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風来歯科医の航海日記  作者: 時田柚樹
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5月27日

五月二十七日 晴れ

 モルジブ――マーレ寄港。

 スワン会長の遺体は、クルーズ終了のスペインまで、安置室で眠ったままとなった。おかしな話だが、息子が内密どころか、予定通りの日程を望んだという。それにOKを出す会社もおかしい気がする。

 モルジブでは日本直通便が飛んでないし、大きな、いわゆる都市で運び出した方がいいのかもしれない。

 モルジブには、上陸しなかった。

ま、主なレジャーがマリンスポーツということだから、遠慮したわけだ。水中で移動することが泳ぐということなら、泳げないわけじゃない。ただいろんなものに迷惑をかけたくないだけだ。

仕方ないじゃないか。私の意思と関係なく、酸素がどこからともなく集まってくるのだから。それゆえ、雨やシャワーなどの勢いよく降り注ぐ水が、心地いいのだ。

ま、船上から風景は楽しんだし。柔らかく包み込むような風も心地よかった。

船室で初めてゆったり過ごした。テラスで飲むアイスティーは極上。何かにせかされるわけでもなく、考えることも、一端忘れて。


そして、代わり映えのしないテーブルで夕食をとる。それぞれの顔を見ると、ちょっとホッとするようになっている。ベイカー夫妻も今日はギクシャクしてないし。

今日も一日が無事に終わるんだなという気がする。気になる東洋美人は、いる時といない時がある。この前残った答えを教えて欲しいのに。


 島で成り立っているモルジブならではなのか。灯りが少なく、早々に星が瞬きだした。

「こんばんは」

 声をかけてすぐに、ため息をつかれた。

「モルジブは楽しまれましたか? 青い空も澄んだ海も、日本では考えられないくらいの眩しさでしたね」

「なにも楽しんでないわ。一人でいたいの」

 きっぱり、これ以上は無いくらいのきっぱりさで断られた。

 軽く会釈してその場を離れた。もちろん、明日も来る。これはもう、意地かもしれない。風も、そよっと吹いた。少しだけ「よし!」と思った。


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