候が現れ始めたのは、ここ数日って話だった。最初は、地震のように部屋の置物がカタカタ揺れる程度だったのが、3日で自分の部屋と、次に泊まった両親の部屋を、この写真みてーにめちゃくちゃにしたらしい」
そう、無舵は言って、昨夜傍多が撮った、木崎家の被害の写真を指さす。
「……で、どうにもならなくなって、無道に相談に来たってわけだ。このままだと、それこそ家そのものをぶっ壊すことにもなり得るしな」
「……なんで、僕らの家を、避難所にしたんですか……」
「単純に、物が少ねえって話でもある。物の多い柏木や、俺の家に泊めて、能力を使われてみろよ。下手すると、新菜ちゃん自身にも被害が出る可能性がある」
「僕らも、蛍光灯が割れて、危うく新菜さんも怪我するところでしたよ」
「まあ、それについては申し訳ねえ。俺も、予測でしか動けねえからな。まあ、彼方が新菜ちゃんと一緒にいてくれて良かったとしか言えねえな」
彼方は、少しだけ溜飲を下げた。
「無舵さんにも、読めないことってあるんですね」
「何、人を化け物みたいに扱ってやがる。俺だって人間だからな。できないことくらいはあるさ」
そこで彼方は、ふと疑問に思ったことを口にした。
「ところで、新菜さんの力が暴走するきっかけ……っていうか、動機?みたいなのって何ですかね?昨夜は、急に眠っている新菜さんの呼吸が乱れ始めてから、ポルターガイストが起こったんですけど。やっぱり、ストレスとか、そういうものですか?」
「そこが問題なんだよな。仮にストレスだったとしても、新菜ちゃんがどこにストレスを感じるのかがわからねえと、意味がねえだろ?それに、人間、何にだってストレスを感じているものさ。それこそ、精神科の病院に入院させるってことも一つの手ではあるが、そこでポルターガイストが起こった場合、保護室行きか、下手すると病院にまで手に負えないって見放される可能性もあるからな」
彼方と無舵は、そこで黙った。つまり、今のところ、打つ手はないということだ。
「ま、今わかってることは、ポルターガイストは新菜ちゃんが眠っている間しか起きねえってことだな。眠ってる間に、何らかの作用で能力のスイッチが入ると、ポルターガイストが起きるわけだ。後は、彼方の証言からすると、現象が起きるのは家全体じゃなくて、一室だけ、ってことだな。一応、新菜ちゃんも遠慮してるのかもな」
そんな冗談を言われても、彼方にはとてもではないが笑えない。
結局、何の収穫もないまま、ただ単に無道に行って帰ってきただけの話になってしまった。
――
「ただいま……あれ?」
帰ってくると、教習所に行っているルガリはともかく、新菜の姿も見えない。傍多とクロエは学校だが、確か新菜は学校を1週間ほど休んでいるはずなので、留守番をしていると思ってはいたのだが。
「何か、足りないものでも買いに行ったのかな?」
女の子であることだし、彼方も四六時中見張るわけにはいかないので、彼方は軽く今日の献立を考えつつ、ついでに買い物をしたので、買ってきたものを冷蔵庫に詰め始めた。
そこで、ガチャリと、玄関の開く音がした。
次いで、そーっと、新菜がキッチンのドアを開けて入ってくる。
「あ、新菜さん。買い物でも行ってたんですか?」
彼方は、できるだけ新菜にこれ以上罪悪感を感じさせないために、あえて笑顔で振り返る。
「あ、えっと……そうです、コンビニに……」
そう答える新菜は、クラフト紙の、ちょうどマクドナルドのテイクアウトをするような袋を持っていた。彼方は、首をかしげたが、すぐに思い当たることがあった。
「あ……そっか……」
傍多は、もう、その兆しがあるし、母親だって、まだ閉経していなかったので、彼方には何のことかわかってしまったのだった。
「すいません、うち、汚物入れとかないから、使い終わったものはそのクラフト紙に入れちゃってください」
「え、なんでわかって……あひゃっ……」
新菜は、よほど驚いたのか、妙な声を上げていた。




