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(7)ボールを巡って起きた事 PART3

 その頃にはみんなも周りに集まってきていた。担任の先生もその輪の中にいた。カズマくんが再び顔を赤くして怒鳴り始めた。


「ボールがないと遊べないよ。ユウスケの硬式ボールでは僕たちの野球は出来ないけど、木に引っかかった軟式テニスボールなら落とせるかもしれない。うまくいかずユウスケのボールが落ちて来ないかも知れないかもしれないけど、それよりも軟式テニスボールを取り戻す方がみんなにとって大事なんじゃないか。ミアキちゃんこそ打たれた責任あるじゃないか。しかもユウスケだけえこひいきしていてひどいよ」

「そんなことない。間違えているのはカズマくんだよ!」


 そこに担任が割り込んできておかしな事を言い出した。


「春田くんがボールを貸してくれたら済む。古城さんや相田くんが喧嘩する事もないんだ」


 調子づいて「渡せ」と騒ぐカズマくん。


 秋ちゃんは表情が変わった。

「ユウスケ、ボールを私に貸してくれない?」


 この時、彼女がどう考えていたのか分からなかった。でも僕は秋ちゃんを信頼していた(今も昔もこれは変わらないな)。僕はデイパックのファスナーを開くと硬式ボールを取りだして秋ちゃんの手に渡した。


 秋ちゃんはカズマくんと担任の方を見ながら言った。

「これは私が借りました。私はこのボールを貸しません。木にひっかかったボールを落とすためになんか使うのは間違いです」

そう言うと彼女はボールを両手で握りしめてしゃがみ込んでしまった。


 そこからは大狂乱だった。先生が彼女からボールを奪おうとしたのだ。僕は先生を止めようとした。結果、大の大人一人と子ども二人の取っ組み合いになった。流石のカズマくんもこれには加勢しなかった。


 人が集まっているのを見て様子を見に来ていた広乃ちゃんが叫んだ。

「先生、何をしてるんですか。秋ちゃんの言う事は間違ってない。何故先生がそんな事してまで取り上げようとするんですか。先生はおかしいです!」


 その直後、他の学級の担任や学年主任の先生が飛んできて、僕たちは引き剥がされた。広乃ちゃんは泣いちゃうし、秋ちゃんは何を聞かれてもしばらく何も答えなかった。僕もそうだった。


 担任の先生は以前から秋ちゃんと広乃ちゃんの対立でうまくクラス運営が出来ないと学年主任の先生に話をしていたらしい。そこで起きたのが公園での硬式ボール事件だった。担任の先生は秋ちゃんに対して仕返しするチャンスだと思った。別に彼女が何かした訳じゃない。ただ彼女ともう一方の広乃ちゃんの対立が疎ましくその一方を排除する口実を見つけて攻撃しようとした。そういう事だったみたい。

 先生はクラス運営に疲れていたのだと思う。結局、この先生は休職して翌年4月に別の学校に異動となった。残りの期間は学年主任の先生が担任を兼務してクラスは形の上での平穏を取り戻した。


 遠足が終わった後、僕が学校でハブられた。こいつが折れなかったから先生がおかしくなった。悪いのはユウスケだ。そういう無言の判決が出た。そして秋ちゃんは悪ガキグループを辞めた。僕を味方した事が許せなかったカズマくんが秋ちゃんが攻撃した。秋ちゃんはじゃあ好きにしたらいいからってみんなと遊ぶのを止めてしまった。


 そして広乃ちゃんにも矛先が向いた。

 広乃ちゃんはあの日止めようとしてくれただけでなく、学校が終わった後でクラスで話し合おうと呼びかけまでしてくれた。広乃ちゃんもまた正義の人だった。正面から受けて立とうとした。


 でもみんなは面倒くさいと思ったらしい。結局、放課後に教室に残ったのは僕と秋ちゃんと広乃ちゃんの三人だけだった。


「私も仲間外れにされたのかな」って広乃ちゃんが言った。

「ごめんね。二人とも。僕の騒動に巻き込んじゃった」

「何を言ってんの。ユウスケ。悪いのは先生とカズマくんだから。君じゃないよ。みんなもおかしい」

「そう。秋ちゃんの言うとおり。みんながおかしいんだよ。この件は私も秋ちゃんも何も間違った事はしてない。ユウスケがボールを貸したくないって言ったのも正しいんだから。胸を張っていこうよ」


 こうして僕たち三人はこの日から親友になった。




「ユウスケくん。そろそろ意識を戻してくれないかな。貸出希望の子が来てるから」

 アガクミ先輩に言われた。言われてみると目の前に1年生男子が立っていた。いかん、いかん。

「あ、すいません。これ、貸出ですね。学生証をタッチしてくれますか」

そして本をバーコードリーダーでピッと読み取らせた。


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