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悪魔兄妹は、契約する相手を間違えたようです  作者: 龍造寺 塞梅
第3章 ざわめき、そして沈黙。
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第3話 案内人と化す彼方

「……と、いうことで、今日から両親の部屋を借りる、佐野新菜さんです」


 夕食時、皆が集まってから、彼方は新菜の紹介をした。

 新菜は、やはり完璧なお辞儀の方法で、「佐野新菜と申します」と頭を下げる。


「佐野さん……?」

「あ、新菜でいいですよ。苗字で呼ばれるとくすぐったくて……」

「じゃあ、新菜さん。バストは何センチ?」

「え……?」


 新菜は、きょとんとしているが、いきなりバストサイズを聞くというセクハラをはたらいた傍多に、彼方はばしんと頭を叩き、クロエはキッと嫉妬を交えた表情でにらみつける。


「あ、えっと……」

「サイズだけでもいいから。ねえ、お姉ちゃんって呼んでも良い?寝る前に膝枕して絵本を読んで貰うことってどうかしら?頭をなでなでしてもらうのも良いわね。あと……」

「落ち着け、傍多」


 さすがに見かねたのか、ルガリが口を出す。若干、ルガリとあまり会話をしたことがない傍多は、残念そうに口を閉じた。

 

「……なんで無舵さん、うちに新菜さんを泊めるように言ったんだろう……」

 真性レズの傍多がこのチャンスを見逃すはずはなかった。彼方は、これから起こるであろう様々な苦労に、頭を抱える。

 しかし、そんな彼方も、まさか自分にラッキーが降りかかるとも思ってもいなかった。


――

「ここが、空いている両親の部屋です。今は使っていないので、ベッドも綺麗ですから、ご心配なく」

 新菜を案内しながら、彼方はドアを閉めながら言う。使っていないのは本当のことで、最近はクロエは傍多の部屋で、そしてルガリは彼方の部屋でそれぞれ就寝しているのだった。


「あ、あの、素敵なお部屋なんですけど……その、何か絶対に壊したらいけないものとかありますか……?」

 新菜は、奇妙な質問をしてきた。だが、彼方はとっさに、できるだけ高価なものに触れたくないのだろうと、好意的な解釈をした。

「ええと、一応、高価なものはそこのノートパソコンとあっちのテレビくらいのものですが……」

「あの、思い入れのある物とか……」

 新菜の言葉に、彼方は壁を指さした。そこには、いくつかの写真が壁掛けのコルクボードに留められている。


「あの写真は、父さんが写っているものなので、家族としては大切かもしれませんね。でも、新菜さんがうっかり壊してしまっても、僕らはそんなに気にしないので、平気ですよ」

「わ、わかりました……。頑張ります」


 新菜は、何故か体の前でグーを作って、ファイティングポーズのようなものを取った。

 彼方には、その「頑張ります」が何を頑張るのかわからなかったが、「そうですか」ととっさに言語としてよくわからないことを言ってしまった。


「何か困ったことやわからないことがあったら、隣の部屋に僕がいるので、聞いてください。あと、先ほど紹介した、うちの妹の傍多にはできるだけ近づかない方が良いと思います」

「え……?あ、はい」

 新菜は戸惑った表情を見せたが、一応うなずいてはくれた。


「あ、あの……」

 と、新菜が切り出す。早速質問かな?と思いつつ、彼方が「はい」と答えた。

「差し出がましいのですが……お、お風呂と洗面所をお借りしたいのですが……」

 そう聞かれて、彼方は慌てて時計を見た。時刻はもうすぐ8時40分を過ぎる頃で、確かに食事を終えて、ゆっくり湯船に浸かりたい時間になっていた。


「あ、そうですよね!すぐに湯船の準備をしますので、新菜さんは荷物整理をしていてください」

「は、はい。ごめんなさい、せかすようなことをして……」

 新菜はそう言うが、彼方は、「本当に育ちの良いお嬢さんなんだな」と感心していた。今時の女子高生が、何かお願いをする際に「差し出がましいようですが」などと言うのだろうか。

 

 また、新菜は女子高生らしく、自分の身なりを整えることにも興味を持っているようだった。

 清楚な外見は、新菜がそれなりに努力をして生まれているようなものだった。お風呂に入りたがったり、歯磨きをしたかったり、スキンケアをしたがったりするのも、普通の女性のそれで、彼方は「やっぱり新菜さんは女子高生なんだなあ」としみじみと思いながら、部屋を出て、風呂場にお湯を張りに向かったのだった。


――


「ふう……」

 41度。熱すぎもぬるすぎもしない、絶妙な温度の湯に体を浸して、新菜は至福の吐息を吐き出した。

 一応、学校には一週間の休みを取ったが、これから、自身の「体質」による災難が、いつやってくるかわからない。それに対する不安は常にあったが、とりあえずこうして湯船に浸かっている時だけは、新菜は「普通の女子高生」になれるのだった。


「……木崎さんが良い人たちで良かったわ」

 なんとなく、そう呟いてしまう。実際に良い人かどうかはこれから一緒に暮らしてみないとわからないのだが、新菜はなんとか不安を取り除こうと、自分にそう言い聞かせる。


 体を洗おうと、湯船から上がったところで、新菜は自分に対する視線を感じた。

 慌てて横を見ると、脱衣所の扉が少しだけ開いている。と、その扉が、今度は大きくがらっと開けられた。


「新菜さん……いえ、新菜お姉ちゃん。一緒にお風呂入ってもいいかしらあ~??」

 新菜は、恐怖に「ヒッ……」と声を凍らせた。

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