第2話 シュトラ、来襲
「やっほ~!ルガリ兄妹も久しぶり~!ケーキ買ってきたから食べようよ!!」
そう言って、呆気にとられる傍多を尻目に、シュトラはずかずかと勝手に部屋の中に入る。その後を、鎖と首輪で繋がれたサラリーマン風の男が「すみません、失礼します」とシュトラに引っ張られるように室内に入る。
「あ、お兄さん、お茶は紅茶でいいよ!もうぜんっぜんお構いなく~。あ、でも、ケーキが甘いから、何かしょっぱいものほしいな~。あ!これコタツでしょ?知ってる!お邪魔しま~す、うわ、あったか~い」
そう、口早に言うと、シュトラはコタツに勝手に入って温まっている。ちなみに、この間、誰も一言も言葉を発していない。会話は言葉のキャッチボールというが、この悪魔は言葉のドッジボールしかできない感覚であった。
「……あなたは相変わらずね、シュトラ」
と、クロエが、つんとした口調で言葉を発した。しかし、シュトラは、
「だって、最後に会った時からそんなに経ってないじゃん。変わってなくて当たり前だよ~!で、紅茶まだー?」
と、ダイニングを振り返って傍多に言う。
「…………」
傍多は、正直イラッときているのが、彼方にはわかった。なので、彼方が動くことにする。
「あ、紅茶ね。今、茶葉切れてて。ティーバッグで良いかな?」
「えー?茶葉から淹れたのが良かったなあ~。でも、ここで『良いよ』って譲歩するのが大人ってやつだよね!」
正直、こんなに傍若無人で、大人も何もないと思うが。
シュトラは、ケーキ箱を開けて、中から可愛らしく飾られたケーキを6つ、取り出す。一応、人数分は買っているようだった。
「……お前、ケーキ食べたらすぐ帰れ」
ルガリが、呆れてため息をつく。しかし、シュトラは全く悪びれない。
「えー?なにその態度。ルガリ兄妹はこういうの嫌かなーって思ってたから、ちゃーんと前にアポ取ったのにさあ」
「到着5分前に取るアポはアポとは言わない」
「ちぇー」
彼方は、「口でちぇーって言う人初めて見た……」と正直思ったが、何も言わず、ティーカップに湯を注ぎ入れた。
「……そもそも、お前、魔界から出る許可は得てるのか?」
ルガリがそう聞くと、シュトラは早速自分のケーキに付属のスプーンを入れながら、話し出す。
「許可って、僕には要らなくない?ってゆーか、あんな扉風情で僕の行く手を阻もうって時点でおかしいよねっ!でも、おかげで魔力使い果たしちゃって、早速人間に魔力供給してもらおうって思って、出会い系で相手探した!」
「……は?ゲートを破ったとか、嘘でしょ?できるできないはともかく、そんなことしたらあんた、魔界から追われることになるのよ?」
クロエが、眉をひそめる。が、シュトラはカラカラと笑う。
「へーきへーき!で、その出会い系で捕まえたのが、この人!名前は……うーんと、ヒロくんだったよね?」
「……尾花浩樹と申します」
ずっと黙っていた、首輪の男がそう、今更名乗った。
「ヒロくんはねー、こう見えて、エッチがものすごいんだよー!?僕の好み!他にも、好みの人間を探したんだけど、ムキムキの割りにエッチが雑だったり、乱暴にされたいのに僕に甘えようとしたりって、ウザくてさ。ヒロくんってば、激しく責め立ててくれるから、大好きなんだ-!」
シュトラは、ぽっと顔を赤らめて、両手で顔を挟んで、照れているようだった。
「……お前は、これでいてドMだったからな」
ルガリが、一応口を出す。
「……え?じゃあなんで、首輪に鎖を?」
と、彼方が紅茶を運びながら聞いてみた。
「そんなの、全てはプレイのために決まってるじゃーん!こうして普段、僕がヒロくんを虐げることで、夜に対する下克上エッチがさらに激しさを増すってものだよ!!うふ、今夜も楽しみだな-」
シュトラは、完全にピンク色の世界に浸っていた。木崎家は、もう正直早く帰って欲しいという思いで一致していた。
「で、そっちはどうなの?兄妹一つ屋根の下でしっぽりぬっぽり淫らに耽ってるんでしょー?」
と、シュトラが言うと、すかさず傍多が口火を切った。
「おあいにく様。私とクロエは毎日甘々ラブラブエッチをしているから、全然あなたのことがわからないわ」
「え……君、女だったの?……んーまあ、でも和姦ってスリルがないっていうか、マンネリ化しそうだよねー?」
「ご心配なく。そこに愛さえあれば、マンネリ化なんて意味のない話だわ。ほら、男だって、何十回も使うお気に入りのエッチシーンがあるでしょ?ねえ彼方」
「いや、僕を投入しないでくれるかな……」
そのうち、シュトラと傍多がにらみ合う形になる。
「そう言っても?そう言っても、所詮和姦は高度なテクニックや激しさがないし?こう、支配される背徳感っていうのはやっぱりエッチには欠かせないと思うんだよねえ?」
「あら。全くわかってないのね。和姦は強姦プレイはできるけど、SMプレイは和姦プレイでは物足りなくなるのよ。可哀想ね、和姦の魅力がわからないなんて」
「……どっちもどっちだと思うけどね」
彼方は、そう呟いて、むむむ、とにらみ合うシュトラと傍多を横目で見ていた。




