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第1話 強烈な来訪者

「恋を教えてあげる」と彼方が表明してから、数日が経った。

 街は、一足早いクリスマスモードである。この国では、クリスマスの一ヶ月も前から、既にクリスマスの準備は始まっている。木々はライトアップされ、電飾を付ける作業をしている人たちもちらほらと見える。


「クリスマスね……。今年は、君たちがいるから、クリスマスを祝うっていうのもなんだかな……」

 彼方かなたが、リビングで外を見ながら、室内に話しかける。そこには、雪のように白い銀髪のローティーンの美少女、藍色の髪をショートカットにした、凜とした美人、それから、栗色の髪と、室内でも取らないサングラスの180cmを超える男がいる。

 すっかり家族然としているが、実際は銀髪の美少女・クロエと栗色の髪の男・ルガリはれっきとした悪魔の兄妹である。


 この兄妹は、魔界のコロシアムでの景品として彼方と傍多はたた兄妹を急襲したが、背も低く、女性のようなくりっとした大きな瞳と幼い顔を持つ彼方を妹だと勘違いしてルガリが、そして中性的な顔の傍多を兄だと勘違いしてクロエが、それぞれ契約を結んでしまったのだった。


 しかも、色々あって、まだ恋を知らないルガリに、彼方は「僕が恋を教えてあげる」と宣言したのだった。とはいえ、彼方から何かを仕掛けることもなく、数日間が経っているのであった。


「?別に、クリスマスって、楽しければ良いわよ?てゆーか、神とか信じてないし」

 クロエが、悪魔らしいと言えばらしいのだが、神を信じない悪魔というのも人を堕落させるという使命とは正反対な気がすることを言う。

「まあ、クリスマスっていっても、特別何というわけでもないわね。あ、兄貴、当日はケータリングで何か見繕ってくるから、ご飯作らなくても良いわよ」

「わかった」


 彼方は、カーテンを閉めて、テレビを観ている皆の足下……コタツに入って、温もりを感じ取る。

「ふあー……もう寒くなったよねえ……」

「そうね。つい昨日まで8月だった気がするわ。私なんて、暑くていっそのこと部屋で全裸になったら涼しいんじゃないかって思って、全裸で生活してたものね」

「……昨日まで、そこまで暑かった記憶はないんだけどな……」

 相変わらず、傍多の言うことはぶっ飛んでいて、いまいちわからない。


 そこで、電話が鳴った。

 木崎家では、それぞれのスマホとは別に、固定電話を引いている。連絡ならスマホで事足りてしまうのだが、故人の父親が引いた電話なので、なんとなく解約する気にもならず、そのままにしてあるのだ。それに、時々母親からかかってくる用件もあるのだった。


「はい、木崎です」

 傍多が、電話に出る。しかし、すぐに眉を寄せた。

「……お待ちください。確認を取ります」

 そう、電話の相手に告げてから、「ねえ」とクロエに向かって訊ねる。

「シュトラっていう人、知らないかしら?その人から電話なんだけど……」

「シュトラ?聞いたことあるよーな……」


 クロエが「うーん」と悩んでいるうちに、ルガリが傍多から電話を受け取った。

「ルガリだ。何の用だ?シュトラ」

 そう、電話先の相手に返すところを見ると、どうやらルガリの知り合いらしい。


「うーん?シュトラ、シュトラねえ……。あ!思い出した!あの嫌なヤツ!!」

 クロエがそう叫んだ次の瞬間、ルガリも眉を寄せる。

「うちに来る……?何のためにだ……?こら、シュトラ、シュトラ!」


 そのまま、向こうの通話が切れたらしい。ルガリが、ゆっくりと受話器を戻す。

「何?お兄ちゃん。あの嫌味なやつが来るの?」

「ああ……全く、あいつにも嫌な思い出しかないんだが……」

「ええー!?何でお兄ちゃん、オッケーしちゃうのよ!断ってよ!!」

「仕方ないだろう。用事を言いつけたらすぐに回線を切っていた」


 悪魔兄妹が、ぎゃーぎゃーと口論寸前になる。そこで、傍多が、

「何?そんなに嫌なヤツなの?」

 と割って入った。


「嫌なヤツっていうかー、超ワガママって感じ?ああいう奴って、絶対世界が自分を中心に回ってるって思ってるわよね」

 クロエは、ふん!と鼻を鳴らして、腕を前で組む。……クロエ自身、そういう傾向はあるのだが、自分はオッケーでも他人にやられると気に障るということもあるらしい。


「君たち悪魔も同じようなものだと思うけど……」

 と、彼方がぼそりと呟く。ルガリはルガリで、強引だし、クロエは女王様気質である。悪魔というのはそういうものなんじゃないかと、彼方は思っていた。


 やがて、チャイムの音が鳴り響いた。一応、性格の良くない者が来るということで、木崎家がぴりっとする。


「……今から居留守使うとかどうかしら」

「でも、明かり付いてるの見えてるわよ。そういう場合ってどうなのかしら?」


 クロエと傍多がごにょごにょ相談する。しかし、すぐにドン!とドアを蹴る音が聞こえた。


「なにあれ?ヤクザのやり口じゃないの……」

 傍多が仕方なさそうに玄関の鍵を外し、チェーンを外して応対する。


「はいはい、お待ちしておりました」

 そう言った傍多の目に飛び込んできたのは……

「こんちゃー!近くまで来たから、ついでに来ちゃった~」

 そう言う、ピンクの髪を三つ編みにしていて、耳にはピアスがいくつも。さらにはどぎついメイクを施した、美少年がいた。


 しかし、その手には、鎖を持っていて……

 その鎖の先には、サラリーマンが一人、首輪を付けていたのだった。

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