(4)図書委員会と先輩
放課後。1階の図書室へ向かったら閉まっていた。音田先生が不在らしい。2階に上がって渡り廊下で南校舎2階の職員室に鍵を取りに行って戻ると準備室の前には2年生の安形久美子先輩が立っていた。
「鍵、取ってきてくれた?」
って事は僕が鍵を取りに行くのを何処かで見て待つ事にしたんですね。
さすがは合理主義のアガクミ先輩。アガサ・クリスティ好きから来たニックネームだ。実は裏のニックネームがあって3年生の人が使っているのは知っている。ただ本人の前で後輩たる僕が言う事はない。そんな気になれない。
持田さんが個人活動で代わってもらうのを頼める相手なんて同じ2年生のアガクミさんか1年生の僕たちしかいないから当然の必然か。
「持田さんの代わりですか?」
「そうだよ。彼は追っかけやっているアイドルのインストアイベントに行きたいからって頼んで来た。私が引き受けたおかげで彼は放課後になるとすぐ飛び出していった」
僕は図書室の鍵を開けた。先輩と中に入るとカウンターに書き置きがあった。音田先生だった。
「職員会議で不在です。新着図書はありません。悪いけど今日はよろしく。音田」
特に仕事の指示は書いてなかったので、カウンターに座って本の貸出返却対応、検索・閲覧端末席の管理をやっていればいいだけだった。
ぼちぼち勉強などでやってくる生徒達を横目に僕とアガクミ先輩でカウンターに座った。今日は自習利用が多いようで貸出対応はあまりなかった。
貸し借り関係の人は少なく退屈だった。ユウスケはアガクミ先輩に話しかけた。
「退屈ですねえ」
「平和ともいうよ」
「そりゃ、そうですが」
「そうそう。私は毒殺探偵と呼ばれているのはあまりうれしくない。せめてミス・アガサとかクリスティネタにするとか配慮が欲しんだけどな」
ミス・アガサって。元ネタはアガサ・クリスティとは知ってますけど、そこまで言われたいんですか?
「えーと。なんとか探偵はボクたちじゃないですよ。アガクミ先輩」
影で言うようなのはニックネームに値しない。それが広乃ちゃんや秋ちゃんと僕の思いだ。
「3年生の先輩達が言い出したんでしょ。君たちが私に向かって陰口であってもいうとは思わないし」
アガクミ先輩が新たな御下問をくれた。
「そういえば君はあの二人とは幼馴染みだっていうのは本当?」
「ミアキちゃんと広乃ちゃんとは小学校1年生で同じクラスだったのが始まりですね」
「じゃあ、10年ぐらい?」
「ってなりますね」
「ふーん。で、あの二人のどちらが好きなの?」
「いや、親友ですよ。大事な親友だし、好きな友達だけど異性としての好きとかいう話じゃんないです。今、そう見られたり言われたりするのは心外ですね」
アガクミ先輩は意外そうな顔をした。
「二人とも良い子達だし、てっきり三角関係でモテモテでどちらも選べない優柔不断な子かと思っていた」
このあたりの謎をもっと解き明かしたいんだけどと顔に描いてあるなあ。アガクミ先輩にも困ったもの。
「それって大変な誤解ですよ。どこにそんな恋愛小説みたいな事が現実にあるって言うのですか?」
「私にはそういう友達がいなかったから分からないけど羨ましい」
アガクミ先輩、三角関係を言っているのか親友関係を言っているのか謎だなと思っていたら、ふと小学3年生の秋の出来事を思い出した。そう、親友という腐れ縁の関係、三銃士みたいな友情を共有する関係になったのはあの時だったな。