(6)ボールを巡って起きた事 PART2
秋ちゃんたちが野球を始めた。バッドとかある訳じゃないから軟式テニスボールで素手で打って素手で取るというような奴をやっていた。一方のチームのピッチャーで4番はミアキちゃんだった。運動神経は昔から良かったな。
広乃ちゃんはというと女子陣を集めて紅茶パーティーをやっていた。こういうブームを作るのは広乃ちゃんの真骨頂。女子陣で示し合わせてサンドイッチとか持ってきていたのだ。英国のアフターヌーンティーという訳だ。
僕はというとボールの一件があってモヤモヤしたものがあったので一人離れて見ていた。秋ちゃんは理由は察してくれたらしいのでそっとしておいてくれた。
野球は白熱していた。小学3年生のお遊びだけど、みんな一生懸命打って走って取って投げた。長打は少なかったけど内野を抜けるとランナー一掃になったりしたのでシーソーゲームになっていた。
そんな野球の終盤戦。秋ちゃんが投げたボールを誰かが打った。あれ、カズマくんだったかな。もう忘れちゃったな。
そのボールは高々と上がって芝生広場の端の松林の木の1本の上の方に吸い込まれていった。フライを捕ろうとした子から「あっ」という声が聞こえてきた。ボールが落ちてこなかったのだ。広乃ちゃんたち女子からも「ボール、ひっかかったの?」というような声が上がっていた。
野球をやっていた子たちは松林の端の木の下に集まった。「どうしよう?」そんな声が聞こえてきた。そして事件の引き金が引かれた。
何かガヤガヤと野球していた子たちが言っていたかと思うとカズマくんが僕の方を見て指さした。そして彼がこちらに走ってきた。後を心配そうな表情の秋ちゃんが追って来た。
カズマくんは僕の所へ来るといきなり言った。
「ユウスケ、硬式ボールを貸してくれたら野球に入れてやるよ」
僕は野球に参加しなかったのはカズマくんの態度が嫌だったからだ。だから、
「カズマくん。君にそんな事を言われる覚えはない。野球やってないのは僕の意思だから関係ない事だよ」
彼は顔が真っ赤になった。
「そんなのどうでもいい。お前の硬式ボールを貸せよ。いるんだから差し出せ」
そして僕のデイパックを奪い取ろうとした所で秋ちゃんが割り込んできた。
「カズマくん。止めなよ」
流石のカズマくんもデイパックを奪おうとしたのは止めた。呆然としていた。硬式ボールを使う事について秋ちゃんが反対するとは思ってなかったのだと思う。
そして秋ちゃんが言った。
「ねえ。カズマくん。人の記念品を使うのってよくないと思うよ。もし落ちて来なかったらどうするの?」