(5)ボールを巡って起きた事 PART1
秋ちゃんと広乃ちゃんと僕は小学3年生の時、再び一緒のクラスになった。そもそも学級数が30人学級で3クラスしかないので同じクラスにはなりやすい。
ミアキちゃんはあの頃みんなを率いて遊び回ってた。男の子の半数ぐらいは彼女の手下だった。
そして広乃ちゃんは女の子をまとめていて、かわいらしさ道追求の旗手だった。そんな訳でガキ大将系のミアキちゃんとぶつからない訳がなくクラスは緊張に満ちていた。
大きな騒ぎがあった訳じゃない。ただ担任の先生はやりにくかっただろうと思う。なにせ学級会ではああ言えばこう言う的な意見の衝突が始終起きていた。
男子で多数派を占めるガキ大将ミアキ派とかわいらしさ道広乃派の勢力が均衡していて先生が一方についた際にきちんと理を通さなきゃもう一方がそれを批判してくるんだから。そしてこれは底流にある原因になった。
正しくある事と集団利益が一致するとは限らない。秋ちゃんは毅然と正しくあろうとした。そして広乃ちゃんと僕だけがその事を支持した。
そう、みんなは集団利益を取ろうとした。誰かが泣けばみんなは穏やかに過ごせるならそうすべきだと意思を示した。そういう事だ。
正しさよりも穏やかに過ごせる事を選んだみんなが悪かったとは思わない。それぞれが答えを出したというだけの事。それでもだ。正しくあろうとした人が否定されてはならないと思う。
きっかけは僕が秋の遠足で持っていったボールだった。野球の硬式ボール。夏にお父さんと甲子園に高校野球を見に行った時にたまたまホームランボールを取る事が出来た。そういう記念の球を持っているという話を遠足前にしていて秋ちゃんが見たいって言い出したから持って来ていたのだった。
遠足は天候が悪かったからか予定が変更になって数キロ先にある大きな公園に行く事になった。弁当を食べて遊んで学校へ帰って解散。そんな予定だった。公園は木々が多くその中に芝生の開けた場所がいくつか点在していた。
昼食は木陰で秋ちゃんたちと一緒に食べた。
「そうだ。ユウスケ、ボール持ってきた?」って秋ちゃんに聞かれたのでデイパックから取りだして見せた。
「うわあ。当ったら痛そう。こんな球で高校野球ってやってるんだ」
そこにカズマくんが割り込んできた。
「秋ちゃん。俺にも見せてよ」
秋ちゃんが僕の方を見たので、いいよって頷いた。
ボールを手にしたカズマくんはじっとそれを見ていたかと思うといきなり投げようとした。
「ちょっと、カズマ。何してんのよ」
ミアキちゃんがさっと彼からボールを取り上げると僕の方へ返してきた。
「イタズラが過ぎるのはダメだよ」
そう秋ちゃんはカズマくんに怒って言った。
「冗談だよ。秋ちゃん、ノリが悪いなあ」
そういってカズマくんはごまかして離れていった。