第4話 恐怖のバスルーム
急に風呂場に乱入してきたのは、170cmの高身長と、男性のようなきりっとしたマニッシュな面立ち、そして服は全て脱いでおり、全裸の傍多だった。
「あ、あれ……鍵……」
新菜は傍多とドアを交互に見たが、鍵がかかっていようといまいと、今更遅いようにも思われた。
「あら、私としたことが、うっかり全裸になってしまったわ。これじゃあ風邪引いちゃうから、一緒に入るしかないわね。うん、それがいいわ。ということで、新菜さん、一緒にお風呂入りましょう」
そう、いつもの棒読み加減で言って、傍多は固まっている新菜の背中のうしろを通って、ざぶんと湯船に体を浸した。
「あの……本当に、一緒に入るだけ、ですよね?」
薄々傍多の異様な距離の詰め方に不安を抱いていたのか、新菜はきょろきょろと視線を泳がせながら、そう聞いてみる。
「もちろん、もちろん。本当に指一本触らないから。本当の本当に、何もしないから」
傍多はそう言って、ぶしつけな視線を新菜に浴びせた。
「…………」
新菜は、無言でボディソープを手に取ると、そのまま体を洗い始める。
新菜のボディラインは緩く弧を描いており、Gカップの迫力のあるバスト、そこから流れるようなウエストのくびれ具合、そしてこれまた大きめのヒップ、と、傍多は遠慮なしに視線を滑らせていく。
胸を洗う際に、新菜は一旦胸を持ち上げるようにして、胸の下を洗った。手から離れたバストが、ぶるんと震える。傍多は、思わず口笛を吹いた。
「え、な、何ですか?」
「いや、本当に眼福だと思ってね。生で見るとすごいわね。アンダーバストは70くらいかしら?ふうん……だいたいGの70ってところかしら?下着選びに苦労しそうね」
「い、今はネットで取り寄せしているので……。それより、な、何か男性に見られているような感覚で恥ずかしいです……」
「だって私、レズですもの」
「え……?」
「子供の頃から、女の子にしか興味がない、真性レズよ。つまり、はっきり言って、新菜さん、あなたを性的な目で見ているわ。そんなワガママボディを見せられたら、こっちだって濡れてしまうってわけよ」
新菜は、思わず体を縮め、隠せるところは隠しながら、傍多と距離を取った。
しかし、そんな新菜の行動に、傍多は目を細めて笑う。
「新菜さん、あなたのこと、お姉ちゃんって呼ぶか、ママって呼ぶか、どっちが良いかしら?」
「に、二択しかないんですか!?」
「お姉ちゃん、とは年上の恋人がいたけど、ママ、とは本当のお母さんしか言ったことがないわね。じゃあ、ママで良いかしら?」
「よ、よろしくないです……」
傍多が、水音を立てて湯船から上がる。新菜は、ついにぶるぶると震えだした。
「ママ、おっぱいの時間よ。先っぽだけ、先っぽだけで良いから咥えさせてちゅっちゅさせて」
「い、嫌……怖い……助けて、誰かああああ!!」
新菜は、思わず叫んだ。
傍多は、壁際に追い込んだ新菜を、壁に手をついてのぞき込む。まさに、新菜の貞操の危機であった。
……しかし。
「新菜さん!?」
ばたんと、脱衣所のドアが開く音がする。続いて、風呂の引き戸ががらりと開けられた。
湯気の向こうにいたのは、傍多の兄、彼方その人であった。
「傍多!何してるんだお前!!」
そう言って、彼方は傍多をぐいぐいと引っ張り、脱衣所に傍多を押し込めた。
「何って、別に恋愛は自由だわ?可愛い子には手を出さない方が失礼ってものじゃない?」
「イタリア男みたいなこと言うな!っていうか、お前のはナンパじゃなくて、ただの婦女暴行未遂だからな!?」
いつもは「君」と呼ぶ彼方だが、怒りを覚えると「お前」呼びになるらしい。傍多は、残念そうにタオルで体を軽く拭く。
「彼方君……その……助けてくれたのは嬉しいのですが……ドア、閉めてください……」
新菜が、うずくまったまま言う。そこで、彼方ははっと冷静さを取り戻した。取り戻して、しまった。
彼方が振り向くと、そこには裸の新菜が前を隠している。が、隠せない、豊かなお尻が丸見えになっている。
「ああああ、ご、ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」
彼方は、新菜を残して、風呂場のドアをぴしゃりと閉めた。
「傍多あ?いつまでトイレ入ってるの~?……って、なんであんた裸なのよ!?」
そこに、クロエがとてとてと近づいたが、傍多の姿を見て、瞬時に理解したらしい。
そして、傍多の頬を、パアン、と乾いた音でひっぱたいた。
「最低!浮気しようとしたのね!?何人の女に手を出せば済むのよ!?」
「え……何人もいるの?」
彼方が、若干冷静さを取り戻して突っ込む。クロエは、腕を組むと、ものすごい目で傍多をにらんだ。美しい顔が、怒りに満ちる。
「そうよ!学園でももう何人もセフレがいるんだから!!全部私が潰してやるけど!!」
「そ、そうなんだ……クロエ、是非頑張って、こいつを更正させてくれないかな?」
「二人とも、何を言っているの?昔から言うじゃない」
傍多は、きりっと表情を作って、告げた。
「甘いもの(女の子)は別腹!!」
「なわけあるかい!!」
クロエの2発目の平手打ちが、見事に傍多の頬に刻まれたのだった。




