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プレイヤーが思っているより運営さんは忙しい  作者: 跡野 祭
1章.運営さんの華麗なる日常
8/11

アナザーワールド・オンライン.8

     ◆


 【アナザーワールド・オンライン】の公式サイトでイベントが告知されてから数日。


 社会現象となっているアナザーワールド・オンラインの連日の賑わいはネットニュースにも大々的に載っていた。ファニ通さんも当分は記事に困らないことだろう。

 そして本日はミコ生の特番が放送されるということで、小鳥遊穂香が通う学校もいつも以上に喧噪に包まれていた。


 穂香が【アナザーワールド・オンライン】を始めて数週間。ゲーム内で様々な出来事があったが、充実した毎日を送っていた。

 先日慎也に言った通り、アナザーワールド・オンラインの世界は穂香にとってとても大切な場所になっていた。

 それは恐らく穂香以外にも言えることで、連日クラス内の欠席者が増えていることも関係あるだろう。関係無いわけがない。


 ――アナザーワールド・オンライン……罪深き事この上なし。


 そして、それは穂香の友達も同じで、


「穂香―!」

「舞依ちゃん。どうしたの?」

「今日だよ! ミコ生の特番! もう学校中がその話題で持ち切りだよ!」

「楽しんでるのはいいけど、学生の本文は勉強だからね? 赤点取っちゃうと補習だよ? 舞依ちゃん大丈夫? たしか前回のテストも危なかったよね? 進級できる?」

「大丈夫大丈夫。何とかなるから!」

「それ大丈夫じゃないやつだよね。舞依ちゃん私の事先輩って呼ばないといけなくなるよ? いいの?」


 友人の将来を心配する穂香。しかし、楽しみなのは自分も同じだった。

 そんな穂香の脳裏に過るのは自らの前で高笑いをしていたあの男性。


 神崎慎也。アナザーワールド・オンラインの顔ともいえる人物。


 彼は今日、どんな放送をするのだろうか。そんな事を考えているのだった。


     ◇


 イベントに向けての缶詰生活も一周回って楽しく感じ始めていたこの頃。慎也と優香の二人はミコ生の放送に出席するために運営室という名の伏魔殿から一転、本日は池袋のミコ生本社へと訪れていた。

 途中、スタッフ達が行かせないとばかりに足にしがみついてきたが、そこは容赦ない慎也。一切の躊躇無く仕事の書類で頬を引っ叩いていた。部下達に慈悲がない鬼畜上司である。

 そうした経緯があり、会議室にたどり着いた二人をミコ生の社員たちが出迎える。


「本日はよろしくお願いします」

「――では、今日は史上初のVRMMORPGの特集ということで」


 打ち合わせを始める関係者一同。

 慎也達二人も以前に番組に出演したことがあるのだが、その時はまだ発売前ということで公開できない情報が多々あった。所謂、前回は期待を膨らませるための放送。しかし、今回は違う。

 運営さん達はその点もよく考えて打ち合わせをしないといけない。運営の仕事は何もゲームの製作だけではないのだ。


「――という感じでどうですか?」

「そうですね。今回は【アナザーワールド・オンライン】の紹介に、近日開催されるイベントの詳細。新機能とギミックの追加など。その他にも色々と紹介したいことはありますが……」

「言い出したらキリがないからな」

「なので、その辺りも考慮して話を進めていきましょうか」

「先輩もっとやる気を出してください!」


 そうして慎也達がスタジオに移動すると、すでに敏腕カメラマン達がその場で待機していた。

 いつものゾンビ達が徘徊する魔の巣窟と違い、しっかり者のスタッフ達が取り仕切る仕事現場に苦笑いをこぼす慎也達。

 エナジードリンクも転がっていない、スタッフの屍も倒れていない。キチガイエンジニアが発狂する心配もない。自分達の仕事場とは雲泥の差、そう思わずにはいられなかった。


「うわぁ。凄いですよ先輩。オシャレなスタッフ達がいっぱいです。私達の職場とは大違いですね」

「おいおい、俺達と比べるのがそもそも間違いだろ。ミコ生の皆さんに失礼だぞ」

「さすがに社員の皆さんのことを悪く言いすぎじゃないですか!?」


 慎也達が席に着くと【アナザーワールド・オンライン】の攻略サイトを運営している『GameWas』の有名配信者や、進行役である女性声優が席に着いた。


「お久しぶりです神崎さん。今日はよろしくお願いしますね」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします、篠宮さん」


 小綺麗な顔立ちに豊かな胸。カジュアルな装いに身を包んだ声優タレント――篠宮芹奈しのみやせりながクスりと微笑んだ。


「ふふ、緊張しているんですか?」

「いや、こういった事には全然慣れていないんだ」

「神崎さんでも緊張するんですね」


 芹奈は生粋のゲーマーとして有名な売れっ子声優だ。慎也は以前のミコ生放送で彼女と共演したことがあった。


 編集部と製作班の手によって様々な脚色がされた結果、美化されすぎた慎也の製作美談。もちろんそれを読んでいる芹奈にとって、慎也はとても気になる存在なわけで。


「大丈夫ですよ? 今日は私に任せてください」


 慎也の耳元で呟く芹奈。仄かに甘い香りがその場に広がる。慎也が隣に顔を向けると、小悪魔な表情をした芹奈の顔がそこにあった。男性の庇護欲をそそる表情に慎也は思わず顔をそらした。


「……よろしく頼む」

「はい! 任されました」

「……先輩、鼻の下が伸びていますよ」

「伸びてねーよ」


 そうしてスタジオの画面に【アナザーワールド・オンライン】のPVが流れ始め、ミコミコ生放送が始まった。視聴者数は一気に上昇していき、コメント郡によって画面が埋め尽くされていく。


「うわぁ凄いですね。こんなに視聴者がくるなんて、前代未聞じゃないですか?」

「それくらい皆がこの放送を楽しみにしていたというわけだな」


 放送慣れしている芹奈達の進行によって恙なく放送が進んでいく。

 そして、慎也達の第一回イベントについての紹介が始まった。


「今回のイベントは始まりの街の防衛戦ですね。登場する魔物は先ほどのPVでも映っていた通り『ゴブリン』『オーク』『コボルト』それと、数体ですが『トロール』が登場します」


 優香の紹介に画面上に「トロールだと!?」「まだ戦ったことがない」「これはくっ殺騎士期待」などと言ったコメントが打ち込まれる。


「そうですね。運営でもトロールと戦闘をした経験のあるプレイヤーはまだ数人しか確認していませんね」

「それって最前線で活躍している冒険者の方達ってことですよね?」

「そういうことだな。それだけ強力なモンスターが数体同時に出てくるってことだ。いくら冒険者が集まるとはいえ、協力しないとやられるかもな」


 慎也のプレイヤーを煽る発言にコメント欄が一気に埋め尽くされる。そのコメントのだいたいが、「あのプロデューサーのことだ。どうせまた性格の悪いモンスターを配置してくる」である。


 よくわかっている視聴者一同。

 それは本人達が一番理解しているようで、


「先輩、めちゃくちゃ言われてますよ……」

「よくわかっているじゃないか。今回のモンスターももちろんイベント特別仕様だ。存分に楽しんでくれることを期待しているぞ」

「うわぁ。神崎さん完全に悪役じゃないですか」

「プレイヤーにとって運営はそういうもんなんだよ」


 三人の言葉にコメントの打ち込みが加速していく。しかし、そのほとんどが「絶対にクリアしてやる」といった意気の入ったコメントで、運営である二人は満足げに頷いた。


「あぁそれと、イベント後にアップデートがあるんだっけか」

「はい、そうですね。クランシステムの導入に、新スキルの追加。そして、どこかのエリアにダンジョンが発生します。どこに発生するかは冒険者の皆さんが探索して発見してください」

「わぁーっ! それは楽しみですね!」


 優香の発言にコメントが重っていく。青い鳥で有名なアプリもトレンドに急上昇したようでお祭り状態だった。


「後、皆が気になっているであろう第二陣についてだが、絶賛企画進行中だ」

「それについては後日発表があるので、是非楽しみにしていてください」

「それでは続いて――」


     ◆


「凄い盛り上がってたね! 穂香!」

「うん、そうだね。慎也さんがあの狼作ったのかなぁ」


 ミコ放送が終わった後、【アナザーワールド・オンライン】の掲示板はスレッドが物凄い勢いで更新されていった。それはもう面白いほどに。


 曰く、「あのプロデューサーに煽られたままで黙っている俺達じゃない。絶対にクリアしてやるぞ」と。


 そう思っている時点であの人の策略どうりなんだろうなぁと思っていた穂香。

 少しずつだが彼のことが分かってきたかもと感じ始めていた。主にロクでなしな人間だと。


「それで、街の防衛どうするんだろうね。皆で協力するのかな」

「それについて掲示板でもう話し合いが始まっているみたいだよ。穂香はどうするの?」

「私は戦うのは得意じゃないから、今回は街に籠ってようかなぁ」

「えー! そうなの?」


 そんな会話を繰り広げる穂香だったが、本人はまたここで無自覚にも運営を泣かせにいってしまった。

 

 自分が行おうとしていた事が、運営が仕込もうとしたギミックに直結するということに。

 




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