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風来歯科医の航海日記  作者: 時田柚樹
21/37

6月1日

六月一日 曇りのち雨

「おはようございます」

「おはよう」

「今日は天気が崩れるそうです」

 ライラが今日も紅茶を入れてくれる。

「そうみたいだね。歩いていて、そういう空気を感じたよ。でも、今日は船長のティーパーティーに行くんだ」

「まぁ、そうですか」

 感嘆の声なのか、つまらないという声なのか、わからないが、彼女はあっさりしていた。

「あのね、ライラ」

「はい」

 真っ直ぐ見つめないでくれ。

「じつは……姜斐玲さんのことなんだけどね」

「あの女が何か?」

「うう……。彼女が、かまわないでくれって……その、言ってるんだけど」

「千早さま」

「はい」

 ライラは大きなため息をつく。

「何を言われたのか知りませんが、想像は出来ます。『あなた方の邪魔はしないから、私の邪魔もしないでね』のようなことでしょう。直接私に言ってくればいいのに」

 キッと顔を上げて、きっぱり言った

「わかりました。彼女は、いないものだと認識します」

そして、「ティーパーティー、楽しんで来てください」という言葉だけ残して去って行った。

「相性が悪いのかな……」


忘れかけていた。今日は、船長主催のお茶会に呼ばれたのだった。

 クルージング中、何回か開催されてるとか。前日、部屋に招待状が届いてた。これが来ないと、その日の参加資格がないらしい。

 これも、体験すべきだろうと、肩に背負う猫を総動員で船長室へ。なにしろ初対面の人々ばかりだろうから。

「ようこそお越しくださいました」

「お招きありがとうございます」

 船長がドアを開けて迎え入れてくれた。ふんわりと、だが、鼻にくる香りが漂う。これが、スティーブの言っていた香りか。部屋の中から匂う。

中へ通されると、すでに三~四人の客人がL字のコーナーソファーに並んでいた。私は丁寧に挨拶をし、握手を交わした。


「今日、船長主催のお茶会に出席したんです」

「あら、うらやましい」

 キャシーが驚くように言った。

「私としては、物珍しさで行ったんです。思ったより、肩が凝りました」

「まぁ」

 キャシーは可愛く笑う。

「でも、そうかもしれないわ。何を話せばいいのか、緊張しちゃう」

「なんでもいいのよ。『こんなことがあった』『あんなことがあった』って。そうでしょ?」

 レベッカに頷く。

「ええ。そのとおりです」

 確かに、実りのある会話をした記憶がない。気ばかりを使っていたから。

「あ、船長の匂い、嗅いできました。部屋に入った瞬間に匂いがしたので、お香とかアロマのようなものだと思います」

 アルバートに報告をした。

「お香か。ジャパニーズ・アロマだね。話には聞いたことがあるが、実物は見たことないな。興味深い」

「今度、御宅へお送りしますよ。どんな匂いがいいですか?」

 アルバートの目が光った。

「そうかい? スタンダードなやつと、それから……サクラもありそうだね。船長のと同じ、スイート・バイオレットらしきものも」

「バイオレットですか。ああ、なるほど」

 日本で信号待ちをしている時によく嗅ぐあの匂いか。正確には、三色スミレって言うんだっけ。スイートと名がついても、それ系の香りに間違いはないだろう。

「香水でバイオレットは最近少ないんだよ。柑橘系やハーブ系が主流だから。我がイングランドでは、バラは外せないけどね」

 それにしても、またスミレか。やっぱり明日誘おう。

 それにしても、雨の日はつまらない。やや、ふて寝。


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