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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第3章 ざわめき、そして沈黙。
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第6話 ポルターガイスト

「……はあっ!はっ!はっ……」

 新菜の呼吸は、乱れたままである。額に脂汗をかいている。


「新菜さん、大丈夫、大丈夫だから……!」

 彼方は、新菜の体を守るために、自分と一緒に布団を被り、必死に呼びかけた。


「新菜さん!」


――と。


 唐突に、部屋の中の物が、ぴたりと静止した。空中に止まっていた小物も、そのまま静止すると、次の瞬間、ぱらぱらと物が落下した。


 部屋の中に沈黙が訪れた。彼方は、おそるおそる体を起こす。


「うわ……」

 彼方は絶句した。部屋の中は、まるで洗濯機に入れられたような大惨事だった。小物は一つ残らず床に落ち、蛍光灯は割れ、大型の家具ですら、何センチかずれている有様だった。


「……ん、うん……あ……え……?」


 そこで、彼方ははっと、覆い被さっていた新菜がうめき声をあげて目を覚ましたことに気がついた。

 と、同時に、バッと、顔を赤らめて新菜の体から離れる。まだ冷えるこの季節、新菜はまだ布団の下に毛布をかけて寝ていたが、それでも女の子に覆い被さっていた状況が、彼方は恥ずかしかった。


「……あ……」

 新菜は、体を起こして、やはり絶句する。室内の惨状を目の当たりにして、しばらくぱくぱくと口を開いたり閉じたりして、寝起きの頭を働かせているようだった。


 そして、じゃり、とベッドの周りに蛍光灯の破片が落ちているのを確認し、それから、彼方が覆い被さって助けてくれたことを理解する。

 理解したと同時に、新菜は未だベッドの上に膝立ちになっている彼方に、ぱっと体を布団から抜き出して、土下座のような形で頭を下げた。


「申し訳ありません!わ、私のせいで……!」

「え……っと……」

 彼方は、もちろんのことだが、土下座されたことは初めての経験だったので、戸惑った。

 無舵なら、「気にするなよお嬢ちゃん」で終わるかもしれないが、彼方には、とてもじゃないがそう言えるほどの度量はない。というか、そういうキャラではない。


「彼方!!」

「兄貴!!」

「えーっと、彼方!!」


 ルガリ、傍多、そしてクロエが霊的エネルギーを感じたのか、寝室のドアを開け、なだれ込むと……また、絶句した。部屋の惨状もそうだが、彼方が新菜に土下座されているのも、混乱の元だったようだ。


「兄貴、これ……」

 傍多が動く。木くずと化した小物の一つを手にして、丹念に調べ始めた。


「傍多、デジカメ持ってきてくれる?これを昼間、無舵さんに報告しないといけないから」

「……わかったわ」


 傍多にそう頼むと、まだ頭を下げたままの新菜に、「大丈夫です、お顔を上げてください」と両肩に手を置いて、なんとかなだめる。


「彼方、大丈夫か?」

 ルガリが、床に落ちた物をものともせずに、彼方に近寄った。そして、ベッドに散らばった蛍光灯の破片を見て、彼方が覆い被さったおかげで新菜が無事だったことを把握する。


「僕は大丈夫。それより、新菜さんが……」

「皆さんにも!本当に申し訳ありませんでした!!私が、私が全部悪いんです!!」

 

 新菜は、今にも泣き出しそうに、大きな目に涙をいっぱいに溜めている。

 

「……新菜さん、今日はもう遅いですし、傍多とクロエの部屋に移動してください。そして、少しでも寝てください。クロエ、傍多が新菜さんに変なことしないように、見張っててね」

「あ、そういうこと。私がいれば、傍多は手出しできないってことね。オッケー」

「ルガリ、僕たちも、少し寝よう。片付けは明日」

「わかった」


 そして、彼方は、新菜に向き直った。

「新菜さん。これはあなたのせいではありません。あなたの無意識下で、こうなっているんです」

「無意識……」

 新菜は、彼方にすがりつくように、涙を溜めた瞳でこちらを見た。


「……ひとまず、今日は寝ましょう。皆も、寝よう。明日もあるんだから」

 そう、彼方が号令をかけると、傍多が戻ってきて、フラッシュを使って室内を撮影した。


 そして、ぐっすりと、とはいかないが、それなりに眠ることができたのだった。


――

 次の日、「無道」にて。

 彼方は、無舵に傍多の撮った写真を提示して、報告を終える。


「ふーん……やっぱりその兆候が現れたか……」

 無舵は、いまいち読めない表情で、彼方の報告を聞き終えた。


「……無舵さん、こうなるって知ってたんじゃないですか?」

「うん、まあ。責任は取って、壊れたものは全部事務所で弁償すっから、心配すんな」

「……そういう心配をしてるんじゃないんですけど。新菜さんのことですよ」


 無舵は、しばらく黙った後、口を開く。

「ポルターガイスト現象だな」

「ポルターガイストって……アメリカとかでよくあった、いわゆる『騒霊』ですよね?大地震のような感じで、部屋をめちゃくちゃにするっていう……あ、確かに、今回の件と似てますね」


 無舵は、そこでデスクに肘をついて、にやりと笑う。

「そう。ポルターガイストだ。そして、それは、新菜ちゃんの能力でもある」

「あ、やっぱりそうなんですか……」


 おかしいとは思ったのだ。あの、新菜から感じた霊的エネルギーの爆発。それが、ポルターガイストを引き起こしていたのだ。

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